愛美&相羽あいなの声による音声合成ソフト「夢ノ結唱」シリーズが与える新体験 ナナホシ管弦楽団、雄之助らの制作楽曲を聴いて
ChatGPTなどの対話型AIや画像生成AIツールなどが話題となっている昨今。音楽の分野においても、音楽そのものを自動生成するツールが数多く登場しているが、それとはまた違った角度から注目を集めているのが、AI技術を用いた音声合成ソフトだ。これは、事前に録音した歌声の音声から素材を切り出して加工する従来の音声合成技術よりも、さらに“人間らしい歌声”を再現することが可能で、近年ではバーチャルシンガーの花譜の歌声をもとにした人工歌唱ソフトウェア「可不(KAFU)」が、様々なボカロPを中心としたクリエイターに使用されて認知を広めている。
その「可不(KAFU)」と同じく、CeVIOプロジェクトが開発した音声創作プラットフォーム「CeVIO AI」とのコラボレーションにより開発された、次世代ガールズバンドプロジェクト『BanG Dream!』(以下、『バンドリ!』)発の新たな音声合成ソフトが、ここで紹介する「CeVIO AI 夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer POPY」(以下、POPY)と「CeVIO AI 夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer ROSE」(以下、ROSE)。POPYは、リアルバンドとしても活躍する『バンドリ!』の看板バンド・Poppin'Partyのギターボーカル・戸山香澄(CV:愛美)の歌声を深層学習などのAI技術により高精度に表現。もう一方のROSEは、同じくリアルバンドとしてロックフェスなどにも出演するRoseliaのボーカル・湊友希那(CV:相羽あいな)の歌声がもとになっている。2022年12月に各ソフトが発売されて以降、各々特徴的な響きを持った彼女たちの歌声は様々なクリエイターたちの創作意欲を刺激し、現在までに多くの楽曲が制作・発表されてきた。それらの音源をPOPYとROSEのそれぞれでまとめたのが、この度リリースされた2枚のアルバムだ。
そのうちPOPYの1stアルバム『夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer POPY(ポピー)1st Album「Infructescence」』には、彼女特有のキラキラ成分が多く含有された歌声の魅力が引き立つ楽曲を多数収録。特にナナホシ管弦楽団が得意の電波ソング調でアッパーに仕立てた「明晰メモリー」、音楽系VTuberのアザミによるキュートな乙女心が全開な「だって、キラキラ。」などでは、戸山香澄本来のイメージに近い元気でポップな要素がフックになっている。その意味では、独創的かつ中毒性の高いポップセンスで注目を集める是の「天使俱楽部」も最高にファニーでファストなナンバーなのでぜひ耳にしてほしい。エイハブ「チャーリイ」のローファイギターポップ感、気さくで緩いフィーリングも新鮮だ。
その一方で、higmaによるどこか陰りのあるエレクトロポップ「ラビリンス」、肉声感を強調しつつ合成音声全般に特有の不思議な哀愁も湛えたueil「LC」の幻想的なエレクトロニカなど、もとになったキャラクターらしさ(戸山香澄らしさ)から飛躍した歌声や世界観を追求した作品もあるのが、本作のおもしろいところ。なかでもkamome sanoのプログレッシブなフューチャーポップ「alternative」が描く圧倒的なスケール感、伸びやかで無限の広がりを感じさせつつ、ある種のカオティックさも有した音世界からは、従来の香澄の歌声にかなり寄せた調声も相まって、戸山香澄という存在をモチーフにした新たな物語、IFのストーリーを見ているような感覚が得られて、POPYだからこその新しい体験ができた気がする。