ボカロP出身アーティストのライブで鳴るラウドな音 YOASOBI&Crossfaith Tatsuyaから考察
昨今、ボカロPがアーティスト活動に踏み切る例が増えてきた。そうなると課題となってくるのがライブである。ボーカロイドに限らずDTMで音楽を作る場合、その音楽性がクラブミュージック由来のものであればライブは一人で行うのが一般的。一方、ボカロPは音楽的なルーツの一つにロックを持つ者が少なくない。そうしたボカロ出身アーティストは、臨場感やグルーヴを強化するためにもライブはバンド形態で行い、サポートメンバーが帯同するケースがほとんどだ。
たとえば米津玄師のライブでは、小学校の頃からの幼馴染である中島宏士をギターに迎え入れ、ベースやドラムにはARDBECKとしても活動する須藤優と堀正輝の2人が参加している。また、Eveのライブには多くのEve作品に編曲として携わるNuma(沼能友樹)がギターで参加し、楽曲面だけでなくパフォーマンス面でも深い関わりを見せている。最近ではツミキがシンガーソングライター みきまりあとユニット・NOMELON NOLEMONを組み、幼馴染や10代の頃からの仲のメンバーたちとともにライブをするという、新たな形を模索する例も出てきている。
こうしたなかで興味深いニュースが飛び込んできた。Crossfaithのドラムを務めるTatsuya Amanoが、YOASOBIのサポートメンバーに就任したというのだ。
Tatsuya Amanoと言えば、これまでもTK from 凛として時雨や黒夢などのサポートとして参加してきた経歴を持つ日本を代表するドラマーの一人である。最近では、ホロライブEnglishに所属するVTuber・Mori Calliopeの「six feet under」(『JIGOKU 6』収録)のレコーディングに参加するなど、ネットミュージックシーンとの接点を持つ存在としても知られている。とはいえ、Crossfaithの音楽性を鑑みれば、この二者のタッグは意外だと思われても仕方ない。Crossfaithの鳴らすダイナミックかつエネルギッシュなメタルコア系サウンドと、PC一つで完結するAyaseのベッドルームミュージック的な音楽世界とは、一見すると相容れないように思える。
しかし、YOASOBIの楽曲にはラウド/ヘヴィな音楽と親和性がある作品も多く、そうした曲のパフォーマンスには正確無比で、なおかつ感情を爆発させるような力強いドラミングが欠かせない。実際、Tatsuya Amanoが参加した香港で開催された音楽フェス『Clockenflap』におけるYOASOBIのステージ映像を観ると、その必然性を感じ取れるだろう。
「勇者」では、要所で挟まれる独創的で緻密なフィルや、野心的で勇敢なスネアが印象深い。拳を突き上げてオーディエンスを煽るパフォーマンスを見せたかと思えば、平歌部分でも疾走感でバンド全体を牽引。ラストサビで見せる頭を振り乱しながら叩くその情熱的な姿は、この曲に込められた思いを深く理解し、体全体を使って表現しているかのようだ。
8ビットサウンドと現代ポップスが融合した「Biri-Biri」では、一打一打寸分も狂わずに正確に叩く様子が確認できるが、音源を聴くだけでは決して得られない生演奏特有の躍動感がある。まるでライブの場で初めて曲が完成されたかのようなライブパフォーマンスだ。