白風珈琲×Sou、コラボ曲の制作は“新しい物語のはじまり”に 改めて感じたお互いの魅力、意外な共通点も

 ボーカロイドなどの音声合成を用いつつ、マスロックなどから影響を受けたフレーズが波のように折り重なるサウンドや、文学性の高い歌詞を取り入れたスタイリッシュな音楽性で注目を集めるアーティスト・白風珈琲。彼が約7カ月ぶりの新曲となる8thシングル「プロローグの終わりと、これから。 feat.Sou, 雨歌エル」を完成させた。

 この楽曲では、歌い手のSouとのコラボレーションが実現。Souと歌声合成ソフトウェア・雨歌エルがデュエットする、「新たな物語のはじまり」が感じられる楽曲になっている。

 白風珈琲とSouに、今回の楽曲の制作過程や、アーティスト/クリエイターとして日頃から2人が大切にしていることについて聞いた。(杉山仁)

白風珈琲×Sou、コラボに至るまで

――そもそも、お2人が知り合ったきっかけはどんなものだったんですか?

Sou:僕が色んな方の楽曲を聴いたりする中で、白風さんの曲がいいなと思ってフォローしたのが最初だったと思います。たぶん、僕からフォローしたんですよね?

白風:そうだと思います。それが確か、僕が「氷上に駆ける feat. 雨歌エル」を出した頃の話ですね。

Sou:白風さんの曲は、実は1作目から聴いてはいて、ニコニコ動画でマイリス(マイリスト)もしていたんですけど、「氷上に駆ける feat. 雨歌エル」は僕にとって特にどストライクの曲だったんです。たくさんあるボカロ曲の中でも、白風さんの曲は異彩を放っている感じがしました。

――ひとつの音が違ったら全部変わってしまうような、繊細な構築美が感じられますよね。

Sou:そうですよね。聴かせていただいて「最高だな」と思いました。

――じゃあ、そこからすぐに交流がはじまったんですか?

Sou:いえ。その後も僕が白風さんの曲が出るたびに聴いて「すげー!」と言っているだけで、交流がはじまったわけではなかったです。もともとフォローをしたのも、自分がいいと思った方を応援したいというだけの気持ちだったので。直接やりとりをはじめたのは……いつぐらいのことでしょうね?

白風:たぶん、僕が去年の12月に2ndアルバム『TSUKI』をリリースした時に、Souさんにお祝いコメントをもらったのがほぼ初めてです。正確に言うと、その前にたまたまオンラインのゲームで味方としてマッチングしたことはありましたけど。

Sou:そうでした! お互いそのままの名前でゲーム内で偶然マッチしたので、「あれ?!」とビックリしたんです。流石に「白風珈琲って名前の人は他にいないよな?」と。

白風:そうそう。しかもあの時、勝てなかったんですよね(笑)。

Sou:全然勝てませんでした。VC(ボイスチャット)があるゲームではなかったので、会話するわけでもなく、純粋に同じゲームでマッチングしただけでした。それで僕が白風さんに「今、マッチしてました?」と送ったら、「してました」と返事が返ってくるという不思議な交流がありました(笑)。あと、僕はよくTwitterで白風さんの曲を聴いて感想をつぶやいたりしていたので、一度白風さんから「感想を教えてほしい」と曲を送ってくださったこともありました。

白風:その後、がっつりかかわることができたのが、『TSUKI』のお祝いコメントをお願いしたときだったんです。あのお祝いコメントの人選は、つながりがある/ないに関係なく、僕のことを知ってくれていて、ちゃんと曲を聴いてくださるるだろうな、と思った方にお願いしました。Souさんは曲への向き合い方が真摯で、ちゃんと自分の中に落とし込んで聴いてくださる、という印象があったので、ぜひコメントをお願いしたいと思ったんです。

――白風さんが「この人に聴いてもらいたい」と思った人の中に、Souさんがいたんですね。

白風:そうなんですよ。同じものづくりをしている人同士とは言ってもちょっと分野は違うので、新鮮味もありつつ、とても嬉しかったです。

――そして、その延長線上に今回のコラボが生まれた、と。

白風:はい。今回の「プロローグの終わりと、これから。 feat.Sou, 雨歌エル」は僕にとって約7カ月ぶりの新曲ですけど、去年『TSUKI』を出したときに、僕の中でひとつ区切りができた感じがして、今後はもう少し理想に近づけた音楽をやっていこう、と思うようになりました。それで誰かにボーカルをお願いしたいと思ったんですけど、「歌ってもらうならSouさんがいいな」と。僕はもともとマスロックやパンクのような生モノが好きな人間で、ボーカロイド自体もあまり聴いてきたわけではないので、いわゆるボカロPとしては、向き合い方が適切じゃないと思うところがあって。「歌ってみた」についても、正直に言うとあまり興味を持ってはいませんでした。でも、Souさんの歌は、歌い方一つひとつに感情が入っていて、単なるカラオケと同じ括りに分けられるようなものではないな、と思ったんです。

Sou:よかった……!

白風:自分の曲で歌ってもらうなら、感情をリアルに表現してくれる人にお願いしたいと思っていたんです。僕の場合、「歌ってみた」のSouさんのファンではなくて、単純にSouさんのファンという感じです。

プロローグの終わりと、これから。 feat.Sou, 雨歌エル

根底にあるのは「芸術家でありたい」という想い

――いいお話ですね。この曲をつくりはじめた頃のことを思い出してもらえると嬉しいです。

白風:実はこの曲は、去年の12月ごろにはほぼできていたものの、一度ボツにしています。でもそれが、時間を空けて聴いてみたら耳触りがよくて、自分でも納得いく言葉が書けていたのでリリースすることにしました。

 実は僕の曲のつくり方ってちょっと変わっていて、曲のパーツごとに進めていくタイプなんです。まずはAメロだけをつくって、その部分だけ歌詞も書いて、マスタリングまで完璧にやってしまってから、次にBメロに取り掛かって、Bメロの歌詞を書いて、マスタリングをして……という感じで、つねにぶつ切りでつくっているような方法で。

Sou:へえ!

――とても珍しいタイプの制作方法ですね。

白風:1曲通してではなくて、セクションごとにつくっていくことで、それぞれのバースにかける力や濃度みたいなものが上がるのかな、と思っているんです。その時点では全体を通してのテーマがあるわけではなく、その時々に影響を受けるものがあって、それをセクションごとに落とし込んでいくので、すべてのパートがメインメロディという感覚なんですよ。

――白風さんの曲にはマスロック的な構築美を感じる瞬間が多々ありますが、あの独特の雰囲気は、強いフレーズやセクションを結合して曲ができているからなんですね。

白風:たぶんそういうことなんだと思います。なので、僕が自分の曲に対して話すイメージは、時間を置いてみたときに「なぜこれをよしとしたのか?」という客観的な感想になってしまうんですけど、今回の曲だと、まず感じたのは「この曲が自分の現状とぴったり合っている」ということでした。

 12月に『TSUKI』をリリースしたあと、僕自身は色々と人生の大きな転機を迎えました。結婚もしたし、身を置いていた大学での研究から離れて、音楽一本に絞ったこともあって、色々な面で門出のタイミングだったんです。今回の歌い出しの〈黎明、夜明け。日の出は遠く。〉という歌詞はまさにそういう雰囲気で、小説などで冒頭に同じ意味の言葉を並べるようなクドい表現のように、自分が特に言いたいことを強調していると思うんですよ。

――実際に、全体を通して次に向かって進んでいくようなイメージが浮かぶような楽曲になっていますね。Souさんの歌についてはどんなふうに進めていったんでしょう?

白風:僕の依頼はすごくシンプルで、「好きなようにやってください」ということでした。

Sou:いやぁ、すごい依頼がきたなぁと……! 本当に「好きにやっちゃってください」という依頼が送られてきたので、最初は「どんなふうにしよう」と色々考えました。

白風:依頼の仕方としては、完全に駄目なやつですよね。

Sou:(笑)。よくあるパターンだと、曲とガイドメロディが送られてきて、「何かプラスで加えたければどうぞ」というものが多いんですけど、今回はどのセクションにハモリを入れるかも含めてすべて委ねてもらったので。「いやぁ、どうしよう!」ってなりました、最初は。

白風:すみません、ほんとに(笑)。

Sou:いえいえ。ただ、白風さんの曲って繊細に成り立っているので、ただ好きに暴れていいわけではないよな、慎重にやる必要があるな、と思いました。特に今回は、僕とボーカロイド(雨歌エル)とのデュエットでもあったので、生身の人とのコラボとは違って歌声のテンションを合わせる必要もあって。最初はずっと曲を聴いて歌い方を考えるところからスタートしました。

――歌割りについては、あらかじめ白風さんが決めていたんですか?

Sou:そうですね。それぞれにどこを歌うのかは白風さんが決めてくれていたんですけど、僕の方でボーカロイドパートの方にハモリを入れたり、空いているところにハモリを入れたりするのも自由にやってください、という感じで。無限の余地をもらった感覚でした。それで色々と考えたんですけど、まず意識したのは「(ボーカロイドの歌声に合わせるために)なるべく無感情でありつつも、のっぺりとは歌わない」という、その一番いい塩梅を見つけることでした。「表情があるようでない感じ」というか。

――確かに、この曲での歌は普段のSouさんと比べると淡々とした表情のものでありつつ、ポエトリーリーディング的な感覚で抑揚をつけていくようになっている印象です。

Sou:白風さんの曲は小説っぽい歌詞も魅力的だと思うんですけど、小説って筆者が書いている文章なので、あまり感情を乗せすぎてしまうのは違うのかな、とも思っていました。

白風:なるほど。その歌い方、曲にめちゃくちゃ合っていると思いました。これは僕がものづくりをするうえで大事にしていることで、何で今回のような依頼の仕方をしたかという部分とも繋がる話なんですけど、僕がつくりたいのはビジネス用の音楽ではなくて、もっと生モノというか……大きなことを言ってしまうと、「芸術家でありたい」ということで。売れることを目指す場合は、ある程度の正解があると思うんですけど、僕の場合はつくり出すものに正解があるわけではなくて、今ここにいるということをただ書き記しているような感覚なんです。同じように、Souさんも自己を持っているシンガーで、自分の声だけで存在を証明できる方だと信頼をしていたので、Souさんにしかできない歌にしてもらうためにも、今回のような依頼をさせてもらいました。

Sou:すごくいい体験でした。今、白風さんが言ってくださっていたことが本当に伝わってきたというか、「生モノ」という感じがすごくして。(正解が決まっていないので)ちょっとヒヤヒヤとしながらも、楽しく歌わせてもらいました。

――2人で相談して変更を加えた部分はあったんですか?

白風:実は、ほぼなかったんですよ。

Sou:逆にそれが、自分の歌に対しての感度を上げてくれたような気がします。「これどうですか?」と歌を出して、「いや、こうしてください」と返事が返ってくるのって、ある意味ではすごく楽な面もあるじゃないですか。それに対して今回は「何を出しても通ってしまう」ことで、逆にこっちも気を張らないといけないというか。そういう感覚がありました。

――お互いの魅力を出し合うような、本当の意味でのコラボレーションになっていたんですね。Souさんのボーカルの中で白風さんが特に印象に残っているところはありますか?

白風:全部ではあるんですけど、強いて言うなら、イントロが終わったあと〈目が回る、世界に背中向け〉というフレーズが2回繰り返されるんですけど、僕自身としては、それを2回歌うことに意味があって、歌い方としては淡白でもいいと思っていたんです。でも、Souさんは1回目と2回目で声の圧を変えて、2回目にはコーラスを加えてくれていて。最初に聴いたときは、僕の感性とは外れているのかなと思っていたんですけど、時間を置いてみたら、「これはいい!」と思うようになったんです。

Sou:ああ、よかったです!

白風:あとは、最後のサビですね。〈果ては見えないままで/霧雨の森と静寂を身に纏って〉のところは、データを見たらSouさんが声を5つぐらい重ねてくれていて、「折り重なっとるやん!」と驚いたんです。僕はこれまで人の声のミックスをしたことがなかったんですけど、何とかミックスを終えて聴いてみて鳥肌が立ちました。

Sou:それはめちゃくちゃ悩んだ部分でした。歌として最後に向けて盛り上げていきたいとは思っていたんですけど、かといってこの曲は力強く盛り上げるタイプの曲ではないので、「どんなふうに盛り上げていこう?」と考えたんです。じわっとだけれど、でも一瞬で熱を感じられるようなものにする方法を模索する中で出てきたのがコーラスを重ねる方法でした。

――この曲に合う盛り上げ方を考えていったんですね。

Sou:僕の場合、曲を聴きながら歌い方を考えているときに、たまに後ろでコーラスが聞こえるような瞬間があったりするんです。そういうものが出てくるまで、それこそゲームをする間に流したり、お風呂に入ったときに聴いてみたりして考えていきます。

白風:おかげさまで、めちゃくちゃいいものにしてもらいました。聴いていても「これを録るのは大変だっただろうな」ということが滲み出てくるようでした。

――逆にSouさんは、この曲で好きなところはありますか?

Sou:僕も全部好きではあるんですけど、特に歌い方で意識した部分は、間奏の前の落ちサビの、ちょっとラジオボイスになって〈黎明、夜明け。日の出は遠く。〉という言葉が出てくるところですね。この歌詞は冒頭にも出てきますけど、そことは明らかに歌い方を変えて、ちょっと感情的な、エモーショナルなものにしていきました。ここはかなりこだわった部分で、本当に何回も録り直しました。

白風:やっぱり。そうだと思ったんです。音源をもらったときに、「ここでエモーショナルな雰囲気を出してくれたんだな」ということが伝わってきたので、実はそこだけは、Souさんが歌を入れてくれてからギターの音を変えています。

Sou:言葉で伝えたわけではなかったので、伝わっていたことを今知れて嬉しいです。

白風:Souさんは曲に歩み寄ろうとしてくれていて、本当にお願いしてよかったなと思いました。「これができる人ってなかなかいないよなぁ」と。

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