サノカモメはCeVIO AI『POPY』をどう使った? 人間と機械、双方の“らしさ”を備えたAI音声合成ソフトの魅力

『夢ノ結唱』を手に取るクリエイターに向けた言葉になっている

alternative (feat. POPY) - kamome sano

ーー楽曲的には、フューチャーベースやポストロックの要素も感じさせつつ、1つのジャンルでは形容し難いプログレッシブかつカオティックなサウンドに仕立てられていますが、どのように構築していったのでしょうか。

サノ:まず最初に、クラブミュージックからバンドミュージックまでのグラデーションの中でどういったバランスでいくかを考えたのですが、やはり今回は『バンドリ!』が大元にあるものですし、なおかつPOPYが戸山香澄という人に憧れているという設定を活かすために、バンドサウンドをある程度感じられるものにしたくて、バンド楽器を中心に作っていきました。まず、生ドラムの音源を使いつつ、いかにサンプルベースの音楽に近づけるか……というところから考えて、この曲のサウンドの核になっているギターに関しても、仮想空間で演奏をシミュレートしているけど振る舞いが若干不自然になっているような雰囲気を出したくて、いろいろと工夫しました。結果的に、ギターの音自体は生で録らないとそれっぽくならないので、実際に自分で弾いて録音しつつ、それを複雑に組み合わせて不自然さを演出する方法をとっています。

ーーそれは自分で弾いたギターの音源をカットアップして再構築したわけですか?

サノ:6本の弦を1本ずつ別々に録って、それを人間では到底弾けないような運指のアルペジオにして弾かせたり、弦1本だけめちゃくちゃ連打しているみたいなフレーズを入れたりしています。なのでこの曲、耳コピして弾こうとしても、なかなか弾けないと思います。手がめちゃくちゃ大きい人なら可能かもしれないですけど(笑)。シンセで再現することもできたのですが、それだと生の演奏っぽくならないんですよね。

ーーめちゃくちゃテクニカルなギターなのでどうやって弾いているのかと思いきや、そういうことだったんですね(笑)。個人的にはUSの超絶技巧派インストバンド、Polyphiaのギターサウンドを思い出したりもしました。

サノ:あっ、そうなんです。Polyphiaのサウンドを参考にしました。絶対に自分で弾いてもティム(・ヘンソン)さまのような演奏はできないので。

ーードラムの音も生の音源を組み立てて構築されていますが、ドラムンベース的なアプローチの箇所も結構ありますね。

サノ:ドラムンベースのBPMは一般的に170くらいなのですが、この曲はそれよりも速くて180くらいになるので、あまりドラムンベースとして聴けるようには意識してませんでした。ただ、クラブミュージック的な音作りに近づけるために、音の鳴り方を参考にしている部分はあります。例えば、Aメロはスネアをほとんどリムショットにして、空間を空けるような音作りにしたのですが、そこに関してはリキッドファンク(※ドラムンベースのサブジャンル)っぽいサウンドに寄せたつもりでした。

ーー楽曲の展開的にも、途中のオノマトペが続くパートなど、ただAメロ→Bメロ→サビを繰り返すのではない工夫が凝らされていますが、その意味でこだわった部分はありますか?

サノ:オノマトペの部分の歌詞はプログラミング言語のように角括弧で囲っているのですが、その次に出てくる〈まだきっと壁の向こうにある〉という歌詞の“まだ”の歌だけが先に出てくるようになっているんです。そういう変則的な歌詞の当て方が好きなので、そこはこだわったポイントですね。

ーーそれで歌詞のオノマトペの部分は角括弧で囲われていたんですね。

サノ:その部分の歌詞の表記に関しては「配列」なので、オノマトペの一番最後の〈だらだら〉の後にもちゃんとカンマ(,)を付けています。そうすると後から足しやすいので(笑)。それ以外にも、アルファベットと角括弧とカンマ以外はすべて全角文字で表記していて、方眼用紙に書けるようにしていますね。それは完全に椎名林檎さんのオマージュですけど(笑)。

ーー歌詞の表記にもこだわりが詰まっているんですね。

サノ:楽曲の展開の話に戻ると、意識していたのは全体的に聴いていてダレないものにすることで、歌ものとしてもクラブミュージック的な聴き方をしても楽しめるような展開になるよう考えました。例えば、歌詞で言うと1段目の最後〈……なんてね。〉のあとにすぐドロップがくる、クラブミュージック的な作りにしていて。歌ものとしては、2回目のサビ〈いつまでもこの瞬間を繰り返したいよ〉の前にある、Bメロ/Cメロにあたる部分、〈何回も君の記録(archive)を解析しても〉で始まるブロックはサビのように盛り上がるフレーズを付けて、その後のサビでさらに盛り上がる構成にしています。

ーー次々とサウンドが展開する曲構成で、そこにSF的な歌詞の世界観も加わって、聴き終えたときに小説を読み終えたような充実感が得られる曲だと思います。結びの歌詞が〈さあ次の言葉を聞かせて〉になっているのもドラマチックで。

サノ:この楽曲の主人公にあたるPOPYの気持ちが、楽曲の最初と比べて少し変わっているような印象を与えたかったんです。歌というのは基本的に、聴き始めてから聴き終わるまで姿勢が変わることはあまりないと思うのですが、そこに、何かしら変わったようなそぶりを見せたいんですよね。矛盾しているようですけど。それが歌詞で言うと〈……なれないとして〉から始まる後半以降の部分。それまでは「(戸山香澄に)なれるかな?」という方向だったのが、「なれないかも」という方向に振っていて。そこから最後は〈さあ次の言葉を聞かせて〉で締めることで、物語が終わった印象を与えつつ、この曲は『夢ノ結唱』シリーズの最初の楽曲の1つになるので、これから同ソフトを手に取るクリエイターに向けた言葉になっているんですね。このPOPYが答えを見つけられるかどうかは、これから『夢ノ結唱』を手に取る、今この記事をお読みのあなたの手にかかっている、っていう。

ーーPOPYの“次の言葉”を紡ぐのはあなたであると。この先、POPYを使った様々な楽曲が生まれることで、この楽曲自体の意味もより膨らんでいくんでしょうね。

サノ:これはただの楽曲ではありますが、誰かの創作意欲が掻き立てられるようになっていれば嬉しいですね。

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