声優と歌謡曲、なぜ相性が良い? 雨宮天らカバー作品から聴き解く、時代性さえも表現する歌声
声優の雨宮天が、初の歌謡曲カバーアルバム『COVERS -Sora Amamiya favorite songs-』を10月6日にリリースした。歌謡曲好きで知られる声優は多く、過去には人気声優が松田聖子ナンバーをカバーした作品『VOICE~声優たちが歌う松田聖子ソング~』も発表されている。令和の時代、なりたい職業の上位に位置する声優たちが、なぜ次々と歌謡曲をカバーするのか。その魅力と意義を考える。
雨宮天から溢れる歌謡曲愛
近年のシティポップやレトロブームに伴い、昭和の歌謡曲にも注目が集まる中、雨宮は自身のレギュラーラジオでも歌謡曲を語るコーナーを持つほか、文化放送で1時間の歌謡曲特番のパーソナリティを担当するなど、とにかく歌謡曲をこよなく愛していることで知られる。この『COVERS -Sora Amamiya favorite songs-』では、渡辺真知子「かもめが翔んだ日」や八神純子「みずいろの雨」など、彼女自身がフェイバリットに挙げる11曲をセレクト。発売時期が近い楽曲が多く、まるで在りし日の『ザ・ベストテン』(TBS系)を見ているかのようなラインナップが魅力だ。楽曲のアレンジは原曲が重視されており、曲によってはフェードアウトで終わらせる徹底ぶりで、昭和の趣に対するリスペクトが感じられる。また、成りきった声色や情感が込められた歌い上げ方からは、どれだけ聴き込み歌い込んできたのかが伝わる。このアルバムの魅力は彼女の歌謡曲に対する、海よりも深い愛に尽きるだろう。
昭和レトロをこよなく愛する声優は多く、中島 愛は歌謡曲/シティポップのレコードを収集するコレクターとしても知られる。2019年には、デビュー10周年記念企画として松田聖子、河合その子、安田成美などをカバーしたミニアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』をリリースしているほか、文筆家・甲斐みのりとの共著で80〜90年代の名曲をナビゲートした書籍『音楽が教えてくれたこと』(mille books)も発売。80年代アイドル好きが高じて、架空の80年代アイドル“めぐちゃん”を生み出したほどだ。
また、ミリタリー、ロシア、メタル、ロリータ、プロレスなど多趣味なことで知られる上坂すみれも、昭和歌謡を愛する1人だ。上坂が監修を務め、80年代アイドルをテーマにしたコンピレーションアルバム『上坂すみれpresents 80年代アイドル歌謡決定盤』では、セイントフォー、ラ・ムー、伊藤つかさ、倉田まり子、高見知佳などマニアックな選曲センスを発揮し、同作には上坂による工藤静香のカバー「MUGO・ん」のカバーも収録された。
彼女たちは、幼少期から家族など環境による影響で昭和歌謡に慣れ親しむようになったという。幼少期を過ごした90年代の音楽シーンは、J-POP一色に染まり、小室サウンドや<ビーイング>アーティスト、SPEEDなどのダンス&ボーカルグループが席巻。また、アイドル氷河期とも呼ばれた時代だ。そんな中で、歌謡曲の持つ独特の憂いとキャッチーさに新鮮さを覚え、80年代アイドルの華やかな衣装に胸をときめかせただろうことは頷ける。中島が生み出した“めぐちゃん”は、当時(=80年代)に生まれていたかったという決して叶えることのできない願望の結晶だ。また、雨宮の作品からはこの歌謡曲愛を誰かに伝えたい、という熱い思いが溢れ出ている。