『FSLトライアウト』はなぜ批判された? 国内におけるMCバトルシーンの変遷と課題意識

MCバトルシーンの拡大に伴う課題

 話を現在に戻すと、上述したMCバトル大会のほか、『凱旋MC BATTLE』や『真・ADRENALINE』など、MCバトルを開催する団体は増加傾向にある。地上波でもラッパーとラップ好き芸能人がタッグを組む『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日・ABEMA)が放送されており、もはやMCバトルはラッパーだけの特権ではないのである。

 しかしこれらの大会では、出場するラッパーがある程度固定化しつつあることが疑問視されている。これは今まで予選通過者だけが本戦に出場できるという従来のシステムが、日ごとに裾野を広げるMCバトルシーンと噛み合わなくなったことが要因だろう。商業・エンターテインメントとしてMCバトル大会を開催する以上、集客を増やすためにネームバリューのあるラッパーにオファーを出すのは自然な流れである。一方で無名の人間がマイクを持つことで名声を得ることができるというMCバトルの文化が、オーバーグラウンド化したことによってマイクを持つ機会すら与えられないプレイヤーを生むという事態を起こしかけているのだ。

 この状況を危惧し、MCバトルだけで食べていける時代を作ろうと発足したのが、渦中の『FSL』および『FSLトライアウト』である。当企画の顔役を務めるZeebraも「毎年新たなスターはできているものの、やはりメンツがあまり変わらなくなっている現状もある」と言及している(※2)。しかしその「変え方」が、HIPHOPシーンの文化を重んじるファンの共感を得られなかった。暴力の代替手段として誕生した側面もあるHIPHOP・ラップにおいて、直接的なバイオレンスというのは御法度である。

【FSL新企画】FSLトライアウト開催決定~人生を変えたい人、お待ちしております~

 これは私見だが、『FSLトライアウト』のコンセプト自体は決して間違っていない。MCバトルシーンの底上げには、ダイヤの原石を発掘することは必須であると考える。今回の炎上の原因は暴力的な描写があったことも一因だが、初回は一切ラップをせずにその場で起こる口喧嘩を評価するというオーディションの形式をとったことも大きいだろう。ラップ・MCバトルをするために集まったメンバーなのだから、最初からMCバトルを行えばよかったのではないだろうか。

 企画への様々な意見を受け、Zeebraは「チームでも激しい議論を重ねた」という声明を発表している(※3)。当企画の第2弾をプロデュースする際は、制作団体だけでなくHIPHOP・MCバトルのファンの意見を取り入れた内容であってほしいと願うばかりだ。

※1 https://www.youtube.com/watch?v=dSJWEHMhVck
※2 https://www.youtube.com/watch?v=BvXqBBJE0U8
※3 https://twitter.com/zeebrathedaddy/status/1684543125505835008

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる