Kroi、NHKホールに刻んだ“生きている証” 興奮と祝祭感が渦巻いた『Magnetic』ツアーファイナル

Kroi、NHKホールレポ

 Kroiが全国ツアー『Kroi Live Tour 2023 “Magnetic”』のファイナル公演を東京・NHKホールで開催した。EP『MAGNET』を携え、約1万7000人を動員した今回のツアーは、各地のライブハウスを巡る「BLUE」と東阪のホール会場で行う「RED」の2形態で開催された。過去最大キャパとなるNHKホールはソールドアウトとなり、現在のKroiの勢いを改めて見せつけた。

 メンバー自身の(リラックスしまくった)開演前アナウンスでユルい空気を生み出した後、いきなり客席の照明が落とされ、そのままライブがスタートした。まずは益田英知(Dr)が推進力のあるビートを叩き、関将典(Ba)のベース、長谷部悠生(Gt)のギター、千葉大樹(Key)の鍵盤、内田怜央(Vo)のパーカッションが加わり、しなやかにして濃密なバンドサウンドが出現。「Everybody Funky!」というシャウトとともにオープニングナンバーの「Juden」へ。メンバー全員のソロ演奏を交えながら観客の身体を揺らしまくった。さらにスムーズ&メロウなグルーヴと内田の鋭利なラップの対比が気持ちいい「shift command」、内田のギターカッティング、関のジャジーなベースソロが印象的だった「夜明け」など5曲を30分近くに渡ってシームレスにつなげる。すべての曲のなかに全員の見せ場が用意され、“5人が主役”というバンドの理想的な姿がそこにあった。メンバーそれぞれの個性とセンス、演奏技術を打ち出しながら、ライブ全体の熱を上げていくステージングも圧巻。イントロ、間奏、アウトロとともに音源とは異なるアレンジが施され、インプロビゼーション的な要素も多分に含まれているのだが、決して自己満足に陥らず、すべてが“客のテンションをアゲる”という作用につながっている。音楽そのもの、演奏そのものを全身で楽しむオーディエンスのリテラシー(そして“とことん楽しもう”とする態度)も素晴らしい。

 「Kroiワンマン、最大キャパでございます。お越しくださり、ありがとうございます」「『Magnetic』というツアーを回って、NHKホールでファイナルを迎えることができました。今回もいろんな歴史を紡いだ感じがしますね」「我々、声出しがないところでお客さんが増えていったので。今日はバンバン声出してください!」(内田)というMC、そして、「Drippin' Desert」の後は、EP『MAGNET』の楽曲が次々と披露された。ミラーボールの美しい光とともに放たれた「Astral Sonar」は、宇宙的な浮遊感〜混沌とした爆発力を行き来するようなアレンジが印象的。実験的とも言えるサウンドメイクや楽曲構成には、このバンドの自由な発想力がたっぷりと込められていた。続く「cranberry」は、ブルースを基調としたインストナンバー。関はアップライトベースを弾き、長谷部はいぶし銀にして男臭いギターソロを響かせる。彼らのルーツの一端が感じられたのも興味深かった。

 ブルースとファンクが混ざり合い、Kroiのディープな音楽性をたっぷりと感じることができた「Funky GUNSLINGER」(アルバム『telegraph』)、アップテンポのファンクチューン「sanso」(アルバム『LENS』)、そして、いつも通りのユルすぎるMC(益田の衣装が衝動買いしたグッチだとか、そういう話)を挟み、「EPの推し曲というか、私が好きな曲ですね」(内田)という「PULSE」へ。鋭利に歪んだギターサウンド、性急なビート、〈動かす 価値観 打ち出す 快感〉〈譲れないあの衝動/もうLet me Out〉というフレーズが響き合い、刺激的な空間を生み出していた。

 そしてライブ中盤の最大のポイントは「Hard Pool」だったと思う。セクションごとに曲調が大きく変化する構成は、まさにKroi流のミクスチャーサウンド。あらゆるジャンルを貪欲に飲み込んだ独創的なバンドグルーヴ、日本語の響きを活かしながら、聴き手の想像力を刺激するボーカルを含め、このバンド本来の特性がさらにアップデートされた楽曲だ。このハイブリッドなナンバーをライブアンセムとして機能させる演奏力、パフォーマンス力の高さにも驚かされた。今回のツアーで彼らは、ライブバンドとしてのポテンシャルをさらに引き上げたようだ。

 「最高の1日にすでにもうなってます。こんなに俺らの音楽を聴いてくれてる人がいるのはヤバい」「いままでリリースしてきた曲が一堂に会して、自分たちの足跡を見せているような気がして感慨深いです」(内田)という言葉に導かれた「風来」も強く心に残った。70年代のニューソウルの佇まいを感じさせるこの曲は、内田のソウルフルな歌声が光るミディアムバラード。現在の社会の在り方――あらゆる価値観が崩れ、変化していく――を反映したリリックにも生々しいメッセージが備わっていた。多彩な魅力を持ったバンドだが、核にあるのはやはり内田の歌なのだろう。

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