VTuberプロジェクト Blue Journey、悩みや葛藤から生まれた肯定のメッセージ 普遍的な共感を集めるホロライブの新しい物語
人気VTuberグループ・ホロライブとユニバーサル ミュージックが共同で設立したレーベル・holo-nの第一弾プロジェクトとして、Blue Journeyの1stアルバム『夜明けのうた』が9月6日にリリースされた。
近年、VTuberやバーチャルシンガーの音楽は以前より身近なものになりつつある。中でも、ホロライブはグループ/個人問わずオリジナル曲が豊富なことで知られており、全体曲や各種プロジェクト/ユニットの楽曲に加えて、ソロのオリジナル楽曲を複数持つメンバーが多い。最近では、その中からVTuber界を超えて話題になる楽曲も生まれ始めている。
VTuber史上初となる「THE FIRST TAKE」への出演や地上波の音楽特番出演で話題になった星街すいせいの「Stellar Stellar」、人気TikTokerによる振り付け動画やピンチズームの流行も相まってTikTokで1億回以上再生され、同サービスの2022年上半期トレンドにノミネートされた湊あくあの「#あくあ色ぱれっと」、そうした流れに続き公式でダンスを用意してYouTubeやTikTokで話題となっている宝鐘マリンの「美少女無罪♡パイレーツ」など、ホロライブからは様々な人気曲が生まれ、新しいリスナー層にもグループやVTuberの認知を広げている。
こうしたヒットの背景にはおそらく、VTuberならではの活動形態が関係している。ホロライブは基本的にメンバーを「タレント」「アイドル」と表記しているが、日常的に配信なども行なうVTuberの場合、毎日の活動を自ら舵取りするコンテンツクリエイターとしての顔も持っている。そのため、ホロライブの面々はアイドルであると同時に自身のプロデューサーでもあり、様々なクリエイターと協力しながら理想の楽曲を作ることができる。
日々の配信を観ていれば、各メンバーがソロ曲の方向性を舵取りして工夫を凝らしていく話や、ときには歌詞にまでアイデアを反映させている話を聞くことができるだろう。その結果、それぞれのソロ曲は、各人の一番の分かり手でもある自分自身の想いが反映された、「本人による究極のキャラソン」になる。これが楽曲を魅力的にしているのは間違いない。
一方で、それとはまた違った音楽もある。それが、年に一度のビッグイベントとしてグループ最大の盛り上がりを見せる全体ライブに向けた楽曲や、1stライブ『Bloom,』を筆頭にした企画ライブ/ユニット曲として、hololive IDOL PROJECT名義などでリリースされているホロライブ運営主導の楽曲だ。最大の特徴は、仲間や夢などをテーマにした明るくポップな王道のアイドル像を掲げていること。これはホロライブというグループ全体のイメージにもなっていて、こうした雰囲気を個人でのアイドル活動に反映させているメンバーも多い。
今回のBlue Journeyは、こうした従来のホロライブの音楽活動とはまったく異なるものになっている。まず印象的なのは、悩みや葛藤、後悔などをテーマにした、より内面を掘り下げるタイプの楽曲であること。アイドルとして夢や理想を追い求める普段の活動ではなかなか表現できない感情に向き合うことで、メンバーたちの新しい歌や表情を見せてくれる。
また、メンバー自身ではなく「どこかにいるはずの誰か」が楽曲の主人公になっていることも、これまでとの大きな違いだろう。Blue JourneyではMVにホロライブメンバー自身が登場しないことからも分かる通り、作品ごとにある程度まとまった架空の人物の感情や物語が描かれていく。つまり、Blue Journeyとは、ホロライブメンバーが様々な人物の感情や物語を表現していく音楽をテーマにした群像劇であるということ。「Blue Journey(=青い旅)」という名前通り、青春を思わせるような葛藤や感情を歌った物語が展開されていく。
その第一弾として最初に用意されたのが、1stアルバム『夜明けのうた』の収録曲だ。本作では過去のホロライブ楽曲でもお馴染みのクリエイターチーム・Arte Refactに加えて、様々なアイドルやアーティストに楽曲提供する作家陣や、シンガーソングライターVTuber・凛々咲らによる提供曲を収録。心の葛藤などを描くためにギターサウンドなどを使用しながらも、随所に顔を出すピアノやストリングスが楽曲全体にエレガントな雰囲気を加えていて、実際の音楽性はやや異なるものの、イメージとしては「君の名は希望」や「帰り道は遠回りしたくなる」などのような、乃木坂46を筆頭にした坂道シリーズのアイドル曲に近い雰囲気だ。
とはいえ、イントロのパワフルなユニゾンギターなどで疾走感全開にアルバムのオープニングを飾る角巻わため・獅白ぼたん・沙花叉クロヱによる「ツキノナミダ」、ストリングスを加えたギターロックに乗せてサビでバックに歌声やフェイクが重なっていく様子が印象的な不知火フレア・常闇トワ・尾丸ポルカの「また傷に触れる」、キュート属性の声の持ち主がリズミカルなピアノ/エレピやベースに乗って歌う戌神ころね・兎田ぺこら・姫森ルーナ・博衣こよりによる「不純矛盾」など、序盤から楽曲の音楽性はなかなかに幅広い。