リアルサウンド連載「From Editors」第6回:『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』のあとに観直すウェス・アンダーソン作品
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
すべてが実在するウェス・アンダーソン“すぎる”風景
ゴールデンウィークに行ってきました、『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』。“すぎる”というのがミソで、ウェス・アンダーソンの作品世界の風景が展示されているわけではなく、あくまで“ウェス・アンダーソンの作品に出てきそうな風景”が展示されているというもの。
ブルックリンに住む夫妻の構想をはじまりに、“ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな風景をInstagramにアップしていく”というコミュニティが生まれたらしいのですが、そのコミュニティの名前がこれまた秀逸で「Accidentally Wes Anderson」といいます。それが、まさかの本人OKでまとめて書籍化、そして展覧会開催へと繋がりました。
彼の作品のビジュアルの特徴といえば、細かな小道具も含めて統一されたポップな色彩、シンメトリーの配置とそのラインなど……。展示されている写真たちも、めちゃくちゃウェス・アンダーソンみがあふれています。展示入口はピンク基調でまとめられ、「THIS IS AN ADVENTURE」の文字。非常にキュート。どの写真も、すべてが実在する風景と場所であることに幸せなため息が出ます。全部行きたい。ちなみに、展示写真はすべて撮影OKです。たとえば、このピンクのタワー。アメリカのチェーン店「マリーズ・チョコレート」の建物なんですが、青い空にピンクが映えまくり。かわいすぎる。
で、案の定、帰宅する頃には脳内からウェス・アンダーソンすぎる風景たちが離れなくなり、いくつか作品を観直してみました。その一部が以下。
2009年に公開(日本では2011年公開)された『ファンタスティック Mr.FOX』は個人的に大好きな作品でして、やはり最高。『チョコレート工場の秘密』を書いた児童小説家のロアルド・ダールが原作を手掛けている点も極上ポイントのひとつです。やや文学的な方面に偏りがちなのもウェス・アンダーソン作品の特徴ですが、数字という意味でも本当に大人となる年齢を前に自分のなかの子ども心を残しておきたかったのだろうなと、随所に子どもにしか思いつかないようなカラーパレットで彩られる画面に、あらためてそう感じるのでした。各作品、象徴的なシーンや重要な場面で流れる曲に60年代、70年代の楽曲(しかもマイナー寄りのナンバー)がセレクトされるのもウェス・アンダーソンあるある。ちなみに、この作品の冒頭で流れるのは、The Beach Boys「Heroes and Villains」です。
そのまま、日本でも昨年公開された『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』も続けて鑑賞……。この作品は、20世紀のフランスの架空の都市にあるアメリカの新聞社の記者たちをめぐる物語です。その新聞社のビルをはじめ、先述したような彼の作品の構築美における特徴が随所に当然ちりばめられているのですが、『ウェス・アンダーソンすぎる風景展』帰りの脳内では「これはウェス・アンダーソンすぎる!」「いやいや、ウェス・アンダーソンが監督なんだから当然だろ!」といったふうに、毎秒のようにひとり戦争状態です。ティモシー・シャラメの髪の毛が爆発した姿にすら、左右対称のライン美を感じます。
監督最新作『アステロイド・シティ』の予告も最高。ミルキーなフィルターに、パステルとビビッドな色調、シンメトリーの美しさにうっとりします。ジェイソン・シュワルツマンとトム・ハンクスの電話シーンも完璧な構図。険しい表情なのに、なぜかかわいく感じてしまいます。9月1日の日本公開、楽しみすぎます。ウェス・アンダーソンが生まれ、素晴らしい作品群が存在するこの時代を生きていることに感謝をしながら、公開を待ちたいと思います。