サノカモメはCeVIO AI『POPY』をどう使った? 人間と機械、双方の“らしさ”を備えたAI音声合成ソフトの魅力

サノカモメの原点は中田ヤスタカと久石譲

ーーサノさんは普段から多彩な作品を作っている印象があるのですが、どんなことを大切に音楽を制作しているのでしょうか。

サノ:それは難しいところで、ジャンルや分野としていろんなところに楽曲提供してきたので、その結果、ありがたいことにいろんな方面での需要が生まれているのですが、実はそれがゆえに自分はどこを主軸に活動していくべきか、全然決まっていないんです。それが今まさに抱えている課題でもあり、もしかしたらそれ自体が自分のアイデンティティなのかもしれないと考えていて。でも、基本的には、その楽曲が一番望んでいる姿を目指しています。それは案件の内容であったり、自分のアルバムであったり、いろいろなのですが。

ーーサウンド的にはDTM主体のクラブミュージックやエレクトロニックミュージックがベースにあると思うのですが、ご自身の音楽制作のルーツや原風景にはどんなものがありますか?

サノ:クラブミュージックだけを聴いて育ったわけではなく、フュージョンやいろいろな音楽に触れてきたのですが、大きいのは、高校生の頃に久石譲さんの音楽にハマって聴いていた時期があって、そのときにミニマルミュージックの存在を知ったんですね。その頃の久石さんは自分のミニマルミュージックという原点に立ち返る活動をされていて、ちょうど『Minima_Rhythm』(2009年)というアルバムをリリースされた時期で。

ーー久石さんはもともと現代音楽畑の作曲家ですものね。70~80年代にはムクワジュ・アンサンブルなどの活動を通じてミニマルミュージックの作品を多く発表していて。

サノ:その頃に中田ヤスタカさんの音楽に出会って、クラブミュージックとしての電子音楽とミニマルミュージックを結び付けて聴くようになったんですね。つまるところ、私の電子音楽の原点は中田ヤスタカさんになります。

ーーなるほど。歌詞の世界観に関して意識していることはありますか?

サノ:好きな歌詞や作詞をされている方はいるのですが、直接影響を受けているということはあまりなくて。こだわりとしては、歌詞として単体で読んだときに、意味が不自然にならないこと。文章として読めるもの。語感だけ気持ちいいものというのはなるべく避けています。そのうえで韻を踏んだり、リズム感が生まれるようなものを両立したいので、歌詞はいつも悩みながら作っています(苦笑)。

ーー今回の「alternative」もそうですが、サノさんの書く歌詞には情景やストーリーが浮かび上がる印象があって。今のお話を聞いて感じたのですが、もしかしたら「歌詞」というより「詩」を書くようなイメージに近いのかなと思いました。

サノ:確かに。なるべく詩として読めるようにしたいと思っています。

ーー読書もよくされるんですか?

サノ:本は全然読まないんですよね(笑)。でも、小さい頃は谷川俊太郎の詩集が好きでずっと読んでいましたし、村上龍も好きでした。

ーーサノさんは2011〜2012年頃から音楽作品を発表していますが、当初からボカロ楽曲も制作されていて、主にVY1(ブイワイワン)や重音テトを使われていました。様々な音声合成ソフトがあるなかで、それらを使っていた理由は?

サノ:最初にボカロ的なものを触りたいと思ったときに、当時はMacを使っていたので、ボーカロイドが使えなかったんです(※「VOCALOID2」まではMacは非対応だった)。それで「UTAU」ならMacでも使えると知って重音テトを手に取ったのが最初で、その後、Windowsに移行した後もしばらく使っていました。そうこうしている間に、ヤマハからVY1が発売されたのですが、まず特定のアバターやキャラクターを持たない、単純に楽器としてのボーカロイドというコンセプトに惹かれたんですね。未だに他にないと思うのですが、自分自身、当時は音楽に声と歌詞を乗せたいだけであって、そこにキャラクター性を乗せたくはなかったし、単純に声も自分の好みだったので、VY1でアルバムを作るようになりました。

ーー確かに、仮に初音ミクに歌わせるとなると、聴き手は初音ミクのキャラクター性も加味して音楽を聴く可能性がありますものね。

サノ:はい。今や作られる楽曲の数が尋常ではないので、むしろキャラクターがぼやけた存在になっている一面もあると思いますが、そもそも初めからキャラクターを持たないというのが、自分としてはちょうどよかったです。POPYとは真逆ですけど、いい意味で色がない声で、声にもキャラクター性が感じられないので、言葉の意味だけを受け取ってもらえる印象があったんですね。

ーーその意味では、POPYとVY1は対照的な存在ですが、どちらにもそれぞれの利点と魅力があると。そんなサノさんが感じる、POPYおよびCeVIO AIの利点、おすすめポイントを最後に教えていただけますでしょうか。

サノ:まずCeVIOのお話からすると、曲中でスケールを変えることができるんですね。キーが「Cメジャー」のときはピアノロールが「ド=赤」「レ=オレンジ」「ミ=黄色」のように配色されているのですが、「Dメジャー」にすると「レ=赤」のようにズラしてくれます。そして楽曲の途中でキーを変えると、その位置からピアノロールの色が変わる……という凝った仕組みになっています。DAWでもそういった機能はあまりない気がしますし、すごく気が利いた親切な設計だと思います。きっと色んなことを考えて開発されているんだろうなと感じました。

ーーユーザビリティの面で優れた部分があるんですね。

サノ:そのうえでPOPYは、ベタ打ちしただけでも、POPYなり香澄なりの歌い方、人格の宿った歌い方というものが即座に成されるのが一番の魅力だと思います。CeVIOは歌の修正を行うときも視覚的にわかりやすくできているので、歌い方を自分でチューンナップしたいときにも小回りが効くという印象です。その上でPOPYは、まさに機械らしくも、人間らしくも、どちらにも振れるライブラリだと思います。初心者の方にもかなり触りやすいと思うので、おすすめしたいですね。

ーーサノさんも今後、POPYを用いて楽曲を制作していきたいですか?

サノ:せっかく使い方を覚えたのもありますし、また作ってみたいですね。ただ、「alternative」で終わったほうがかっこいいかなとも思っていて(笑)。とはいえ、どうなるかはわからないので、これからも見守っていただきつつ、みなさんからの“次の言葉”を聴かせていただけると嬉しいですね。

■リリース情報
夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer POPY(ポピー)
1st Album『Infructescence』

1,000個限定グッズ付特装盤:9,900円(税込)
通常盤:3,850円(税込) 

[CD]
1.コンペイトウさん過激派 / STEAKA
2.Be born / メガテラ・ゼロ
3.明晰メモリー / ナナホシ管弦楽団
4.だって、キラキラ。 / アザミ
5.ラビリンス / higma
6.バズらない愛 / もの憂げ
7.天使俱楽部 / 是
8.チャーリイ / エイハブ
9.alternative / kamome sano
10.LC / ueil
11.怪電話 / r-906
12.Freak Out Hr. / 雄之助
13.花呼ぶ声 / kemu
ボーナストラック
14.Freak Out Hr.(夢ノ結唱POPY×香澄ver.)
夢ノ結唱作曲コンテスト 入賞楽曲
15.私色きらめき日和 / ますかっと
16.Starry Phrase! / Fty

[付属グッズ] ※1,000個限定グッズ付特装盤のみ
・アクリルスタンド(POPY ver.)
・特製スリーブ&フレーム付き 夢ノ結唱複製原画セット(POPY ver.)
詳細:https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10662

夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer ROSE(ローズ)
1st Album『Blütenstand』

1,000個限定グッズ付特装盤:9,900円(税込)
通常盤:3,850円(税込) 

[CD]
1.役にすがる / 一二三
2.変身シンドローム / 亜沙
3.エトス / BCNO
4.シテキセイサイ / アザミ
5.SUSHI-GO-ROUND / 鬱P
6.グッド・バイ / john
7.I no rockstar / メガテラ・ゼロ
8.禁略フォビドゥン / ナナホシ管弦楽団
9.ユーフォリア / 佐高陵平
10.怪電話 / r-906
11.Freak Out Hr. / 雄之助
12.花呼ぶ声 / kemu
ボーナストラック
13.Freak Out Hr.(夢ノ結唱ROSE×友希那ver.)

[付属グッズ] ※1,000個限定グッズ付特装盤のみ
・アクリルスタンド(ROSE ver.)
・特製スリーブ&フレーム付き 夢ノ結唱複製原画セット(ROSE ver.)
詳細:https://bushiroad-music.com/musics/brmm-10664

『夢ノ結唱』公式サイト
https://yumenokessho.bang-dream.com/

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