Dinner Party初来日、George Clinton×堂本剛コラボ……極上の音楽が集った『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』
昨年第一回目が開催された『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023』(以下、『ラブシュプ』)が、今年も5月13日と14日に秩父ミューズパークで行われた。新世代ジャズフェスティバルと謳ったこのフェスは、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する上質で洗練された音楽を奏でる“今見るべき”アーティストが集結。2日間で8千人のファンが、緑の中で繰り広げられた極上セッションの数々を楽しんだ。
今年は、初日のヘッドライナーにファンク界のキングと最強軍団 George Clinton & PARLIAMENT FUNKADELICを、2日目にジャズ/ソウル/ヒップホップシーンのスーパースター ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、テラス・マーティンがタッグを組んだ豪華プロジェクト、Dinner Partyという大物アーティストを迎えたことでも大きな注目を集めた。そして今年のグラミー賞最優秀新人賞にノミネートされたDOMi & JD BECKの出演も大きなトピックスになった。さらに2月に公開され大ヒットを記録したジャズをテーマにしたアニメ映画『BLUE GIANT』の劇中で、バンドのライブシーンの演奏を担当したサックス奏者・馬場智章と、ドラマー石若駿という現在のジャズシーンの牽引する二人が、自身のリーダーセッションで出演することでも話題を集めていた。
秩父ミューズパークは都内から100分ほどの場所にある自然豊かなテーマパーク。『ラブシュプ』はドーム型の屋根が特徴的な「THEATRE STAGE」と芝生エリアの「GREEN STAGE」という2つのステージと、「DJ TENT」でアーティストとDJが一日中素晴らしい音楽を響かせた。
ふたつのステージをつなぐ徒歩5分ほどの通路は舗装されており足元を気せず行き来できる。キッズエリアも2カ所用意され、今年は新たに「GREEN STAGE」の敷地に"ドッグラン supported by チューリッヒ保険会社"と「THEATRE STAGE」には"ドッグ同伴可能エリア"が登場し、犬連れで来場したファンたちも心置きなく音楽を楽しんだ。
また、マーチャンダイジングブースではオリジナルグッズをはじめ、出演者のCDはもちろん、新譜に加えジャズを中心とした中古のアナログレコードの販売も行われていた。
秩父市のイメージキャラクター「ポテくまくん」も訪れたフードエリアでは、秩父名物のわらじカツ、ホルモンや、世界的にも注目されているウイスキー"イチローズモルト"など、秩父ミューズパークという場所ならではのグルメを楽しむことができた。
さらにはチューリッヒ保険会社のブースでは森林保全団体、一般社団法人「more Trees」へのドネーションとなる国産間伐材を使用したオリジナルCO2オフセットステッカーの販売を行い、『ラブシュプ』の社会的な取り組みもアピールしていた。
初日、そぼ降る雨の中「GREEN STAGE」でオープニングアクトのMoMoのステージでフェスが開幕。新曲「Life of the Party」などを、クールでパンチ力のあるボーカルで披露、心地いいグルーヴが生まれる。
「THEATRE STAGE」のトップバッターは馬場智章も参加している、石若駿率いるAnswer to Remember with HIMI / Juaだ。石若とMarty Holoubekの強力なリズム隊と、各パートのアグレッシブでパワフルなソロでたっぷりとストレートなジャズを攻めた前半。そしてボーカリストを迎えた後半は、まずJuaが加わり熱いラップが跳ね、強力な音と融合する。millennium paradeにも参加しているermhoiは、繊細かつ力強い歌で「Tokyo」などを披露。「Tokyo」では石若とTaikimen(Per)のせめぎ合うようなプレイに歓声が上がる。HIMIが「Down Hill」を歌い始めるとチルな空気が流れ、美しいファルセットの「ゆめからさめるまで」「抱きしめたいよ」とメロウなダブ、ソウルが続く。演奏と歌、それぞれが立体的に交差しどこまで気持ちいい空気が生まれていた。
「GREEN STAGE」で、一音放った瞬間から、耳が肥えた音楽好きが集まった客席の耳と心を奪ったのは4Acesの演奏だ。MELRAWこと安藤康平(Sax)率いる、渡辺翔太(Pf)、古木佳祐(Ba)というジャズ、ポップスシーンで引っ張りだこのトッププレイヤー4人で結成されたバンドが放つ圧巻のアンサンブルと、ゲストのkiki vivi lilyのキュートかつ柔らかで浮遊感のある心地いいボーカルが相まって、気持ちのいい時間と空間を作り出す。リリースされたばかりの4Acesの1stアルバム『4Aces』から、まさにこの日にピッタリの「あめのひ」を披露。それぞれの楽器の音がどこまでも心地よく響いていた。
世界を虜にするZ世代のデュオDOMi & JD BECKがステージに登場すると大きな歓声が上がる。この日出演している多くのアーティストも客席後方から見守り、注目度の高さがわかる。ドラムのJD BECKとピアノのDOMiが向き合うセット。便器を模した、トイレットペーパーも付いたDOMiのイスに目がいってしまう。DOMiは鍵盤を左手でベースラインを弾き、右手で旋律を奏でる。JD BECKの超絶技巧のドラムと重なり、二人だけのミニマムな空間から超高速グルーヴが放たれる。演奏のスピードが増しエネルギッシュになればなるほどその音に渦に巻き込まれた客席の興奮が伝わってくる。ハービー・ハンコックとの共作「MOON」やジョージ・デュークに捧げた「DUKE」とディズニーランドへのトリビュートである「SPACE MOUNTAiN」のメドレーなどを披露し、ウェイン・ショーターの「Endangered Species」やジャコ・パストリアス作曲の「Havona」などレジェンド達のカバーも独自の解釈で投下。「BOWLiNG」では、演奏だけではなく繊細なボーカルで魅了した。全ての人の音楽的好奇心をくすぐる二人の圧巻の世界だった。
大きな拍手に迎えられ「GREEN STAGE」に登場したのはピアニスト 海野雅威&シンサカイノ(Ba)、Gene Jackson(Dr)という強力トリオ。オーセンティックなピアノジャズと、雨と深い緑とが呼応するように美しく趣のある音世界を作り上げる。海野が「ナチュラルなフィーリングで、一緒にやるとハッピーな気持ちになる」とゲストの藤原さくらを呼び込み「わたしのLife」を披露。時にスモーキーでアンニュイ、時に明るくハッピーな、表情豊かな歌で楽しませる。海野とのデュオで「Someday My Prince Will Come」を披露。海野のピアノはどこまでも美しく、多彩なフレーズでグルーヴを作り、聴く人を幸せな気持ちにさせる音だ。
昨年も出演し、今年はレジデンシャルバンドとして出演したSOIL&”PIMP”SESSIONSは、フィーチャリング、そしてセッションの面白さを十二分に伝えてくれた。初日「THEATRE STAGE」は、まず自身のサマーチューン「Summer Goddess」から。SOILの曲はどの曲も、一音目からアタックが強い音で、ジャジーなグルーヴの渦の中にひきこまれる。「いつもとひと味違う今日だけの特別なセット」でお届けしますと、社長がまず家入レオを呼び込み、原田知世のカバー「ロマンス」と、自身の「君がくれた夏」を披露。SOILの音と、家入の柔らかだが凛とした空気を纏う歌が交差し生まれる温度が心地いい。次に登場したのはbird。社長が「長い付き合いなのに同じステージでやるのは初めて。今日は僕の好きなあの曲を」と「A Night In Tsunisia」が投下された。アフロと4ビートのリズムがグルーヴを生み、独特のエキゾチックな雰囲気のこの曲をbirdがパンチのあるソウルフルなボーカルで表現。自身の「空の瞳」はよりジャジーなアレンジで、タイトなリズムと豊かな歌がエモーショナルな空気を作る。
AIは「Not So Different~Story」のメドレーで圧巻の歌声を響かせる。このフェスが立ち上がった当初SOILとAIのコラボは予定されていたが、コロナ禍で2年間開催延期になったこともあり、この日ようやく実現したことに社長もAIも感慨深げだ。そして社長が「ずっとやりたかった曲」と、チャカ・カーンの名曲「Through The Fire」をAIにリクエストしたようで、AIは「私は(歌うのは)恐れ多くて…」と謙遜していた。デヴィッド・フォスター作品ならではのキラキラ感を残しつつ、SOILの重厚なグルーヴとAIのソウルフルなボーカルが重なると、客席に感動が広がっていくのが伝わってくる。最後は〈Through The Fire〉と客席と一緒に歌い、締めくくった。
ALIは「仁義なき戦いのテーマ」に乗り登場。速いリズムと華やかなホーンが印象的な「Dance You, Matilda」からスタート。「ハートに火を付けに来たぜ」とボーカル・LEOが叫ぶ。FUNK、SOUL、JAZZ、LATIN様々なバックボーンをベースに、HIPHOP、ROCK、SKAなどをブレンドしたクロスオーバーな音楽性が注目を集めているバンドが作り出す音像は、少し気温が下がってきた「GREEN STAGE」に熱気を運んでくる。「一番下手かもしれないけど、一番一生懸命やっていきます」というLEOの言葉通り、終始テンションが高い情熱的なサウンドとボーカルで客席を煽る。代表曲「LOST IN PARADISE」他を披露し、ラストは「Funky Nassau」でステージも客席もヒートアップし、「THEATER STAGE」のGeorge Clinton & PARLIAMENT FUNKADELICへと繋ぐ。
初日のヘッドライナーはGeorge Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC。「THEATER STAGE」に“総帥”ジョージ・クリントンが、スパンコールのロングジャケットを纏い登場すると、伝説を目撃しに来た客席から大歓声があがる。オープニングナンバーは「Jump Around」(House Of Pain)。70分ノンストップのファンクの響宴の幕開けだ。ステージ上から煽られ、早速客席は総立ちでジャンプ。「Pole Power」「Meow Meow」とめくるめくグルーヴの洪水に、老若男女がハンズアップし、飛び跳ね、ただただ音楽を楽しむ“自由”な空間ができあがる。ラッパーたちが煽るハードファンク「Get Low」に続いて「FlashLight」が投下されるとENDRECHERIこと堂本剛が“ギタリスト”として登場。
ジョージ・クリントンへのリスペクトを日頃から語っているENDRECHERIが、総帥と同じくスパンコールのパンツスタイルで長尺のギターソロを披露すると、完全にバンドの音になっているその音色に、客席から大きな歓声が沸く。「(Not Just) Knee Deep」では、ベンゼル・ボルチモア(Dr)と親交がある天才中学生ドラマー・CHITTAが登場し、ENDRECHERIと共に体を揺らし、この瞬間を客席と共に体全体で楽しんでいた。CHITTAはラストの名曲「Give Up the Funk」でドラムソロを披露し、メンバー、客席から歓声が飛び交っていた。終始“Keep the bottom”、ヘヴィな低音のリズムとタフなサウンドが続き、ファンクの深い世界に全ての人を連れ出してくれた。バンドも客席も自由を謳歌する祝祭感と幸福感あふれるステージだった。
「THEATER STAGE」と「GREEN STAGE」を繋ぐ存在が「DJ TENT」だった。荒田洸(WONK)、SHACHO(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、柳樂光隆(Jazz The New Chapter)、Chloé Julietteが2日間プレイし、多くのオーディエンスが集まり、曲に合わせ激しくダンスする人、お酒を片手に体を揺らしている人、それぞれが思い思いに楽しんでいた。ステージだけではなく、ここでも好きな曲や、新たに発見した曲が次々と投下され、まさに“好きな音楽しか流れていない”素敵な「場所」=『ラブシュプ』だった。