オスカー・ジェローム、初来日インタビュー 多様なシーンとの関わりで育まれたジャズギタリスト/SSWとしてのオリジナリティ

オスカー・ジェローム、初来日インタビュー

長年秘めてきたシンガーソングライターとしての表現欲

オスカー・ジェローム『The Spoon』
オスカー・ジェローム『The Spoon』

――『The Spoon』の話を伺いたいのですが、アルバムタイトル曲が特に印象的で好きです。この曲の背景を教えてください。

オスカー・ジェローム:この曲のモチーフは、ギターのエフェクトとコードをいじっている中でできて、それがすごく気に入って曲にしたかったんだけど、あまり音数を入れず、かなり空間のあるものにしたかった。なので、それを心がけながら、ベースとボーカルを重ねていった。スプーンは曲がっているから、覗くと自分もそうだし、自分の好きな人に対してもより歪んだ姿が映るというのがメタファーとなっているんだ。生きていく中で、その人が変わってしまい、自分も変わる。だけど、いつまでもかつての自分だったり、かつてのその人のことが忘れられなくて、なかなか先に進めないという状況を歌っている。それでずっとスプーンを眺めていると、変わってしまった、違う姿の自分というものを最終的には受け入れる。その受け入れていく過程をメタファーとして使っている。自分も一番好きな曲だよ。

――あなたの音楽には踊らせるという側面がある一方で、シンガーソングライターとしてじっくり聴かせる側面もありますね。

オスカー・ジェローム:もちろん、聴いて身体を動かしたくなるような音楽も大好きだけど、自分の奥深いところにある、何か感情を呼び起こしてくれるような音楽も好きなので、こういった、ゆったりしたペースで、そういったところをじっくり描ける曲を書くのも好きなんだ。

――自分で歌ったり、詞を書いたりすることは以前からやっていたのでしょうか。

オスカー・ジェローム:子供の頃から歌うのはすごく好きで、若い頃はバンドでフロントマンもやっていたけど、ロンドンに出てきて、ギターを勉強したときはジャズギタリストの道を進むんだという気持ちが強かった。でも、その間も曲作りは続けていて、秘めたものがありつつ、ギタリストの自分のほうに専念していたんだ。長い間、自分はギタリストだとは言えても、シンガーだとはなかなか言えなくて、自分の音楽の表現の強みというものがギターだとずっと思ってもいた。でも、最近は歌に関する自信も出てきたよ。

――ジャズギターには、アーチトップのギターに太い弦を張ってクリーントーンでビバップのフレーズを弾くという王道のスタイルがありますよね。そこから自分の表現に向かったきっかけはあったのでしょうか。

オスカー・ジェローム:それこそ、自分はアーチトップでクリーントーンを弾いて、エフェクトなんていらない、指だけで表現するんだという気持ちだったよ。でも、考えてみれば自分が好きで聴いている音楽というのは、すごくたくさんエフェクトを使っていると気付いたんだ。ヒップホップもジャズも、若い時はロックやパンクも聴いていて、それこそジミ・ヘンドリックスのいた60年代から、すでにあれだけたくさんのエフェクトが使われていたということを考えると、自分もその辺をもっと探求しなければ追いつかないという気持ちになったんだ。でも、いまもアイバニーズのGB10(ジョージ・ベンソンモデル)を元にしたギターを弾いて、エフェクトもせいぜいコーラスとたまにディレイで、クリーントーンが好きなのは変わらない。それでも、エフェクトで使える音色の引き出しが増えて、探求するのはすごく楽しいよ。1つのコードを取ってもエフェクトを変えるだけで全然表現できる思いや感情が変わるのは面白いと思うし、それを学んだのは、ジャズミュージシャンよりも、いわゆるプロデューサーの人たちからの影響だね。

――『The Spoon』にドラマーのジギー・ツァイトガイストが参加してますね。彼のやっているバンド30/70の新譜『Art Make Love』のライナーノーツをちょうど書いたばかりです。

オスカー・ジェローム:ジギーはロンドンのシーンが好きでよく来ていて知り合ったんだ。彼はベルリン在住で、僕も2020年に3カ月ぐらいベルリンに滞在していたから仲良くなった。いろいろやりとりをしていて、実はもうじき、彼と一緒にやったトラックが出る予定だよ。

――ジギーはジャズを学ぶ一方で、2000年代のウェストロンドンのブロークンビーツのシーンに影響を受けたそうです。かつてのクラブミュージックとジャズの結びつきは、今のシーンにレガシーとして引き継がれているのでしょうか。

オスカー・ジェローム:自分たちのシーンの仲間のミュージシャンには、当時の音楽をよく聴いている人がすごく多いよ。ディーゴの2000Blackもそうだし、今もまだ続いているロンドンで行われているイベント『Jazz re:freshed』も、2000年代の同じ頃に出てきた人が今の世代に対しても続けている。Yussef Kamaal(カマール・ウィリアムズとユセフ・デイズによるユニット)は完全にブロークンビーツから影響を受けてたよね。そういう人たちが活動することによって、ブロークンビーツを知らない人たちにも伝わっている。あとはDJも近くにたくさんいて、自分のルームメイトにシャイ・ワンという女性のDJがいるけれど、その辺りともすごく近しい関係にあるんだ。

――あなたはKokorokoでの活動でも知られています。アフリカ音楽をはじめ様々な地域の音楽との繋がりはどうやって始まったのでしょうか。

オスカー・ジェローム:ロンドンに住んでいるからだと思うね。多文化圏であるということで、ナイジェリア、ガーナ出身の人も多いし、カリブ海、ジャマイカ出身の人たちも多く、友人にもたくさんいる。ギターを弾いていると、ブルースに入り、マリの音楽に入って、それがきっかけでもっとアフリカの音楽が好きになっていった。それを知ったKokorokoのリーダーのシーラ・モーリス・グレイが誘ってくれたんだ。それ以外にも、アフレサキというコンガ奏者と2人でやっているプロジェクトもあるよ。

――最後に、最近気に入って聴いている音楽を教えてください。

オスカー・ジェローム:いっぱい聴いているんだけど、いざ聞かれると何だっけ、となるよね(笑)。70年代のブラジル音楽とか、レア・センという女性のシンガーや、友達のマックスウェル・オーウィンとジョー・アーモン・ジョーンズの『Archetype』もいいね。

オスカー・ジェローム:https://oscarjerome.orcd.co/bio

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