キズナアイ、星街すいせい、花譜、HACHI、長瀬有花……3名の有識者が振り返る、バーチャル音楽シーン発展の歴史
潮成美、花奏かのん、HACHIら今後も期待のVアーティスト
ーーそういった状況において、みなさんが注目しているバーチャルアーティストはどなたですか?
森山:潮成美さんと花奏かのんさんは、もっと知名度を上げてもいいと思っていますね。声も特徴的で歌も上手い、それに楽曲のクオリティも高いんです。アバターも持っているからVRチャットやリアルライブもできるので、もっと人気が出てもいいんじゃないかなとはずっと思っています。
TAKUYA:潮成実さんはライブと音源で歌のクオリティにブレがないんですよね。90年代くらいのR&Bとかが好きな人は絶対にハマると思うんだけどな。もっとフェスとかにも呼ばれてほしいとは思いつつ、そもそもバーチャルアーティストのライブ環境を構築するハードルがあるのかもしれない。エンタスを内見しにくる人たちからも「どのようにライブをやったらいいですか?」と聞かれることがすごく多くて。エンタスのサーバーを使えば、家やスタジオからでも気軽に低遅延で出来るんですけど、そういうノウハウは一般的にはまだ浸透していないのかなと。
僕が推しているアーティストは、MonsterZ MATEさんですね。すべてにおいて魅力的なお二人なのですが、エンタスの歴史においてもMonsterZ MATEさんは偉大で、バーチャルシーンを語るうえで切っても切れない関係性というか、やっぱりすごい存在だなと思います。でも、他にもめちゃくちゃいい音楽を発信している人は本当にたくさんいて、僕は2020年からinterfmで(現在はYouYube)バーチャルアーティストのオリジナル楽曲にフォーカスしたラジオをやらせてもらってるんですけど、自分自身にもっと影響力があったらなとすごく思います(笑)。
Kawasaki:僕はバーチャルシンガーのHACHIさんに注目しています。彼女の楽曲には寂しさや孤独みたいなテーマが一貫してあるような気がするんですけど、それがキャリアを経ていくうちにいろんな形になって、アーティストのスケールごと大きくなっているような印象があって。例えば「HONEY BEES」からも孤独のような印象を受けるのですが、同時に「孤独だったら一緒に遊ぼうぜ!」みたいな人懐っこさみたいなものもあって……そういうところが僕はずっと好きなんですよね。
TAKUYA:僕はHACHIさんのことを4Dシンガーと呼んでいて。彼女の歌声を聴いていると、それぞれの楽曲で描かれる情景や匂いがブワッと広がってくるんですね。そういう歌や曲が魅力的というのはもちろんですが、スマホ一つで誰でもVTuberになれるプラットフォームから活動を始めたところにドラマがあっていいなと思います。完全にゼロの状態からスタートして、現在の人気に至るまでのストーリー性には注目してほしいです。2020年にAZKiさんのチャンネルでVTuberのオリジナル楽曲のMVをノンストップ放送する「音楽を止めるな」という企画があって、そこで紹介された頃くらいにYouTubeのチャンネル登録者が1万人に到達したのを覚えてますが、その後の勢いも止まることなく世界中に彼女の歌声の魅力が届いて一気にブレイクした印象があります。
森山:バーチャルアーティストシーンで言うと、クラブミュージック系の曲をリリースした方がクラブでかかりやすかったり、宣伝してもらいやすいというのがあったのですが、彼女は一貫してバラード系の曲を続けているんです。コンポーザーが変わってもブレない芯の強さを感じますし、彼女のやりたいことを実現するために、周りのレーベルスタッフも一丸となって運営しているのもすごい。「光の向こうへ」を聴いた時に「めっちゃいい曲じゃん!」と思ったんですけど、そこから「Rainy proof」でトドメ刺されるみたいな。本人が意図しているかはわかりませんが、そのスタンスを貫く姿勢が強みなのかなと思います。
それに楽曲のクオリティもすごく高くて、曲調も日本国内だけでなく、海外も視野に入れて自分の音楽を届けたいという意志を感じます。次のライブもSpotify O-EASTと台湾でやることが決まっていますが、その先も全然想像できますね。
TAKUYA:あと、歌の配信をしている時も変わらない安定感があるよね。なんとなく、リスナーの方々もHACHIさんの歌に清めてもらいに行っているというか。ブレない安心感が配信を見る側としては魅力的に映るんだろうなとは思います。
ーー従来のアーティストは、CDをリリースして、ライブをやって、フェスに出てどんどん大きいステージを目指していくような過程があると思いますが、バーチャルアーティストにおける売れるまでの道のりはどういうものになるんですかね?
森山:現状はやっぱりYouTubeでの活動になるのかもしれないですね。例えば、Spotifyで月間リスナーがめちゃくちゃ少なかったとしても、YouTubeでライブを見たら同接が数千人みたいなこともあります。そういう人たちをより一般層まで届けるためには、もっとバーチャル音楽にフォーカスした特集や記事が増えていく必要があるとは思います。例えば、星街すいせいさんからバーチャルの音楽に興味を持ったとしても、そこから掘り下げていくための手がかりがネット上には少ないんですよ。
VTuberの認知を広げる方法はファンの二次創作が主流になっているのですが、そこだけではなく、ちゃんとしたメディアがアーティストの物語を追っていく必要はあると感じていて。ただ、VTuberは毎日配信をしていたり、活動頻度がすごく多いのでカロリー的にもずっと追いかけ続けるのは難しいんですよね。そのジレンマはすごく感じますし、解消するのは難しい問題だなと思います。
ーーでは、今後のバーチャルシーンに期待することはなんですか?
Kawasaki:今年の年末にSynthionというDJがアメリカから初来日するんですけど、VTuberの活動を行いながら本格的なダンスミュージックもやっている方で。海外で活動している職人的なバーチャルアーティストではあるんですけど、戌神ころねさんや兎田ぺこらさんをイメージソースにしたミックスを展開していて。こういう作品を出している海外アーティストが、日本にやってくるというのは新しい風のように感じます。ここ10年ぐらいの間に、オタクカルチャーと解釈されてきたものがオルタナティブな音楽シーンに接続しやくなったようなイメージがありますね。現状ではVTuberやVSingerがその「合流地点」のような役割を担っているように見えます。
TAKUYA:バーチャルか否か、みたいな境界が今後はなくなっていくのではないかと思っています。その中で注目しているのはVRchatです。目が離せないアーティストやイベントなど数多くあるのですが、その界隈でも特に韓国の方々が展開しているWAKTAVERSEの活動が面白くて。一般的にVTuberといえばオーダーメイド的な形でアバターを作ると思うんですけど、おそらくWAKTAVERSEはVRchatの汎用アバターで活動しているんですね。例えば、VTuber固有の3Dアバターだと衣装のモデルチェンジをする際に手間とお金がかかってくるんですけど、汎用アバターの場合は洋服やアクセサリーなどを比較的自由度が高くチェンジできるんです。アバターも衣装もBOOTHで気軽に買えます。これが一般化すれば、仮想空間でグッズTシャツを販売して、ファンのアバターはそれを着てライブを鑑賞することもできる。現状VRchatを利用する人たちは当たり前におこなっていると思うのですが、バーチャルのエンターテイメントがさらに発展を遂げていけば、スマホをみんな持ってるくらいの常識で「自分アバター持ってての衣装チェンジができます」みたいな、そういう未来も訪れるのではないかなと思います。
森山:現時点でのメインカルチャーについて挙げるとすれば、ライブイベント『バズリズム LIVE V 2023』で星街すいせいさんとフジファブリックが同じステージに立ったみたいに、リアルアーティストとバーチャルアーティストが共演するパターンはより増えていくのかなと。あと、森カリオペさんが『ワンピース』106巻のテーマソングを担当していましたが、ホロライブやにじさんじのような大きい事務所が先導を切ってバーチャルの音楽を広げていく動きは今後も続いていきそうですよね。世の中が激震するような出来事はそこまで起こらないかもしれないですが、バーチャルアーティストの一般化が進む中で、マスな事例はどんどん増えていくのではないかと。
■リリース情報
HACHI 2ndアルバム『Close to heart』
8月11日(金)配信開始
楽曲配信ストア https://linkco.re/xPAgr3vB
<特別仕様盤> ¥5,000(税込)
CD+特典
特殊紙三方背スリーブケース仕様
特典:記念カード Close to heart ver.(シリアルナンバー入り)
<通常盤> ¥2,500(税込)
CD only
YouTube生歌配信番組
毎週火曜24:00〜「ミッドナイトステーション」
毎週金曜21:00〜「ハニカムステーション」
RK Music ライブユニオン所属
全8曲
1. Deep Sleep Sheep
Lyrics / Composition / Arrangement:ササノマリイ
2. まなざし
Lyrics / Composition / Arrangement:tee tea
3. ビー玉
Lyrics / Composition:海野水玉 Arrangement:出羽良彰
4. いつまでも
Lyrics:yacco Composition / Arrangement:tee tea
5. さよならfrequency
Lyrics / Composition / Arrangement:春野
6. Level off
Lyrics:yacco Composition / Arrangement:tee tea
7. 空が待ってる
Lyrics / Composition / Arrangement:tee tea
8. HONEY BEES
Lyrics / Composition:海野水玉 Arrangement:Seiji Iwasaki
■ライブ情報
2ndアルバム『Close to heart』のリリース記念ライブツアー
日本公演:10月9日(月・祝)SHIBUYA Spotify O-EAST
台湾公演:11月19日(日)TAIPEI Clapper Studio
https://www.zan-live.com/live/detail/10339
■HACHI YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@HACHIVSinger
■HACHI Twitter
https://twitter.com/8HaChi_hacchi
■RK Music
https://rkmusic.jp/