Kroiが“音楽”で撃ち抜いてきたものとは何か 満員のZepp DiverCityワンマンの景色に思うこと

Kroi『Survive』ツアーファイナルを観て

 Kroiが今年最初にリリースした曲が「Small World」というタイトルだったのはとても印象的な出来事だった。まさに「飛ぶ鳥を落とすような」と言いたくなる勢いで規模を大きくしながら快進撃を続けるバンドが、そんな喧騒の最中に投下したのが「小さな世界」と名付けられる音楽だったのだ。その音楽は、部屋でひとり革命を望むような、どこか偏狭的な思念に囚われた人間の精神性を描いているようで、内田怜央(Vo/Gt)というソングライターのなかに確実に存在しているひとつの表情が表れているのではないかと感じさせた。また、アルバム『LENS』に収録された曲たちがそうであったように、どこか労働者的な目線で世界を見る眼差しが歌詞の中に入り込んでいるのもよかった。目の前に並ぶバイト代。Kroiの音楽はリアルな生活感から発されているもののように感じるのだ。

 そして、続いて5月に配信リリースされた「Pixie」。この曲の歌詞の最後に綴られている〈Can you find the fairy in these gloomy days?〉というラインは、ときに地獄のような姿に変わる、先の見えない暗闇の中を歩くようなこの人生をどうやって生き延びるべきなのか、という問いに対してのKroiからのひとつの提案のようにも感じた。しかしながら、そうしたポイントは「Pixie」に限った話ではなく、「Small World」もそうだし、他のKroi楽曲においても言えることなのだろう。この出口のない世界を、「出口なんてない」とわかったうえで生き延びるためのヒントがKroiの音楽には散りばめられている。彼らは、私が見る妖精とあなたが見る妖精は違うことをわかりながら、それを奏でている。……まあ、実際に取材で何度か対面したKroiの面々の雰囲気を考えれば、「そんなこと考えてないっすよ~」と軽くいなされそうだし、実際、こちらの考えすぎかもしれないのだけれど。この「Pixie」の冒頭、トライバルなビートを叩き出すドラムと野性的な咆哮に続いて聴こえてくるくしゃみの音がキーボードの千葉大樹(Key)によるものだと私が知ったのは、5月25日にZepp DiverCityで開催したワンマンライブでのことだった。

 Kroi史上最大規模のワンマン、かつソールドアウト公演となったZepp DiverCityでのライブを観た。私がKroiのライブを観るのは去年8月の恵比寿LIQUIDROOM公演以来だったが、バンドのスケールが格段に大きくなっていることを感じさせるライブだったように思う。去年のLIQUIDROOMで時折感じさせた、「どうしてもふざけなければ気が済まない」といったようなユーモアに対しての熱心さとは打って変わり、より遠くにいる人まで音楽を届けるためのストイシズムを得ているような、そんなバンドの心境の変化を今回のZepp DiverCityのライブでは感じさせた。「笑い」というのは少人数で(それこそSmall Worldで)共有されればされるほど濃度は高まるものだし、音楽的な面でもそんな密室的な熱狂を伝播させてきたことにこれまでのKroiの美しさはあったと思うが、このZepp DiverCityでのワンマンは、より広い世界を見つめながら、今まさに変わっていくKroiの現在の姿を強く感じさせるものだったのだ。

Kroi(写真=Leo Youlagi)
Kroi(写真=Leo Youlagi)
Kroi(写真=Leo Youlagi)
Kroi(写真=Leo Youlagi)
Kroi(写真=Leo Youlagi)
内田怜央
長谷部悠生
関将典
益田英知
千葉大樹
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内田怜央
長谷部悠生
関将典
益田英知
千葉大樹
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 全体的にバンドのキャリアを網羅しながら、新曲「Small World」を1曲目に、そして序盤から「Balmy Life」や「Juden」といったキラーチューンを立て続けに投下していったセットリストの流れにも、バンドの前のめりな姿勢を感じさせた。恐らく、作られた当時はこうした大会場で披露されることなんて想定されていなかったであろう「Fire Brain」や「Suck a Lemmon」といった最初期の楽曲たちが、アンコールにおいて、凄まじい熱気の中で解き放たれた瞬間にも、やはり今のKroiのバンドとしての強さを見た。4月の大阪BIGCAT公演を含む『Kroi Live Tour 2022 "Survive"』と名付けられた今回のツアーは、Kroiの大きなターニングポイントを刻んだツアーとして、この先も記憶されるだろう。

Kroi(写真=Leo Youlagi)

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