気鋭の女性シンガーやUKロック勢の充実、新世代フェス台頭……2023年の来日公演を総括
「2023年の海外アーティストの来日公演の総括」というテーマでこの原稿に取り組んでいるのだが、正直なところ猛烈に頭を抱えている。というのも、軽く思い出してみるだけでもキリがないくらい、たくさんのアーティストが来日しており、それだけでどんな方向にも話を広げることができてしまうからだ。そもそも筆者自身、いろいろなライブに足を運んでいたとはいえ、そのすべてをカバーしているとは全く思えない(『FUJI ROCK FESTIVAL』だって行けなかったのだ)。連日のようにアナウンスされる来日公演のニュースを見続けているうちに、喜びの声がやがて「さすがにもう、時間もお金も無理!」という悲鳴に変わっていったのは筆者だけではないだろう。
しかも、年が終わるとはいえこの流れに区切りがついたかというと、決してそんなことはなく、年末年始もまだまだたくさんの来日公演が控えており、トドメと言わんばかりに大晦日の『第74回NHK紅白歌合戦』にはQueen + Adam Lambertの出演が決定している。というわけで、本稿ではあくまで筆者が今年観た(あるいは観たかった)ライブを中心に、それとなく文脈を感じられるような内容に仕上げていくが、「これが正解」というよりは、この記事をちょっとしたきっかけにして、それぞれがこの1年を振り返っていただければ幸いである。
観たかった「あの瞬間」がついに目の前に
来日公演の醍醐味といえば、それまでニュースやSNSなどを通して見聞きしていた場面が、実際に目の前に広がる瞬間であることは間違いないだろう。ジョン・フルシアンテ復帰後初の来日公演となったRed Hot Chili Peppersのドーム公演(2月)や、昨年の音楽シーンを代表する大ヒット曲「As It Was」を見事にクライマックスに響かせたハリー・スタイルズ(3月)、『Glastonbury Festiva』でのパフォーマンスも大きな話題となっていた『The Big Steppers Tour』の全貌がついに明らかになったケンドリック・ラマーの『SUMMER SONIC 2023』ヘッドライナー公演(8月)など、今年も「これが観たかった!」という瞬間の数々に興奮させられる1年だったように思う。
他にも、待望の日本初公演ということもあり、最大規模のステージにも関わらず入場規制を引き起こしたNewJeansの『サマソニ』でのステージや、昨年の初来日の勢いをそのままに、近年の海外ロックバンドとしては異例とも言えるほどの凄まじい熱狂を巻き起こしたMåneskinのジャパンツアー(12月)、近年のポップパンクリバイバルの流れを受けて絶賛再評価中のMy Chemical Romanceによる再結成後初の来日公演が実現した『PUNKSPRING 2023』(3月)なども間違いなくハイライトと言えるだろう。もちろん、そうした「あの瞬間」はそれぞれのリスナーによって異なるものであり、それぞれが自分なりの答えを持っているのではないだろうか(個人的には、『NEX_FEST 2023』に出演したBring Me the Horizonが「LosT」を披露した瞬間を挙げたい)。
年の初めを力強く彩った、女性アーティストの来日ラッシュ
ここからは、そうした個々人の「瞬間」が最も大事であるという前提の上で、いくつかのトピックについてまとめていきたい。個人的にこの1年を振り返った時に、特に印象的だったのが、年始における女性アーティストの来日公演ラッシュである。最新作『Screen Violence』の世界観をステージへと広げ、「FINAL GIRL」と描かれたTシャツを着た血塗れのローレン・メイベリーの姿が強烈なインパクトを与えたChvrchesを筆頭に、まるでスタジアムロックのようなスケール感を炸裂させていたリナ・サワヤマ、開放的で自由なムードと想像以上のパンキッシュなパフォーマンスで大盛り上がりだったgirl in redという3組のライブがすべて1月に開催され、2023年の始まりを力強いエネルギーによって彩っていた。
さらに、『サマソニ』にも出演したWet Leg(2月)や、boygeniusの活動でも2023年のシーンを盛り上げていたフィービー・ブリジャーズ(2月)、さらにはコンセプトの異なる2種類の公演が行なわれたビョーク(3月)とその勢いは続いていき、最新作が今年を代表する1枚として語られているケレラ(9月)やキャロライン・ポラチェック(7月、11月)、あるいは活況を見せるUKクラブシーンを象徴する存在であるニア・アーカイヴス(9月)といった、まさに「今」観たいアーティストがベストなタイミングで来日を果たしたのも嬉しいサプライズだったように思う。個人的には午前中の幕張メッセを爆音とともに一気に目覚めさせた、Nova Twinsのサマソニでの豪快なパフォーマンスをハイライトとして挙げたいところだ。
色褪せることなく輝き続ける、UKのスタジアムロック
90年代前半生まれ・UKロック好きの筆者にとって、今年、特に感慨深かったことの一つが「BlurとOasisを体感したこと」である。もちろん、BlurはともかくOasisは再結成しそうでしない状況が続いているわけだが、新たなキャリアハイを迎えたギャラガー兄弟の姿を(別々ではありつつ)ともに観ることができたのは素晴らしい体験だった。『サマソニ』に出演したBlurとリアム・ギャラガーのステージでは、どちらも単なるノスタルジアとは無縁の堂々たるスタジアムロックが炸裂し、デーモン・アルバーン(Vo)が観客から受け取ったレインボーフラッグを背負いながら歌った「Girls And Boys」や、リアムが「ケンドリック・ラマーに捧げる」と告げて披露した「Champagne Supernova」など、90年代の名曲が今を生きる私たちとしっかり繋がっていく様子を見ることができたのも強く印象に残っている。一方のノエル・ギャラガー(Noel Gallagher's High Flying Birds)も、12月の単独公演では丁寧かつ重厚に自らのキャリアを提示するような見事なパフォーマンスを披露し、4月に来日公演を開催していたボブ・ディランのカバーや、直前に訃報が伝えられたシェイン・マガウアン(The Pogues)に捧げられた「Live Forever」に、美しく紡がれていくUKロックの歴史を感じたものだ。
UKのスタジアムロックといえば、11月に開催されたColdplayの東京ドーム公演にはやはり触れておきたいところである。90年代のロックシーンの影響を強く受けながらも、その中で新たな方向性を模索していた2000年代を代表する存在となり、今ではあらゆるポップアーティストを凌駕するほどのスタジアムライブで知られるようになった彼らだが、その壮大な演出とサステナビリティの両立を実現させた最新作『Music Of The Spheres』のワールドツアーは、ステージ上から発信された反戦のメッセージも含め、まさに2023年におけるアーティストのあるべき姿を提示していたように思う。今年の春にはArctic Monkeys、スティング、The 1975、Ride、Slowdiveといった様々な世代やシーンを代表するアーティストが来日したこともあり、UKロック好きにはたまらない1年となったのではないだろうか。