『FSLトライアウト』はなぜ批判された? 国内におけるMCバトルシーンの変遷と課題意識

 2022年8月、国内を代表するMCバトルシーンを代表する6団体の協力のもと、MCバトルのプロリーグ化を目指した新たな企画『フリースタイルリーグ(通称:FSL)』が発表された。これまで数回のイベントを開催し、企画の発表から1年が過ぎた2023年8月、『FSL』発のプロのMCバトラーを誕生させる新企画『FSLトライアウト』の動画が公開された(※1)。しかし、初回に公開された内容はMCバトルとは遠く、シンプルな口喧嘩や、HIPHOPにはあるまじき暴力行為が収録されていた。これに対し、MCバトルのファンをはじめとした視聴者からは批判の声が殺到している。しかし、MCバトルに対してこれほどの批評が集まるのは、MCバトル、ひいてはHIPHOPがもつ背景や文化が国内に広く浸透しているからだ。これは長年シーンを追っている人から見れば驚きだろう。そこで今回は、国内MCバトルのシーンの変遷、そしてシーンが広まったことによる功罪を改めて考察したい。

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国内MCバトルの黎明期を支えた『UMB』『戦極MCBATTLE』

 国内MCバトルの黎明期を支えたのは『UMB(ULTIMATE MC BATTLE)』『戦極MCBATTLE』の2大会であるといっていいだろう。2000年代より始まった両大会は、今もなお国内MCバトルシーンで大きな役割を果たしている。発足した当時は、国内ではラップ自体がアンダーグラウンドの文化である印象が強く、ましてやMCバトルは地下格闘のように喧嘩自慢、不良の遊びというイメージが少なからずあったはずだ。

『高校生RAP選手権』『フリースタイルダンジョン』から誕生したスター

 MCバトルが日の目を見るようになったのは、2012年より『BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』、そして2015年より『フリースタイルダンジョン』の放送が始まったことが大きいだろう。高校生に対象を限定した『高校生RAP選手権』は、回数を重ねるごとに会場のキャパシティが大きくなり、第10回には日本武道館に名だたる若手ラッパー達が集結し、しのぎを削った。

 また、『フリースタイルダンジョン』は地上波で初のMCバトルのレギュラー番組ということもあり、従来のファンだけでなく多くの層にMCバトルを認知させた。実際にMCバトルを露ほども知らなかった筆者の友人から、「R-指定がすごい」という言葉を聞いた時には腰を抜かした。

 これらの番組からはR-指定をはじめT-Pablow、HIYADAM、裂固といったHIPHOP・MCバトルシーンを牽引するラッパーたちが数多く輩出されており、国内にMCバトルを浸透させた大きな要因であると言っていいだろう。

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