藤原さくら、ファンと分かち合ったライブの存在の大きさ 『SUPERMARKET』中野サンプラザ公演レポ

藤原さくら『SUPERMARKET』中野サンプラザレポ

 藤原さくらのワンマンライブ『Sakura Fujiwara Live 2021 SUPERMARKET』が4月9日、東京・中野サンプラザホールにて開催された。

 本公演は、昨年10月に通算3枚目のオリジナルアルバム『SUPERMARKET』をリリースした藤原が、それを携えて行ったもの。もともと今年1月に東京でのみ開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期となり、今回はソーシャルディスタンスの確保など感染防止対策を講じた上での開催となった。LIVEWIREおよびローチケ LIVE STREAMINGにてライブ配信も同時に行われ、およそ1年4カ月ぶりとなる彼女のワンマンライブを多くの人たちが楽しんだ。なお、4月18日には福岡・Zepp Fukuoka、19日には大阪・なんばHatchの2カ所で追加公演も行われている。

 会場に到着すると、館内では『SUPERMARKET』収録曲がインストバージョンにアレンジされて流れている。しかも、なぜかイージーリスニング風。後のMCでそれは、「スーパーマーケットでかかっているようなBGM風に」という藤原からのリクエストを受け、サポートベースの中西道彦(Yasei Collective)が制作したものだと分かる。ちょっぴり間の抜けた可愛らしい音楽で始まる前からフロアは和やかな空気に満たされていた。

 18時を過ぎ、春らしいグリーンのジャケットを羽織った藤原が、別所和洋(Key)、大内満春(Sax)、佐瀬悠輔(Tp)、Yasei Collectiveの松下マサナオ(Dr)、中西道彦(Ba)、斎藤拓郎(Gt)とともにステージに現れる。エレピの柔らかなリフに導かれ、まずは『SUPERMARKET』から「生活」でこの日のライブはスタートした。トラックメーカーのVaVaをプロデューサーに迎えて制作されたこの曲は、ステイホーム期間中の日々を綴ったヒップホップ調のナンバーだが、この日はトランペットやサックスを含むアンサンブルにアレンジされている。藤原はエレピの前に座り、時々手振りを加えながらハンドマイクで歌う姿が新鮮だった。

 続く「Waver」は、Ovallの関ロシンゴと共に作り上げたアーシーなミドルチューン。まるで夕焼けに染まった海をバックに歌っているような、オレンジを基調とした照明が楽曲の雰囲気を一層盛り上げる。藤原はエレキギターを抱え、ソウルフルなアルトボイスとサビのハイトーンを巧みに使い分けながら、切々と歌い上げた。

 ミツメの須田洋次郎ら、2019年のライブハウスツアーメンバーと作り上げたソリッドなインディーロック「Ami」も、この日のメンツで演奏されるとまた一味違った魅力を放つ。抑揚を抑えた青い炎のようなグルーヴに、心も体もじわじわと温まるようだ。そして、mabanuaプロデュースのもと作り上げた「Sunny Day」(2018年)、1stアルバム『good morning』に収録された初期代表曲「かわいい」と、少し懐かしめのナンバーを続けて披露し、会場はピースフルなムードに包まれた。

「ここからは、ちょっとしっとりとした曲たちを」

 そう藤原が言って始まったのは、彼女がセルフプロデュースで作り上げた「marionette」。Curly Giraffeこと高桑圭(Ba)、小林創(Piano)そして松下を迎え、音数を極限まで絞り込んだ緊張感あふれる演奏が、アルバムの中でも一際異彩を放っていた楽曲だ(個人的に『SUPERMARKET』の中で最も好きな曲)。この日は松下のドラムと斎藤のエレキギター、そして中西のベースを基調としたアンサンブルで、ライブならではの迫力と臨場感でオーディエンスを魅了した。

 さらに、場末のナイトクラブを彷彿とさせる紫の照明の下での「コンクール」、キャッチーなベースラインに自然とハンドクラップが湧き上がった「Monster」と、冨田恵一をプロデューサーに迎えた楽曲を続けて演奏し、会場のボルテージも最高潮へ。アルバムの最後に収録されていた小曲「楽園」を、藤原がアコギ1本で弾き語りした後は、バンドメンバーとのセッションタイムに突入。藤原が演奏する、エレピのシンプルかつキャッチーなフレーズに呼応しながら、まるで一つの生き物のように一体となった親密なアンサンブルに興奮していると、間髪入れずに「Super good」へとなだれ込んでいく。藤原はタンバリンを片手にステージの端から端まで練り歩きながら、ちょっと照れ臭そうに客席へ笑顔を向けると、オーディエンスもマスクの下に(おそらく)満面の笑みを浮かべながらそれに応えた。

 さらにYAGI & RYOTA(SPECIAL OTHERS)がプロデュースした「BPM」を、思わず笑ってしまうくらい超絶テクニックで再現。会場を沸かせた後は、斎藤のボコーダーが印象的だった「Right and light」、幻想的なドリームポップへとアレンジされた「The Moon」など、切ない楽曲でオーディエンスの胸を締め付ける。中野サンプラザの赤いカーテンを強調するような、赤い照明の中で演奏されたその名も「赤」では、疾走感あふれるシャッフルビートに合わせて藤原がソウルフルかつワイルドに歌い上げ、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。

 「今までは、アルバムを出せばすぐにライブをやっていたので、こんなに焦らしに焦らされたのは初めてでした。自分にとって、ライブの存在の大きさを改めて感じましたし、当たり前のことじゃないんだなって思いました」と、コロナ禍でなかなかライブができなかったもどかしさと、今日の日を迎えた喜びを伝える藤原。「自分がやりたい音楽に挑戦しながら、こうやって披露するのが音楽活動だと思うので、これからもみんなに楽しんでもらえる曲をたくさん作っていきたいです」と、一つひとつ言葉を噛みしめながら今後の展望を話すと、会場からはまた温かい拍手が。本編最後は、スカートこと澤部渡と作り上げた名曲「ゆめのなか」を演奏した。

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