藤原さくらが見つめ直した“身近な愛の在り方” VaVaや斉藤和義との刺激的な共作から生まれた新境地について語る

藤原さくら、身近な愛の在り方

 シンガーソングライター 藤原さくらによる通算4枚目のアルバム『AIRPORT』が5月17日にリリースされた。前作『SUPERMARKET』からおよそ2年半ぶりとなる本作は、Yaffleプロデュースによる「わたしのLife」や、CMでも話題となった大滝詠一のカバー「君は天然色」など既発のシングル5曲に加え、前作でタッグを組み藤原の新境地を切り拓いたトラックメーカー VaVaや、ツアーサポートでもお馴染みの中西道彦(Yasei Collective)、そして斉藤和義との共作曲など書き下ろしの7曲を加えた全12曲入り。アコースティックギターの弾き語り曲から、新緑の季節にぴったりの爽やかなエレクトロポップチューンまで並んでおり、まさに人やものが行き交うエアポートのように風通しの良い作品に仕上がっている。昨年よりおよそ1年にわたって全国47都道府県で開催された『弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”』を終えたばかりの藤原に、新作の制作エピソードなどをたっぷりと語ってもらった。(黒田隆憲)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

藤原さくら – 4th Album『AIRPORT』(Digest Video)

「“自分一人だったらこうはならない”という展開が浮かぶのが楽しい」

――『SUPERMARKET』からおよそ2年半ぶりのフルアルバム『AIRPORT』が完成しました。前作は様々なミュージシャン、プロデューサーを迎えてタイトルどおりスーパーマーケットのような、色とりどりの楽曲が並んだアルバムでしたが、今作はどんなテーマやコンセプトがあったのでしょうか。

藤原さくら(以下、藤原):『SUPERMARKET』から2年半というのは自分としてもびっくりなんですけど(笑)、そこから今作の間にも何曲か配信でリリースしていた曲があったので、それはまずアルバムに入れようと。そこからアルバムに向けて、どんなタイプの楽曲を作っていけばいいかを考えた時に、例えば『SUPERMARKET』で「生活」という曲をVaVaさんと作った時のように、誰かにトラックを作ってもらって、そこにメロディをつけていくという手法を踏襲することで、統一感を出したら面白いんじゃないかと。「My Love」や「話そうよ」みたいな、ちょっと例外の曲もあるんですけど、基本的にはトラックありきで作った楽曲が多くなりましたね。

――既発曲ではYaffleさん(「わたしのLife」)やAPOGEEの永野亮さん(「Kirakira」「君は天然色」)、高桑圭さん(「まばたき」)など様々なプロデューサーを迎えていますが、アルバム書き下ろし曲はVaVaさん、中西道彦さん(Yasei Collective)が2曲ずつプロデュースを担当していて、それがアルバムのトーンを決めていると思いました。

藤原:なるほど、確かにそうですね。

藤原さくら

――VaVaさんとの共作について、以前のインタビューで藤原さんは「まずトラックありきでそこにラップを乗せていく」というヒップホップスタイルの作曲プロセスは、「戸惑うことの連続だった」とおっしゃっていましたよね?(※1)

藤原:そうなんです。「生活」を作ったときは、最初メロディが全く出てこなくて。それまで自分はアコギやピアノを弾きながらメロディを考えていたので、VaVaさんならではのリズムパターンやトラックの響きに対し「どうやったらここにメロディをつけられるんだろう?」と。でも今回は、その時の経験のおかげで慣れたのもあって、いろいろなアイデアがどんどん出てくるようになったんです。そうすると、「自分一人だったら絶対こうはならないだろう」と思うような展開やメロディが浮かぶのが楽しくて。

――「いつか見た映画みたいに」はコード進行や展開ももう少し凝っているし、ループではなく「ソング」になっていますね。

藤原:おっしゃる通りこの曲は「ヒップホップというよりは、ガッツリJ-POPを作りましょう」「ちゃんとキャッチーな曲にしたいですね」というところから始まっています。なので「生活」とは作り方が若干違いますね。

藤原さくら – いつか見た映画みたいに (Lyric Video)

――きっとVaVaさんにとっても、さくらさんとの共作はチャレンジングだったのでしょうね。では「Feel the funk」は、どのように作ったのですか?

藤原:この曲は割とすんなりメロディが出てきて。「英語詞にしようかな」と思ったんですけど、他の曲がちゃんと意味のある歌詞が多かったから、何も考えてなさそうな内容にしたいと思ったんです(笑)。とにかくフィーリング重視のノれる曲。なので、まず私がデタラメ英語で歌ったデモを作詞のマイキー(Michael Kaneko)さんに投げて、「今、私が仮で歌っている言葉の響きをなるべく生かしたまま、英詞に直してほしい」と、かなり無茶なリクエストをしたんです(笑)。なのでミックス作業の時、マイキーさんと「Feel the funk」の和訳を考えながら「ちょっとこれヤバい歌詞になったね」って。

――(笑)。この曲のエレピやベースも躍動感があっていいですよね。これもVaVaさんが打ち込んでいるんですか?

藤原:そうなんですよ。VaVaさんは「生活」の制作の時、パソコンのデスクトップにミニ鍵盤を立ち上げて、それをパソコンのキーボードでタイプしながらフレーズを作っていて、本当にビックリしました。

藤原さくら

「引き返すことなく思う存分楽しんでやるぞという覚悟」

――中西さんとの共作は、どのように行われましたか?

藤原:『SUPERMARKET』を出してすぐくらいだったかな。「わたしのLife」とほぼ同時期に、「放っとこうぜ」をレコーディングしたんです。ミチさん(中西)と別所(和洋)さんに参加してもらったのですが、その時もいろんなアイデアを出していただいて楽しくて。今回はドラムとベースの立った曲が作りたかったので、シンセベースも弾けるミチさんと一緒にやったら面白いものができそうだなと。これまでプロデュースワークをそんなにやってこなかったらしいんですけど、「興味ありますか?」とお声がけしたら引き受けてくださり、「ブリブリのダンスチューンを作りましょう」という話をしました。それででき上がったのが「迷宮飛行」と「Wonderful time」です。

――実際にやってみていかがでしたか?

藤原:カッコいい曲ができて大満足です。ミチさんとはほとんどデータのやり取りだったのですが、とにかく作業が早い方で超スムーズでした。夜中だろうが朝方だろうが、メールを投げるとすぐに返ってくるからありがたかったです(笑)。私もミチさんと一緒に作った曲は、仮のメロディを送る段階で、歌詞もある程度一緒に出てくることが多くて。そのまま、ほとんど変わらず進んでいきました。

――恋人とのすれ違いについて書かれた「迷宮飛行」の歌詞は、今までよりも一歩踏み込んだ内容になっていますね。

藤原:今作の曲順は、「わたしのLife」で離陸して「mother」で着陸するという流れを意識しているのですが、「迷宮飛行」はフライト中に起きた最初の乱気流という感じです(笑)。今回ヒップポップっぽい作り方をしている歌詞が多いんですけど、私は当然ラッパーではないので、あくまでも私なりのラップを目指しています。

藤原さくら – わたしのLife(Music Video)

――この曲と、「Wonderful time」に使われているシンセサウンドも印象的で、アルバムのカラーを特徴づけていると思いました。

藤原:最初に「こういうアーティストの、こういうアレンジがカッコいいよね」みたいなことを言い合いながらアレンジを進めていきました。ちなみに「Wonderful time」は、松井泉さんにパーカッションをお願いしています。ミチさんと松井さんは、野音(『藤原さくら 野外音楽会 2021』)でもご一緒している仲の良いお二人なので、レコーディングもすごく楽しかったです。

――「Wonderful time」のジャジーな雰囲気は、大野雄二さんとのコラボレーション(『~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~映画『ルパン三世 カリオストロの城』 シネマ・コンサート! and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!』や「BITTER RAIN」)の影響も大きいですか?

藤原:ああ、なるほど。自分では意識はしていなかったですが、確かに最近は大野さんとのコラボだけでなく、『JAZZ AUDITORIA』という、国際ジャズデーを祝うイベントでMCをさせてもらったりとか、ジャズシーンの方とご一緒する機会がすごく増えていて。もともとジャズが好きでよく聴いていたし、そういう部分をミチさんが引き出してくれたかもしれません。

――『JAZZ AUDITORIA』では、ジャズトランペット奏者・黒田卓也さんとも共演していましたね。

藤原:黒田さんは、私が出演した映画『銀平町シネマブルース』で音楽を担当されていて。ご本人も出演していたのがきっかけで、仲良くさせてもらっています。黒田さんにニューヨークからトラックを送ってもらって、一緒に曲を作ってBLUE NOTE (TOKYO)で披露したりしました。それも、自分だったら絶対に思いつかないようなアイデアをたくさん詰め込んでいただいて。とっても楽しかったです。

藤原さくら

――「Wonderful time」に話を戻すと、〈沖に出たなら 進むの/わたし ここから 逃げたくはない〉という歌詞が印象的です。

藤原:私にとっての「Wonderful time」は、やっぱり“音楽をすること”なんですよね。デビューして8年経ちますが、これまで弾き語りやバンド編成、打ち込みなど様々なチャレンジをし続けてきたタイプだとは思っていて。好きなことを仕事にするってなると、いろんな迷いや葛藤がどうしても出てきますが、船を漕ぎ出して沖まで来たからにはもう、引き返すことなく思う存分楽しんでやるぞと。そういう覚悟をここで表明できたらと思いました。

――音楽だけでなくドラマや映画、舞台など本当にいろんなことにチャレンジし続けてきたさくらさんですが、「逃げたい」と思ったこともありますか?

藤原:最初はもちろん「やりたい!」と思って始めるし、最終的に「やってよかったな」と思うことがほとんどなのですが、実際にやり始めてみて「このスケジュールで一体どうやって消化するんだ……?」と途方に暮れ、全部リセットして海とか見に行きたくなる衝動にかられることはあります(笑)。とはいえ自分で決めたことだし、〈ここから 逃げたくはない〉という感じですね。

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