藤原さくら、『週刊空港』で提示した歌声の新たな表現 熟練のバンドメンバーを引っ張る頼もしい姿も

藤原さくらが提示した歌声の新たな表現

 藤原さくらのワンマンライブ『週刊空港(エアポート)』が10月、東京・WWW Xにて4週にわたって開催された。

 『週刊空港』は、今年5月に通算4枚目のアルバム『AIRPORT』をリリースした藤原が、それを携えて行なったライブである。アルバムタイトルにちなみ、10月3、9日の公演は「Terminal1」、17、24日の公演は「Terminal2」と銘打ち、それぞれで異なるバンドメンバーを率いてパフォーマンスを披露した。

 筆者が観に行ったのは、「Terminal2」の2日目となる10月24日。4週にわたって開催されてきた『週刊空港』の最終日ということもあり、名うてのプレイヤーたちと共に登場した藤原は、終始リラックスした様子で全18曲(アンコールを含む)を歌いきった。

藤原さくらライブ写真

 「Terminal1」では、中西道彦(Ba)、梅本浩亘(Dr)、関ロシンゴ(Gt)、松井泉(Per)、Meg(Cho)を迎えてライブを行った藤原。続く今回「Terminal2」では、バンドマスターの高桑圭(Ba)をはじめ、山本達久(Dr)、名越由貴夫(Gt)、伊澤一葉(Key)、そして「Terminal1」に引き続きMeg(Cho)という編成。定刻となり、まずはアルバム『AIRPORT』から「My Love」を演奏した。

藤原さくらライブ写真

 音の隙間を生かしたミニマルなサウンドスケープに体を委ねながら、アコギを爪弾き一つひとつの言葉を確かめるように歌う藤原。その倍音をたっぷりと含んだ唯一無二のボーカルに、弓で弾く高桑のウッドベースがそっと寄り添う。寄せては返す波のように、長いクレッシェンドをゆっくりと繰り返しながら、徐々に熱を帯びていくアンサンブルが印象的だった。

藤原さくらライブ写真

「みなさん、お元気でしたか? 今日はワンマンライブ最終日ということで、最後まで楽しんでいってください」

 そう挨拶し、「Just the way we are」のカントリー風味のイントロが響き渡ると、オーディエンスから自然発生的にハンドクラップが鳴り響いた。抑制の効いた山本のドラム、粘り気のある名越のスライドギター、そして高桑のふくよかなウォーキングベース。藤原が得意とする、このフォーキーでどこか哀愁が漂う楽曲を演奏するにあたり、これ以上のメンツはないだろう。続く「Cigarette butts」は、裏拍を強調した藤原の激しいカッティングがアンサンブルの要。連戦練磨の熟達したミュージシャンに囲まれながら、それに臆することなく(あるいは甘えることもなく)彼らを引っ張っていく姿は頼もしい限りだ。

 「今回は、『Terminal1』と『Terminal2』でバンドセットを丸ごと変えてみたんです。しかも同じ箱で4daysとかではなくて、毎週ワンマンっていうのはあんまりない企画ですよね。毎回バラしてまた組んで……というのは本当に大変だったんですけど(笑)、でも毎回楽しくて仕方なかったです」。新しいチャレンジが彼女にとって、いかに充実したものだったかを笑顔で話した後、「迷宮飛行」「Feel the funk」とアルバムの中でもアッパーな楽曲を続けて披露。ムジカ・ピッコリーノでもお馴染み、伊澤によるケレン味たっぷりのシンセサウンドがアンサンブルを妖しく彩っていく。

 ミラーボールが回る中、ステージをゆっくりと練り歩きながらハンドマイクで歌う藤原は、これまでのライブに比べてグッと大人っぽくなった印象だ。決して歌い上げるわけではなく、ブルージーに音をフラットさせたかと思えば、時には語りかけるように、時にはため息をつくようにメロディをあえて崩していく。ジャズシンガーにも通じるようなそうしたアプローチは、近年行われた大野雄二とのコラボや黒田卓也との音楽的交流などが、少なからず影響を与えているのではないだろうか。

 音源では極上のポップアレンジだったYaffleとのコラボ曲「わたしのLife」も、APOGEE・永野亮と作り上げた「Kirakira」も、この日のメンツで演奏することによって全く新しい魅力が引き出されていた。ニュアンスを重視した藤原のボーカルに反応するかのように、テンポも抑揚も変幻自在なアンサンブルはまるで一つの生き物のようだ。

藤原さくらライブ写真

 「せっかく今日は、カーリーさん(高桑)がいらっしゃるので、私がボーカルで参加させてもらったCurly Giraffeの曲をやろうと思います」。そう言って演奏されたのは「LA」。高桑の包み込むような優しい歌声と、藤原のスモーキーな歌声が、時に掛け合い時に混じり合う。「Waver」を経て披露された「いつかみた映画みたいに」は、VaVaをプロデューサーに迎えたヒップホップチューンだが、この日は名越のスペイシーなギターと伊澤の歪んだピアノのコントラストによって、楽曲が持つカラフルな魅力を再現していた。

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