オスカー・ジェローム、初来日インタビュー 多様なシーンとの関わりで育まれたジャズギタリスト/SSWとしてのオリジナリティ

オスカー・ジェローム、初来日インタビュー

 オスカー・ジェロームは、サウスロンドンのジャズシーンから登場したギタリストであり、シンガーソングライターでもある。特にアルバム『The Spoon』(2023年2月)においては、その歌が際立っていた。フェラ・クティからトム・ミッシュまでが学んだ名門、トリニティ・ラバン音楽院でジャズギターを専攻したが、彼はピュアなジャズギタリストの道を選ばなかった。アフリカ音楽からの影響を色濃く受けたバンド・Kokorokoに参加するなど、ロンドンの多様なシーンと関わり、表現の幅を拡げた。

 一方で、彼はいまもジャズギタリストらしいスタイルを堅持しているようにも感じられる。そのダンサブルなトラックとパーソナルな歌の間を繋いでいるのは、他でもないジャズギターなのではないだろうか。初来日を果たした彼が『The Spoon』を軸に話してくれたことは、それを強く印象付けた。(原雅明)

柔軟なUKジャズシーンを育む独自の環境

――出身のノーフォークは、どういうところですか?

オスカー・ジェローム:ノーフォーク州のノリッジというすごく小さな町で、ロンドンから車で大体2時間ほど北東に行ったところにある。安全で、自由もあって、自然が豊かで、子供時代に育つにはすごく良い場所だった。でも、ミュージシャンとしては、その中では物足りなさを感じるようになって、ジャズギターを勉強しにロンドンに移ったんだ。行ってみたら、大勢の様々なミュージシャンとの出会いがあり、本当に最高の選択だったと思うよ。

――サウスロンドンのジャズシーンが紹介される中であなたのアルバム『Breathe Deep』(2020年5月)にも出会いました。そのシーンで成長したのでしょうか?

オスカー・ジェローム:そうだね。自分が18歳の時にロンドンに移って、このシーンの中で色々と切磋琢磨しながら今がある。シーンやムーブメントを作っているという意識はなかったけど、一緒に演奏したり、セッションしたり、曲作りをしたり、人の音楽を覚えて一緒にライブをやる中で、どんどん輪が広がっていって、中には有名になるアーティストがいて、徐々に国外でも注目されるようになったという感じだね。

――トリニティ・ラバン音楽院の出身ですよね。UKのジャズにはアカデミックな機関もあれば、トゥモロウズ・ウォリアーズのようなコミュニティベースの育成・支援機関もあって、教育の場に恵まれている印象があります。

オスカー・ジェローム:トリニティ・ラバンは私立の大学なので入るのにはお金も必要だが、トゥモロウズ・ウォリアーズは若い人たちに学ぶ機会を与えようという志で始められたもので、本当に素晴らしい。そこから出てきた人たちが今のイギリスの音楽に与えた影響は、すごく大きいと思う。でも、もともとイギリスはジャズに限らず、様々な音楽の歴史が豊かな国で、それをしっかり今後も継承していくことが大事だし、それにはさらにもっと資金が必要だと思う。政府がなかなかそこに価値を見出してくれていないと感じているよ。

――それでも、日本よりもずっと公的な支援があるように感じます。日本には若いミュージシャンが学べるトゥモロウズ・ウォリアーズのような組織はそもそもないですし。

オスカー・ジェローム:でも、今回日本に来てみて、大勢の日本のミュージシャンに会ったけど、本当にみんな素晴らしくて、才能がある。前から知っている人もいたけど、実際に来てみて、すごく良かったと思っているよ。

――特に、印象に残った日本のミュージシャンは?

オスカー・ジェローム:WONKとTempalay、あとSOIL&"PIMP"SESSIONSは昔から大好きだね。そして、SIRUPとTENDRE。

――Village Of The Sunとして、あなたもよく知るモーゼス・ボイドやビンカー・ゴールディングが少し前に来日していましたが、UKのジャズミュージシャンを観る機会が増えています。世界的にも関心を集めているのはなぜだと思いますか?

オスカー・ジェローム:ジャズと、それを聴きやすくしてくれる音楽をうまく組み合わせている人たちが多い。若い頃にジャズばかり聴いているのではなくて、いろいろな音楽を聴いて育っている結果かなと思う。また、ロンドンの自分の周りの人たちは、とにかく、自分のやりたいことをすごく追求してやっていて、スターになるんだというような偉そうな感じやエゴがなくて、素で情熱を持ってありのままの姿で音楽をやっていて、お互いがお互いをサポートしているというところが鍵なのかなとも思う。

――例えば、ニューヨークだと、ジャズクラブなどジャズを演奏する場がたくさんあって、そこである程度やっていけると思いますが、そういう基盤が国内にないということも影響しているのでしょうか?

オスカー・ジェローム:マンハッタンの真ん中にあるジャズクラブに行くと、頭で聴くじゃないけど、みんな集中して音楽を聴いている。でも、自分たちは、人が踊りに来て、喋りながら音楽を楽しんで一晩過ごすみたいなところで演奏することが多い。だから、フェスティバルみたいな感じのシチュエーションにすごくフィットするところがあるのだと思う。でも、ニューヨークのようなジャズクラブというのは、ロンドンには確かにそんなに多くないという事情はあるね。

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