キズナアイ、星街すいせい、花譜、HACHI、長瀬有花……3名の有識者が振り返る、バーチャル音楽シーン発展の歴史
VTuberによる音楽活動やバーチャルアーティストの存在が、音楽シーンにおいて注目を集めるようになってきた昨今。2018年に9週連続リリースで音楽通を唸らせたキズナアイ、日本武道館公演を成功させた花譜、地上波音楽番組や「THE FIRST TAKE」出演で注目を集める星街すいせいをはじめ、HACHIや長瀬有花など、オルタナティブな活動で国内外で徐々に認知を高めているアーティストも多数存在する。
今でこそジャンルレスな楽曲リリースが目立つが、黎明期はインターネットミュージックやクラブミュージックとの接点が強かったバーチャルアーティストシーン。その音楽の発展はどのように行われていったのか。
リアルサウンドでは、バーチャル分野の現在を多方面に発信しているライターの森山ド・ロ氏、イベント『VIRTUAFREAK』の設立メンバーでバーチャルアーティストとの関わりも深いイベントスペース『エンタス』を運営するTAKUYA the bringer氏、ダンスミュージック&クラブカルチャーの専門メディア「Mixmag Japan」で編集長を務めた経験もあるYuki Kawasaki氏に、バーチャルシーンの音楽の発展について話を聞いた。(編集部)
VTuberとクラブカルチャーの関わり合い
ーー音楽シーンにおいても、VTuberの音楽活動やバーチャルアーティストにスポットが当たるようになってきた印象を受けます。世間にVTuberの音楽が広まりだしたのは、2018年にキズナアイさんが9週連続リリースをした頃だと思うのですが、当時どんな印象を持っていましたか?
Yuki Kawasaki(以下、Kawasaki):僕は以前、Mixmag Japan(イギリスのダンスミュージック&クラブカルチャーの専門メディア)で2年ほど編集長を務めていたのですが、その当時のVTuberやバーチャルシンガーとダンスミュージックの関わり合いについてすごく関心を持っていました。そういう視点で見ても、キズナアイさんはダンスミュージックをリファレンスにした曲がすごく多くて、森山さんもそのことを過去に指摘されてましたよね。
森山ド・ロ(以下、森山):そうですね。やっぱり最初はクラブミュージックやダンスミュージックをピンポイントで取り入れているという印象が強かったです。
TAKUYA the bringer(以下、TAKUYA):キズナアイさんの音楽リリースに関して、当時のダンスシーン・インターネットミュージック・サブカルチャーシーンでかっこいい音楽を作っている人たちをフックアップしていて衝撃を受けました。サブカルチャーシーンの楽曲やインターネットミュージックをクラブで楽しむという動きが、古くより秋葉原のMOGRAさんや全国のイベントであったのですが、リリースされた2018年はアニメ公式でのクラブイベントを全国のクラブとファイナルをagehaで開催した『AIKATSU! ANION “NOT ODAYAKA” Remix』などもあり、サブカルチャー界隈のDJやトラックメーカーをメインストリームに呼び込むような流れもあって。そういうところを含めて、キズナアイさんの音楽展開は衝撃的かつ、タイミングも神がかってて鳥肌が立ったのを覚えています。
Kawasaki:僕はTAKUYAさんも立ち上げに関わっていた『VIRTUAFREAK』、MOGRAが主催する『Music Unity』など、そういったリアルイベントの存在がVTuberの音楽に与えた影響は大きいと思っていて。『VIRTUAFREAK』開催当初は、オタクカルチャーのプロフェッショナルの箱であるエンタスやMOGRAで行われていたと思いますが、そこからクラブエイジアやageHaのようなジャンルの異なる大箱でも開催されるようにもなっていった。そこでVTuberの音楽の認知がより広がったようにも思いますし、そういう舞台にまで発展させることができたのはバーチャルシーンにおけるターニングポイントだったのかなと。
TAKUYA:VTuberだからとかではなくて、いい音楽やかっこいいアーティストをブッキングしているという印象があります。バーチャルか否かということはあんまり関係なくて、いい音楽、かっこいいアーティストをピックアップしていたらたまたまバーチャルの人が入っていたような感じというか。そこにいるクリエイターやイベントを主催している方々、お客様もインターネットミュージックを楽しんできた世代になっているので、そういう人たちと時代の流れがマッチしたことも、当時の状況を生むきっかけになったのではないかと思います。
ーーバーチャルな存在が世の中に広まった一つのきっかけとして、新型コロナウイルスの流行に伴う自粛期間もあったように思います。
森山:『Music Unity』は全国のクラブを盛り上げたいというところからオンラインストリーミングフェスとして2020年に始まったんですけど、そこに集まった人たちは初開催の時からインターネット上で音楽を楽しむ行為に全く抵抗感がなかったんです。一方で、コロナ禍初期の頃は世間的にオンラインライブに対する風当たりも強かった。でも、徐々に配信でライブを見るという行為が当たり前になり、そこからインターネットのコンテンツをスマホで楽しむという方向性に発展していく中で、VTuberという存在が上手くハマったと思うんです。コロナ禍によって純粋に配信を見る人たちが増えて、VTuberのリーチしやすい環境が整ったという流れはあったと思います。
とはいえ、インターネット以外のリアルな場所での露出はもちろん大事で。音楽においてはピーナッツくんのような存在、『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』の楽曲など、もともとインターネットやSNS、YouTubeで培われてきたアーティストやカルチャーにはめちゃくちゃファンが多かったと思うんですけど、そういうものが『VIRTUAFREAK』や『Music Unity』というイベントをきっかけに一気に認知が広がったような印象もあります。
Kawasaki:『VIRTUAFREAK』や『Music Unity』のステージと、例えば『ニコニコ超会議』でキズナアイさんが立っていたステージ、それぞれバーチャルシーンとは言っても内容に乖離があったと思うんです。『VIRTUAFREAK』や『Music Unity』はオルタナティブな空気があったというか。そうしたオルタナティブなものが成長した結果、ageHaのようなステージで開催されるようになったという物語にすごくエモさを感じます。
TAKUYA:『VIRTUAFREAK』は、当時、主催の方と僕とで「バーチャルというシーンで、エンタスからはじまる、刺激的で安心して遊べる新しい空間を作りたいよね」というところから始まっているので、オルタナティブというのは間違いないです。初開催は2018年12月なんですけど、シーンを好きなお客様が集まった印象があります。たとえば2018年初開催時にDJの選曲でX’Flareや八月二雪とかが流れていて、フロアがめちゃくちゃ盛り上がってました。お客様のアンテナの感度もめちゃめちゃ高かったです。