globe、再評価されるべき革新的な楽曲とライブ表現 90年代の大衆を先導した一大エンターテインメントの凄み

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 日本の音楽ジャーナリズムはglobeをどう評価すべきか? 90’sリバイバルを迎えた昨今、そんな課題への回答となる作品がリリースされた。Blu-ray作品として映像と音像が新たにリマスタリングされ、デビュー記念日である8月9日に発売された『globe@4_domes 10000 DAYS Remaster Edition』である。

globe /2023.8.9 on sale 『globe@4_domes 10000 DAYS Remaster Edition』TEASER

 本作は1997年3月に史上初の4大ドームツアーとして開催された『globe@4_domes』東京ドーム公演の映像作品に追加編集が施され、当時未収録であった「GONNA BE ALRIGHT」、「Joy to the love」、「Is this love」の歌唱映像を初収録。本公演のセットリストを網羅した完全版と言える内容になった。さらに、Blu-ray化にあたりDolby Atmosによる3Dサラウンド音声を採用。対応したオーディオ機材を用意すれば、左右のみならず上下にも広がる立体音響で大迫力の映像を臨場感たっぷりに体感できる。筆者は最適なオーディオセットが用意された試写会で同作を体感したが、1997年の東京ドームの空間へタイムスリップするような感覚があり、あの頃の感動が蘇るタイムマシンのような作品だと感じた。

 なお、初回盤にはDolby Atmosの映像をスマートフォンで視聴、体感できるNeSTREAM LIVE 視聴シリアルコードも封入されている。対応のヘッドフォンやイヤフォンがあれば、場所を問わず大迫力の音響と映像を堪能することが可能だ。実際に試したが、360度に拡がる音の迫力、その臨場感に驚かされた。それもそのはず、今作をリマスタリングする際に、ライブ当日のパラデータを集め、オーディエンスマイク数十本による歓声を取り込んだという。

 ライブでのバンドメンバーは、様々な小室哲哉プロデュース作品やライブに参加した阿部 薫(Dr)、松尾和博、木村 建(以上、Gt)をはじめ、小野かほり(Per)、世界的に知られるカーマイン・ロハス(Ba)が参加。映像では、そんなスキルフルなメンバーによる生演奏にも着目してほしい。そして、自由に繰り広げられる小室によるキーボード、ギター、ハーモニカ、そして打ち込みによるデジタルオーケストラ。当日、ライブ会場のPAエンジニアは、小室哲哉の親戚であり、アジアを代表するエンジニア、スターテックの志村 明だった。こだわりの音作り、繊細ながらもエモーショナルな迫力が表現されている。一音一音が生々しく、当時の感動が目の前に蘇るような映像と音像の迫力に圧倒されるのだ。

 そして、あらためて問いたい。90年代を代表する音楽ユニット=globeとはなんだったのか? 

 1990年代、小室哲哉がプロデュースしたアーティストが軒並みミリオンセールスを記録した。しかし、そんな大衆の盛り上がりに反して、硬派な音楽ジャーナリズムはTKプロデュース作品を取り扱うことが非常に少なかった印象がある。逆に言えば、当時のglobeは批評を寄せ付けないほど、ビッグなアーティストとなっていた。

 1995年8月9日リリース、鮮烈なデビュー曲となった「Feel Like dance」。そして、国民的人気に火をつけた『DEPARTURES』のダブルミリオンを超えたヒット。さらに、400万枚を売上げ、当時国内最高セールスを記録した1stアルバム『globe』の成功。その翌年にリリースされた2ndアルバム『FACES PLACES』は、1stアルバムと比べてロック色が嗜好され、メンバーのキャラクター性も作品で表現されはじめた時期だった。『MTV Japan』初代VJだった洋楽に詳しいマーク・パンサー、オルタナ世代のKEIKO。そして、当時NO DOUBTやNIRVANAなどに強く惹かれていた小室哲哉によるトライアングルな試みがglobeで実現したのである。

 アルバム『FACES PLACES』は、1997年2月までギリギリのスケジュールでレコーディングされた作品。そこから間もなく、3月に本ドームツアーが行われた。アルバム制作とツアー準備の同時進行、まさに綱渡りである。さらに、KEIKOやマークは、ドームクラスのライブはもちろんのこと、実はホールクラスのツアーですら未経験な時期だった。だがしかし、ライブ映像では、そんなことは微塵にも感じさせない凄みを発揮している。これを奇跡と言わずになんと表現すべきか。

 何より注目すべきは、KEIKOのボーカルの素晴らしさだ。本作は、ピッチ補正などのエディットがされていない。歌詞の間違いも修正されることなく、そのままだ。息遣いさえエモーショナルなのである。いや、それでいい。それこそがライブエンターテインメントの魅力なのだから。追体験してほしい、日本にこんな素晴らしいシンガーが存在するということを。

 マークのラップも評価したい。日本語と英語、フランス語をトリリンガルに駆使して書き上げたリリックを、メロディアスかつポエトリーなラップとして表現するオリジナリティの高さ。globeは、誰の真似をすることもなく時代を開拓し、突き進んでいたのである。

 まだ、CD全盛で、iTunesもYouTubeもなかった時代。globeは、ひとつのアルバムにあらゆるジャンルを織り交ぜた。それは、どんなリスナーとも接点を持てるように配慮された、タッチポイントの多様さを意識したことにある。「DEPARTURES」制作時の逸話でもあるが、歌詞のワンセンテンスごとに、まるで広告のキャッチコピーのようにフックの強い言葉を埋め込むことで、どんな場所を切り取られても刺さる音楽性を小室は意識したという。TikTokやYouTubeでの切り取り文化が一般化した今なら、その発想は理解できるかもしれない。だが、これは90年代のことだ。

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