藤原さくら、アットホームな空間に深く染み渡った歌 弾き語りで47都道府県を巡ったツアー『heartbeat』ファイナル

藤原さくら、弾き語りツアーファイナルレポ

 シンガーソングライターの藤原さくらが、昨年5月より行なってきた47都道府県、全52公演『弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”』のツアーファイナルを4月21日と22日、東京・三越劇場にて開催した。

 本ツアーは、神戸を拠点に全国各地の様々な場所で音楽イベントの企画やツアーサポートを行なっている「Cow and Mouse」のサポートのもと、能楽堂(福岡県・大濠公園能楽堂)やプラネタリウム(宮城県・仙台市天文台)、牧場(千葉県・マザー牧場)など普通のコンサートホールとは趣の異なるユニークな場所を回ってきた。ファイナル公演に選ばれた三越劇場も、1927年に三越ホールとして開場し、古典芸能と大衆娯楽の復興に貢献してきた由緒正しい劇場である。

 筆者が訪れたのは22日。定刻となり、豪華絢爛な緞帳がゆっくりと上がるとステージ中央にはカーペットが敷かれ、2本のアコースティックギターと椅子、そして飲み物などを置く小さなテーブルが設置されている。やがて現れた藤原が客席に向かって深く一礼すると、大きな拍手が鳴り響いた。

 まずはPeter, Paul and Maryらが取り上げヒットしたアメリカのスタンダードナンバー「500マイル」からライブはスタート。日本語詞は、福山雅治主演のドラマ『ラヴソング』(2016年/フジテレビ系)でも取り上げられた忌野清志郎(HIS)によるものだ。まるで1音ずつ確かめるよう、丁寧にアルペジオを爪弾く藤原。しかし中盤の、〈帰りたい心 抑えて/抑えて/抑えて/抑えて〉と歌われるところでは、まるで心の内をギターにぶつけるかのように、力強くストロークする姿が印象に残る。

 続く「Summertime」は、ジャズのスタンダードナンバーとして長く親しまれているジョージ・ガーシュウィンの楽曲だ。右手の親指でベース音を刻みながら、残りの指でコードを“じゃらん”と鳴らし、そこにアンニュイな歌声を滑らせる。そういえば藤原は2022年、東京国際フォーラムホールAで開催された『映画「ルパン三世 カリオストロの城」シネマ・コンサート!and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!』にて「炎のたからもの」(映画『ルパン三世 カリオストロの城』主題歌)をカバーしたが、その時の素晴らしいパフォーマンスをも想起させた。

 「今日で本当にツアーが終わるという、この記念すべき日に来ていただきありがとうございます」と挨拶。「これで52公演目になるんですよね。すごくない? これだけやっても、まだしっかり緊張してる。こんなに緊張できるんだって思いました」と話し、場を和ませた。

 Yaffleをプロデューサーに迎えた「わたしのLife」を、ここでは足で踏み鳴らすパーカッションのリズムに合わせて披露。メジャーとマイナーを行き来する入り組んだコード進行や、地声とファルセットを混ぜながら歌われる浮遊感あふれるメロディなど、オリジナル音源よりも音数をぐっと絞り込んだからこそ、この曲のストレンジな魅力を再認識させられる。個人的には、藤原がフェイバリットアーティストとして真っ先に挙げるポール・マッカートニーの、ソロ第1作『McCartney』(1970年)の世界観を思い出した。

 Ovallの関ロシンゴと制作した「Waver」は、打ち込みによるカホンのリズムをバックに演奏。どこかジャック・ジョンソンやドノヴァン・フランケンレイターらを彷彿とさせる、海と夕陽が目の前に広がるようなアレンジ。さらに、映画『3月のライオン』の主題歌として2017年にカバーしたスピッツの「春の歌」、アルバム『PLAY』(2017年)収録曲の「sakura」、そして童謡「春が来た」と、「春」や「桜」にちなんだ楽曲を続けて演奏。「もう桜は散ってしまったけど、日本橋には満開の“さくら”がいますからね」と、自分の名前をもじったジョークで会場を笑わせる一幕もあった。

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