サノカモメはCeVIO AI『POPY』をどう使った? 人間と機械、双方の“らしさ”を備えたAI音声合成ソフトの魅力

 『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)と音声創作ソフト「CeVIO AI」のコラボレーションにより始まった次世代プロジェクト『夢ノ結唱』。Poppin'Party 戸山香澄(CV:愛美)とRoselia 湊友希那(CV:相羽あいな)の歌声を深層学習等のAI技術を使い、声質・癖・歌い方をリアルに再現した人工歌唱ソフト『夢ノ結唱 POPY』『夢ノ結唱 ROSE』が昨年12月にリリースされた。

 そして、今年の7月には『POPY』と『ROSE』を使用した楽曲をコンパイルしたアルバム『Infructescence』『Blütenstand』の2作品が発売。リアルサウンドでは、『Infructescence』収録の「alternative」を制作したサノカモメにインタビュー。今作で初めてCeVIO AIを使用したサノは、『POPY』に対してどんな印象を抱いたのか。「alternative」の制作エピソードを発端に、『夢ノ結唱』シリーズの魅力、自身の音楽創作の裏側について話を聞いた(編集部)。

CeVIO AIならではの魅力とは?

サノカモメ
サノカモメ

ーー今回、『CeVIO AI 夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer POPY』(以下、POPY)に触れてみて、どんな印象を受けましたか?

サノカモメ(以下、サノ):CeVIO AIを触ること自体が初めてだったのですが、POPYは実際の人間に歌ってもらうような振る舞いのようなものを感じました。こちらから指示するだけでなく、向こうから「こういう風に歌いたい」というレスポンスが返ってくるようで、人格や意志のようなものが感じられて実際に対話しているような気持ちになりましたね。それと一番いいなと感じたのは文脈の部分で、最近はAI処理を謳ったソフトウェアが増えているなかでも、既存のキャラクターの楽曲から学習して作られたライブラリーというのは他にあまり例がないですし、個人的にはそこに魅力を感じます。

ーー『BanG Dream!(バンドリ!)』の戸山香澄(CV:愛美)という、人気コンテンツのキャラクターの歌声がベースになっているわけですものね。

サノ:香澄はすごく明るい歌い方をされますが、POPYの歌声はそれがそのまま活きている印象があります。ボカロ文化の話で言うと、そもそも「リアルに歌うこと=正義」というわけではなくて、ある意味、機械らしさがあったり、(歌声の)パラメータを不自然に振ったりしても成立するところに魅力があると思うのですが、POPYも調整次第によっては機械としての良さも表現できるんですよね。そのどちらに振っても破綻しないところも良かったです。

ーーただ、今回サノさんがPOPYを用いて作られた楽曲「alternative」は、声の作り方で言うとリアル寄り、従来の香澄らしい歌声を意識しているように感じました。

サノ:おっしゃる通りで、最初は、機械らしくする方向も含めて若干悩んだのですが、今回の場合はなるべくリアルにしようと思いました。楽曲としてはSF的なテーマを設けて、POPY自身が戸山香澄という人の声を元に作られたコピー品であること、本人になりたくてもなれない存在という設定で作ったので、であれば歌声はある程度リアルにしたほうが成立するのではないかと思いまして。

ーー今お話しいただいた曲想、POPYが戸山香澄という存在のオルタナティブ(代替)であることを自覚している設定は、どのような発想で生まれたのでしょうか。

サノ:まず自分自身がSF的な設定や、ある種の逆張りな舞台設定が好きで、日ごろから隙さえあればそういうことをやろうと思っておりまして……(笑)。今回はPOPYのお話をいただいた段階で、他の参加するクリエイターの方々のラインナップを見たときに、いわゆる王道のボカロ曲を作ることができる方と、もっと尖った作風の方に分かれている印象があったんですね。そこで自分は尖ったサイドのことを求められている印象があったので、既存のキャラクターを元にしたAI音声合成ソフトという点を含めて、今お話したような設定が活きるのではないかと思って……突っ走らせていただきました(笑)。

ーー本楽曲で描かれている「自我を持ったAI」というのは、SFにおける永遠のテーマの1つであり、ある種のロマンでもあるじゃないですか。

サノ:そうですね。永遠のテーマにも関わらず、今はその永遠が終わりかけていて。

ーーサノさんは実際にAIが自我を持つことはあると思いますか?

サノ:どちらかと言うと、それはAI側の問題ではなく、自分たちの視点の問題だと思っていて。AIが「これが自我ですよ」と提示してくるものと、本当の自我を、人間が区別できるのか。最近はAI技術が向上したことで、それがちょっと怪しくなってきたのかなと思います。哲学的な話になると、もっと難しい問題だと思いますけどね。

ーー確かに、近年はAIによる生成物と人工物の判別がつかないところまできていますからね。その意味ではタイムリーな楽曲でもあります。

サノ:本来はもっと早い段階に仕上がっている予定で、今年の3月くらいには作り始めていたんです。その頃は、AIを取り巻く環境も今とはまた違っていたと思うのですが、ここ数カ月でAIイラストの問題も含め色々話題になっていて。なので、公開されるタイミングによっては「もしかすると炎上するのでは?」と心配していました(苦笑)。

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