椎名林檎、演出家 根本宗子との対談に表れた“ものづくり”の核心 デビューから25年経ってもブレない音楽への思い
6月1日、NHK総合で特別番組『NHK MUSIC SPECIAL 椎名林檎』が放送された。椎名林檎にとって、デビュー25周年という節目である今年。この番組では2月から5月にかけて行われた全国ツアー『椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常』を共にまわったバンドメンバーと新曲「私は猫の目」、声優の林原めぐみに提供した「命の息吹き」、そして「ありあまる富」を演奏。さらに、劇作家・演出家の根本宗子と対談を行い、“ものづくり”の核心を語り合った。
演奏も対談も、椎名らしく一筋縄ではいかぬ演出に彩られた番組だった。対談は『初デート「見初めの場~某駅前~」』という場面からスタート。“417”ナンバーのバイクにまたがるバイカーズファッションの椎名に、根本が「椎名さん、こんにちは」と話しかけ、そこから対談が展開。そもそも、ふたりは今年1月に上演された高畑充希主演の舞台『宝飾時計』において、椎名がテーマ曲(「青春の続き」)を書き下ろし、根本が作・演出を手がけた縁で関係を深めた。根本にとって椎名は、対談内でも「いつかどこかで交わればいいと思っていた」と語られた憧れの存在。そんな根本が「これだけやって、こんなことを言われてしまうのか」と、ものづくりの“理想の追求”と“大衆の声”の狭間で苦悩してきたことを口にすると、椎名は「わかる!」と頷く。
そして次の場面『語らいの場~喫茶店〜』で、さらに対談は深まっていく。根本のものづくりの姿勢を聞いた椎名は、「レンジでチンして、ポンじゃない。歌っているのなんて一瞬。四六時中書いている」と、私たちが見ている華やかな椎名林檎の、見えない“土台”にこそ時間をかけ、心を砕いていると吐露。
最後の『お浚いの場~楽器前~』では、お互いの表現に影響を与えた十八代目 中村勘三郎にも言及。2007年に上演されたコクーン歌舞伎『三人吉三』では、椎名が「玉手箱」をメインテーマ曲に書き下ろしたが、「二度舞台を観て、あの(曲が流れた)シーンを鮮明に覚えている」と話す根本に対し、椎名は「難しかった」と、歌舞伎の世界に踏み込んだ経験を語った。「人が右往左往しているときに、それでも観たいって思ってもらえるもの。要するに、時代に沿っているっていうことじゃない? 人の気持ちも無視していない。それをやるって、ものすごい大変なこと。勘三郎さんはそれをやりたがっていた。私たちはそれに触れたから、絶対にそれを持っていないといけない。自分なりに増やして、培養して」――この椎名の言葉には、デビューから25年間、新曲「私は猫の目」のタイトルのごとく、猫の目のように表現を変化させながら、時代と人々をまっすぐに見つめ、音楽を生み出し、表現を展開してきた生き様が、にじみ出ているような気がした。