雨宮天、昭和歌謡曲カバーから歌唱表現の奥深さを分析 布施明、荒井由美、欧陽菲菲らの名曲を巧みに歌いこなすボーカル力
声優、歌手として活動する雨宮天。2012年に声優としての活動をスタートさせてから、アニメやゲームだけに限らず、洋画の吹き替えなどで、要人物を数多く演じているほか、ユニット TrySailでも人気を博している。また、2014年からソロ歌手としての活動もスタートさせ、リリースやライブなど精力的に活動を展開中だ。2020年には幕張メッセにて自身最高規模のライブ『雨宮天ライブ2020 “The Clearest SKY”』を成功させているほか、2021年には声優として初めて音楽YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に出演するなど、名実とも“歌手”としての存在感を発揮している。
これまでリリースした13枚のシングル、並びにベスト盤とカバーアルバムを含む6枚のアルバムすべてがオリコンチャートの上位にランクイン。アルバムにおいては全作品が10位以内を記録している。チャートが多角的になっている現在において、あくまでひとつの指標だが、シングルよりアルバムが上位にランクインしている結果は、雨宮天が、例えばCV(キャラクターボイス)が歌うアニメをバックボーンにした楽曲ではなく、オリジナリティを持ってしっかり歌手活動をしてきたことが結実し、彼女自身が音楽シーンに根付いた1人のボーカリストであることを証明していると思う。
そんな雨宮天が昭和の名曲をカバーするアルバム『COVERSⅡ-Sora Amamiya favorite songs-』をリリースした。2021年にリリースされ、オリコンチャート最高8位を記録した『COVERS -Sora Amamiya favorite songs-』に続くカバーアルバム第2弾である。歌謡曲好きを公言し、定期的に歌謡曲をカバーするイベント『雨宮天 音楽で彩るリサイタル』も開催してきた彼女。『COVERSⅡ-Sora Amamiya favorite songs-』の収録曲を見ると、本人がいかに“昭和の歌謡曲”を好きで聴き込んでいるかがわかる。
誰でも知っている曲でありながら選曲がマニアックなのだ。男性ボーカルあり、女性ボーカルあり、曲調や年代もバラエティに富んでいる。そして、歌い切る実力がなければセレクトできない曲ばかりだ。さらにどの曲も、若干のアレンジは加えているものの、曲のイメージを決めるサウンドの音色やフレーズなどは残しているほか、BPMもほとんど変えることなくカバーしている。ここに、雨宮天の歌謡曲に対するリスペクトが垣間見られる。
さらには、楽曲毎にガラリと声音を変えて曲に寄り添っている。つまり、カバーする各楽曲の歌い方までしっかり自分の中に落とし込み、カバーしているのだ。例えばオープニングを飾る布施明のカバー「君は薔薇より美しい」では、布施明の持ち味であるオペラ歌手に匹敵するような声量あるロングトーンを、同様の迫力で伸びやかに聴かせている。荒井由実のカバー「卒業写真」の歌い出しでは、スパーンとそのまま声を出すのではなく、口の中で反響させるようなニュアンスで歌い、まさにユーミンを彷彿させるアプローチをみせる。
男性デュオグループ H2O「想い出がいっぱい」は、Aメロでの低音の発音の綺麗さが際立つが、もともと持っている自らの声の透明感を前面に出したサビなどでのアプローチが、原曲の持つメロディの柔らかさにばっちりはまっている。荻野目洋子のカバー「ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)」は、ユーロビートのアップチューン。原曲が大ヒットしたのは1985年。高い歌唱力を持った荻野目洋子のロングトーンを封印気味にした上で、リズムを重視し、日本語の単語を途中で切るようにしてメロディにのせる手法が、当時とても斬新だった記憶があるが、雨宮天はこのアプローチも自分のものにしている。特に歌い出しの“あい・し・てるよ・なん・て”は、聴いていて当時の荻野目洋子を彷彿させるほどだが、後半へ向かい、グラデーションをかけるように自分の声質に移行していき、サビでは雨宮の声になっているあたりがじつに見事だ。