キズナアイ、星街すいせい、花譜、HACHI、長瀬有花……3名の有識者が振り返る、バーチャル音楽シーン発展の歴史
バーチャルアーティストの音楽を広めたトピック
ーーそのように音楽好きの中で盛り上がっていたカルチャーが徐々にメインストリームに進出した流れがあるかと思いますが、エポックメイキングなことはどんなものを思い浮かべますか?
森山:僕の中ではいくつかありますが、まずは2018年の花譜さんの誕生ですね。音楽を専門としたアーティスティックな存在はそれまでもいましたが、クリエイターの布陣も含めてかなり力の入ったアーティストが登場したのは衝撃的でした。そこから日本武道館ワンマンまで到達するという物語も大きな出来事だったと思います。『バーチャルTIF』の開催も印象に残っていて、それまでもキズナアイさんが『SUMMER SONIC 2019』に出演するなどはありましたが、バーチャルアーティストを引っ張るのはやっぱりアイドル文化なんだなと思ったことを覚えています。あと今後もなかなか例がないと思いますが、VALISの1stワンマン『拡張メタモルフォーゼ』のアンコールでメンバーが生身で出てきたことと、それを観客がその場で受け入れるという状況のインパクトは大きかった。そして、先ほど話していたageHaで開催された『VIRTUAFREAK 2021』ですね。
TAKUYA:そういうプロセスを踏みながら、バーチャルアーティストの存在も一般化してきましたよね。それこそ、星街すいせいさんが『THE FIRST TAKE』に出演したり、バーチャルアーティストがアニメ主題歌を担当することもよく目にするようになりました。
森山:世の中の流れがインターネット中心になりつつある今、そこに必ずいるのがVTuberのような存在で。であれば、音楽分野においてもバーチャルな存在が出てくるのは必然的です。もちろん、それは音楽に限った話ではなく、ゲーム界隈にも言えることだと思いますし。いろんなジャンルにバーチャルな存在が登場するようになってきた2023年だと思います。
Kawasaki:先ほど森山さんがVALISのお話をされていましたが、バーチャルとリアルで活動するスタイルにおいて、長瀬有花さんはすごく重要な存在だと思います。バーチャルな部分はもちろんですが、リアルな部分の扱い方が今後のバーチャルアーティストのクリエイティブを考える上で重要になってきているのではないかと。
森山:長瀬さんの世界観はリアルがないと可視化しにくいところはありますよね。鳩やチロルチョコが好きで、そういうものの写真をX(旧Twitter)にアップするんですけど、その見せ方をするにはバーチャル側だけだと実現しにくいというか。それに、生身がないと銭湯やオオゼキでライブもできないですからね。あと、最近であれば七海うららさんの1stライブ(『Nanami Urara 1st ONE-MAN LIVE “Parallel Show”』)は生身でほぼ行われたんですけど、後ろのモニターにアバターの七海さんが出てきて本人と一緒に歌うという演出があって。アバターと自身が同時に歌う表現は新しいなと思いましたね。