Mrs. GREEN APPLE、孤独な夜に届ける祝福のメッセージ メンバー監修プレイリストを聴いて
Mrs. GREEN APPLEが2024年最初の新曲「ナハトムジーク」を1月17日にリリース。22日には、メンバーが選曲・監修したプレイリスト「夜に聴きたいMrs. GREEN APPLE」を公開した。
2023年のMrs. GREEN APPLEといえば、結成10周年、アリーナツアー&ドームライブの開催、『NHK紅白歌合戦』に初出場、ストリーミング配信サービス3社(Apple Music、Spotify、LINE MUSIC)での国内アーティスト楽曲再生数ランキングで首位を獲得、『第65回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)での大賞をはじめとした様々な賞を受賞と、華やかな話題が続いた。ゆえに、バンドに対して何となくきらびやかなイメージを持っている人も少なくないだろう。一方、彼らの曲には寂しさや憂いが漂っていて、表向きはきらびやかでも、内実はそうではないと聴けば聴くほど分かる。
以下に引用するのは、ミセスがたびたびライブのモチーフにしている旧約聖書『創世記』の冒頭文だ。
初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。
太陽の創造は第四の日であることから、ここで言う光とは、視覚的な光とは別の、根源的な光であると仮定する。その上で、万物に光と闇=昼と夜があるとすれば、ミセスの曲を書いている大森元貴 (Vo/Gt)は、“夜”の存在をどうしても無視できない人物なのだと思う。バンドがこれまで発表してきた曲の中には、人間の業や人の心の醜い部分、大事にしたかった人やものを大事にできなかった後悔を描いたと思われるものも多い。大森は自身の内面と向き合いながら、しばしば戒めとしてメロディと言葉を紡いでいるため、時に心が抉られることもあるという。しかしそれらは、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)とともに鳴らす音楽となることで、光たり得るものに変化する。そういった彼らの音楽性、バンドとしての美しさは、認知とともに着実に広まっていて、もはや能天気でいられない、傷だらけになってもどうにか前を向くしかないこの時代に、幅広い世代から支持されている。
夜が来て、一人になると、つい思い悩んでしまう。「あの時私が言った言葉が、あの人のことを傷つけてしまったかもしれない」とか、「優しくしてもらったのに、自分のことで頭がいっぱいで、全然気づけてなかったな」とか、「勝手に分かった気になって、相手のことをちゃんと見られていなかった」とか、日中の自分の失敗が次々と頭に浮かんでくるから、なかなか眠りにつけない。プレイリスト「夜に聴きたいMrs. GREEN APPLE」には、自分たちと同じく、孤独と内省の夜に沈んでしまいがちな、この世界のどこかにいる隣人に対して、Mrs. GREEN APPLEが改めて届けたい16曲がコンパイルされている。
1曲目は、新曲の「ナハトムジーク」だ。ボーカルの音域、声の出力、バンドのダイナミクス、どれをとってもレンジが広く、心が静かに深海に沈んでいく様も、激しく自分を責め立ててしまう様も1曲の中で表現した、ミセス流“夜の音楽”の最新形にして真骨頂といえる楽曲。歌詞は自分の不器用さや〈間違い〉を愛することから始めてみようという論調で、時の経過とともに感情を解放させる歌と演奏、ラストの力強いドラムがそのメッセージを後押ししている。上手くいかなかったとしても、他者に対して〈優しくいたい〉、〈素直でも在りたい〉と思うその心自体が美しく、肯定されるべきものなのだと。一人称が“僕ら”と複数形であること、そして〈不器用な/愛しいボンクラ/等しい僕ら。〉という言葉で締め括られていることも大きなポイントだろう。この曲を1曲目に配置することで、プレイリスト「夜に聴きたいMrs. GREEN APPLE」は、部屋の隅で呟く独り言ではなく、すべての“隣人”に向けたメッセージと相成った。