アイナ・ジ・エンド、CHARA、Salyu……孤独や痛みに寄り添う歌 『キリエのうた』に向けて振り返る“岩井俊二×小林武史”の音楽

 岩井俊二の脚本・監督による映画『キリエのうた』が10月13日に公開される。主演はアイナ・ジ・エンド。音楽は小林武史が担当する。岩井、小林がタッグを組んだ音楽映画は、『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)に続き、3作目となる。本稿では3作のために作られた楽曲を軸にしながら、“岩井俊二×小林武史”の魅力を紐解いてみたい。

 1996年に公開された『スワロウテイル』の主題歌は「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」。主演のCHARAがボーカルを務める劇中バンド・YEN TOWN BANDによるミドルバラードだ。

 『スワロウテイル』の舞台は、現実とは異なる歴史を辿った日本の街・円都(イェン・タウン)。上海からこの街にやってきた娼婦のグリコ(CHARA)は、孤児の少女を引き取る。グリコを強姦しようとした男が死亡し、その体内にあった磁気テープをもとに大金を手にしたグリコと仲間たちは、ライブハウスを開業。グリコはYEN TOWN BANDのボーカルとしてデビューし、スターの座を掴む。

 主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」(作詞:岩井俊二、CHARA、小林武史/作曲・編曲:小林武史)は、70年代の洋楽ロックを想起させる生々しいサウンドが印象的な楽曲。レコーディングは60〜70年代のビンテージ機材が揃ったニューヨークのウォーターフロントスタジオで行われ、温かさや息遣いが感じられる音像に仕上がっている。その中心にあるのは〈私はあいのうたで あなたを探しはじめる〉と祈るように歌うCHARAのボーカル。この曲が自身初のオリコンシングルチャート1位を記録したことで、彼女はシンガーとしての評価をさらに高めた。

YEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」

 『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)の挿入歌として制作された「グライド」。この曲を歌った架空のシンガーソングライターこそリリイ・シュシュであるが、映画と連動する形で、小林武史、岩井俊二、そしてボーカリスト Salyuによる実在のユニット Lily Chou-Chouとしても活動した。

 映画の主人公は地方都市で暮らす中学生の蓮見雄一(市原隼人)。不良グループに万引きを強要され、鬱屈とした日々を送っていた。雄一の唯一の拠り所は、リリイ・シュシュのCDを聴くこと。恐喝、暴力、売春などのエスカレートしていく犯罪行為に巻き込まれ、心身共に苛まれる雄一。行き詰まり、危機的状況が迫るなか、渋谷でリリイ・シュシュのライブが開催される。仲間とともにライブに参加した雄一だが、ライブ会場である事件が発生する。

 過酷な現実の前で立ち尽くす少年・少女に共通しているのが、リリイ・シュシュの歌に惹きつけられていること。それを象徴しているのが「グライド」だ。退廃的な佇まいと憂いを帯びたメロディ、〈I wanna be/ I wanna be just like a melody〉というラインが一つになり、映画の世界観を美しく彩っている。このプロジェクトで本格的な音楽活動をスタートさせたSalyuは、2004年に小林武史のプロデュースでソロデビューを果たした。

Lily Chou-Chou「グライド」

 また、昨年日本で公開された映画『アフター・ヤン』(監督:コゴナダ/オリジナルテーマ:坂本龍一)で「グライド」のカバーバージョンが使用されたことも話題を集めた。歌唱は日系アメリカ人のシンガーソングライター、ミツキ。小林は「20年以上前に作った曲と映画が与えてくれる未来のイメージ、つまり過去と未来はシンプルにもつながり得るというような、心地良さでもありました」とコメントを寄せている(※1)。

Mitski - Glide (cover) (Official Audio)

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