ブレイキン=ブレイクダンス、なぜパリ五輪で初競技種目に? 若杉実がたどる歴史と近年の変化

 そもそもヒップホップダンスが教育現場で浸透していること自体、むかしの感覚ではありえないだろう。黎明期のBボーイにかぎって、昨今のダンス必修化に異を唱える傾向があるのはそのような背景とも無縁ではない。

 反対派に与するつもりはないが、オールドBボーイはなにかと割りを食った。練習場所は公園や駐車場。大会と呼べるほどの大会もなく、結果、技の進化も停滞。80年代後半には冬の時代を迎えている。

 多くのBボーイがこのとき離脱していくが、90年代に入るとボビー・ブラウンをアイコンとするニューダンス(ニュージャックスウィング)の時代に突入。一部のBボーイはステップ中心のスタイルに鞍替えする(EXILEの前身ZOOや現TRFのSAM等)。同時期ダンス番組が相次ぎスタートしたため、ヒップホップ(系)ダンスの一部としてブレイキンは首の皮一枚でつながることにはなった。

 海外では90年代後半に完全復活の狼煙が上がるが、日本では世代交代とともに新たな風が吹く、それも意外な世界から。とりわけ岡村隆史やガレッジセール・ゴリのような元Bボーイの芸人がテレビで披露した影響はおおきい。2000年代前半のことだが、当時触発された若者は、現在指導者クラスになっていたりする。岡村は中学生だった80年代から大阪のANGEL DUST BREAKERSに所属するなど筋金入りだが、異業界にてブレイキンの魅力を発信してきたことが、この世界の間口をひろげたとみていい。

 また、女子の人口増加も過去にはみられなかった。五輪では男女ともに有力選手が目白押しだが、近年の実績に鑑みれば、表彰台の中央に立つ可能性は男子よりも高いことが予想される。格闘技の歴史とおなじで、Bガールは世界でまだ多くない。日本がそれだけスポーツ化に成功しているともいえる。

 そして我がライバル国の韓国も、男女ともに千軍万馬。ゼロ年代以降、K-POPの海外進出と連動するように国際大会で頭角を現すなど、西高東低だった勢力図を書き換えた。ちなみにBTSのJUNG KOOKも経験者である。

“アジア人はダンス音痴”という迷信

 これには科学的な裏づけもある。韓国人の体型の特徴には肩甲骨の開きがあり、力を腹筋に溜めやすくパワームーヴ(主要技)の利点になるというものがある。代表格にBboy Pocketがいるが、彼の超絶技巧をみていると地球の重力を疑わずにはいられない。

 日本人は反対に肩甲間部が狭い。ただしアジア人に共通する筋質“遅筋率の高さ”でダンスはカバーできる。黒人、白人にみられる“速筋率の高さ”は瞬発力に欠かせないものの、持久力は乏しい。日本が一時マラソン王国だった所以でもあるが、振り合わせに必要な集中力や踊りつづけるための持続力に、この遅筋が資するといわれている。J-POPグループの伝統芸であるシンクロダンスがわかりやすいが、K-POPがそれを“輸入”し世界で成功したことに、わたしたちも胸を張っていい。

 ダンスは本来数値化できない。ブレイキンのスポーツ化はそのような本質から離れていくようにもみえる。いっぽうで、パリ五輪後のヒップホップの風景、その変わり様も楽しみにしたい。なにより彼らは、闘いながらも武器はおろか道具すら手にしていないのだから。これだけでも感動を呼ぶ。

参照:
『全日本ブレイキン選手権 2023』
https://www3.nhk.or.jp/sports/movie/peQUQmOWJ3lYQI/

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