リアルサウンド連載「From Editors」第10回:『OVER THE SUN』で味わうコンテンツと友達になる感覚
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
他の編集部員の更新を読んでいると、そういえば私はあまり映画を見ないなということに気付きます。大学生の途中くらいまでは時間に余裕もあり、かなりの頻度で映画を見てはFilmarksを更新する日々を送っていましたが、ある日突然、いわゆる「グロ耐性」みたいなものがなくなってしまい、ホラーはもちろん、サスペンス映画も厳しく、かなり入念に下調べをしないと映画を見られない体になってしまいました。
というわけで、他の方は映像作品についてここに書くことが多くなりそうなので、私は他のものについて書いていきたいなーという小さなテーマを個人的に設けています。今回はPodcast番組について。
コンテンツと仲良くなる『OVER THE SUN』
ラジオ、Podcast番組を聴く習慣がある人にとってはもう説明不要なほど有名な番組ですが、『OVER THE SUN』の話をできればと思います。エッセイストのジェーン・スーさんと、アナウンサーの堀井美香さんの2人がパーソナリティを務め、毎週金曜に更新されるトーク番組です。私は数年前から聴き始めて、毎週金曜日に聴きながら帰宅して夕食を作って食べて、一週間を終えるという生活を続けています。
私は深夜ラジオもそこそこ聴いているのですが、ラジオをはじめとした音声メディアの良さは「身内ネタ」が許されることだと思います。例えば『OVER THE SUN』ではリスナーのことを「互助会員」と呼び、ラジオネームは「おばさんネーム」、堀井さんがTBSを退社してフリーに転向したことを「沖に出る」と言っているのですが、どれも全く説明がないまま普通に話が進みます。最初は「柿山?」(2人が好きな赤坂のお煎餅屋さんのこと)「負けへんで?」(2人の仕事のスタンスのスローガン)と、わからないものだらけなのですが、聴き進めていくうちに自分にも分かる「身内ネタ」が増え、ハイコンテクスな話題に笑えるようになってきて、勝手にこちらが2人と段々仲良くなってきているような感覚になってきます。こういった、「コンテンツと仲良くなっていく」という感覚は音声メディア特有の良さだなと思います。
私が一番好きな回の一つ、Ep.50で前週から話している占いのカードの話になり、堀井さんが「いつもいきなり話が始まるから前回の振り返りをしてほしいっていう声がある」と言うと、スーさんが「若い人たちに分かる話はしません。詳しい説明もしません。鉄緑会だから、ここは。鉄緑会が何かは説明しません」と宣言します。この言葉通り、本当にどの放送もただひたすら2人が話したいことを話しているので、トークがどこに向かうのかは誰にも分かりません。そんな行き当たりばったりで好きなことを好きなだけ話す2人の様子は、高校生の頃にドリンクバーを片手に何時間も話したガスト、または、大学生の頃に18時から集まってずっと居座る鳥貴族のようで、なんだか懐かしい気持ちになります。
私も気づいたら26歳になり、これからの人生がどうなるかなんて全く考えられず、漠然と日々を過ごしていますが、スーさん、堀井さんと一方的に友達になることで、「なんか2人も楽しそうだし、歳をとるってそんなに悪いことじゃないかも」と前向きにまた1日老いることができるようになっている気がします。
5月26日に更新されたEp.138では堀井さんのインド旅行の話をしていて、旅行中でのエピソードの数々と、それを聞いたスーさんならではの視点から、「確かになぁ」とじっくり考えるような話をしたかと思えば、穏やかだけど破天荒な堀井さんならではの「インド観」に笑ったりと、番組の良さがかなり詰まった放送になっているのでおすすめです。
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