“XIIXとは何か”を表明したセルフタイトルツアー 斎藤宏介と須藤優による自由な音楽の広がり

XIIX、LINE CUBE SHIBUYAレポ

「(XIIXの活動は)最初に想像していたものとはだいぶ変わってきているけど、やればやるほど楽しくて、“今最高に楽しい”、“めっちゃ楽しい”という気持ちだけでライブすることができてます。今後のXIIXはもっともっとカッコよくなっていくんじゃないかという確信めいたものがありますので、ぜひ、またライブに遊びに来てください」

 XIIXが全国8カ所を巡ったツアー『XIIX LIVE TOUR 「XIIX」』が終了した。今年7月にリリースされた3rdアルバムのレコ発ツアーであると同時に、バンド自身の名前を冠したセルフタイトルツアー。バンドメンバー同士の有機反応を楽しみながらのライブアンサンブル、そして観客を楽しませながら巻き込むというライブエンターテインメントとしてのステージングで表現されていたのは、斎藤宏介と須藤優を起点とした、XIIXの世界の“広がり”。音楽とはこんなにも自由で、可能性に溢れていて、開かれているのだという希望に満ち溢れたツアーとなった。アルバム3作分の歳月を経て、2人にとってのXIIXとは、ミュージシャンとしての本来的な喜びを噛みしめられる場所になりつつあるのではないだろうか。

 この記事では、10月20日の東京・LINE CUBE SHIBUYA公演をレポートする。遡ること4年前。デビューに向けて準備を重ねていた斎藤、須藤がスタッフから「そろそろバンド名を決めないとCDを出せません」と最終勧告を受けた日が2019年10月20日であり、「10月20日だし、テントゥエンティでよくない?」と思いついたことが、ローマ数字を組み合わせたバンド名の命名のきっかけだった――。そんなエピソードがMCでも語られた通り、10月20日はバンドの記念日で、つまりこの日はメモリアルなライブ。

 2人は「毎年何かしなきゃっていう楽しい悩みができた」「18年目辺りでネタ切れしそう」と笑っていたが、今年は何が行われたのかというと、まず、今年8月のワンマンで収録された「うらら」のライブ音源を配信リリース。さらにこのLINE CUBE SHIBUYA公演では、「魔法の鏡」の歌詞をコライトしたandropの内澤崇仁がサプライズ出演し、斎藤、須藤、内澤の3名でアコースティックバージョンの「魔法の鏡」を披露した。他では聴けない、そして約10日前に急遽決まったとは思えないほどクオリティの高いセッションが実現したのはもちろん、「実は最初はお酒の歌にしようかと思った」、「XIIX=線対称というイメージから、鏡というモチーフを思いついた」など、「魔法の鏡」制作エピソードが内澤本人から語られたことも含めて、貴重なシーンだった。

 そんな特別な日のライブを改めて振り返りたい。今回はバンド編成でのツアーで、夏の東名阪ツアー『2&5』に引き続き、サポートメンバーは粂絢哉(Gt)、岡本啓佑(Dr)、山本健太(Key)の3名。「“XIIXとは何か”を一つのライブで表現したい」という斎藤の発言もあったように、現時点での総決算的なライブが繰り広げられた。開演とともに流れてきたのは、3rdアルバム『XIIX』を聴いたリスナーならば馴染みのあるリフを組み込んだSEで、そこからシームレスに「シトラス」に入る流れは非常にスマート。そしてステージ上空。光線によって描かれる、バンドのロゴを崩した形にも、香水の瓶のようにも見える抽象的な図形は何だろうか。不思議な魅力を放つ光の演出とクリアに響くバンドのサウンドが一体となったライブのオープニングは美しく、観る者の視覚と聴覚、想像力を刺激する。ここで「東京、こんばんは。XIIXです!」と斎藤が挨拶。彼の刻むリズミカルなバッキングが、2曲目の「E△7」を導いた。

 本編のセットリストは、起承転結の4ブロックに区切ることのできる構成だった。ライブの導入にあたる“起”のブロックは、ギターのコードネームがタイトルになっている「E△7」をはじめ、音楽に臨む彼らの心持ちを歌った曲が多いように感じた。3曲目に披露された「ユースレス・シンフォニー」は、“不要不急”という言葉が飛び交っていた2020年春に生まれた曲(※1)。音楽に価値を見出す同志として観客を歓迎する気持ちを晴れやかなバンドサウンドに乗せて届けると、続く「Vivid Noise」では、5人によるソロ回しが披露された。

 「大切なバンド名をつけたツアーということで、最高なライブにならないわけはないですよね。どうかみなさん一緒に、スゲーところまで行きましょう」という斎藤のMCが導入となった“承”のブロックは、須藤のシンセベースがうねる「おもちゃの街」からスタート。イントロのメロディはベースでしっとりと、主にリズム隊の手捌き、タイム感が音源よりもジャズ/ヒップホップ色濃いめだった「Fantome」を経て披露されたのは、3rdアルバム収録曲で今ツアーでライブ初披露の「次の朝へ」。大きなスケールを描くバラードではあるが、こちらもバンドのリズム&グルーヴを打ち出したアプローチで、この2曲の並びはかなりしっくりきた。それにしても、鍵盤の連符を奏でる中、ボーカルが裏拍から入る「タイニーダンサー」の冒頭は相当な難易度ではないか。しかし斎藤と山本のコンビネーションは抜群。フレーズとフレーズが有機的に結びつき、大きく飛翔することで、この楽曲、このバンドならではのダイナミズムが生まれていく。

 そして「ここから先は、XIIXのもっと深いところまで潜っていきたいと思います」(斎藤)と、自己との対峙がテーマの楽曲「魔法の鏡」から始まった“転”のブロック。「アカシ」、「月と蝶」とアッパーチューンが続く中、歌い出し一言目で観客の視線を自分に集める斎藤のボーカルの気迫にぞっとした。〈足りない〉と繰り返す歌詞に合わせて、スケールを駆け上がっていく須藤のベースフレージングも刺激的。そうして斎藤&須藤のスーパープレイヤーぶりを改めて感じていると、ここで“2人”というXIIXの原点に立ち返るパートが挿入された。須藤の独奏曲「4:43 AM」と、斎藤も加わっての二重奏曲「曙空をみつけて」。ステージと客席の間に下りてきた透過スクリーン越しに、2人が共有している呼吸や間合いも伝わってくる。透過スクリーンに映るのは満天の星空。2人の背後にあるもう1枚のスクリーンに映るのは桃色の空。2枚のスクリーンに映る空の色が、時の流れとともに変化していく演出も印象的だった。

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