椎名林檎、最強のバンドで届けたツアーファイナル 濃厚かつ緻密に磨き上げられた、息つく間もないステージに

椎名林檎、5年ぶりツアーファイナルレポ

 この5月でデビュー25周年となる椎名林檎が、5年ぶりの全国ツアー『椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常』(11カ所22公演)ファイナルを、5月10日、東京国際フォーラムホールAで迎えた。彼女のライブは毎回、息つく間もないほど濃厚かつ緻密な構成で魅了するが、今回は一段と観る者を圧倒する内容であった。

 5年前の20周年記念アリーナツアー『椎名林檎(生)林檎博'18 -不惑の余裕-』以来になるわけだが、その5年の間に発表してきた作品と楽曲を中心にしたセットリストだ。周年ライブとなると総ざらい的なセットリストになりがちだが、彼女の場合はそんな常套手段は使わない。十字架が浮かび上がる緞帳が降りたまま流れた、2019年発表の6作目『三毒史』収録の「あの世の門」から、緞帳が上がり生ピアノとアコーディオンをバックに椎名が歌い出したのは林原めぐみに提供した「我れは梔子」。今回のコスチュームを担当したのはkeisuke kanda。モッズコートを法衣に、ライナーを袈裟に見立てた衣裳を羽織った彼女が、この曲を初めて歌うという意表を突く幕開けに引き込まれずにいられない。

 このライブではバンドのメンバーも秀逸だ。林正樹(Pf/Key)、鳥越啓介(Ba)、名越由貴夫(Gt)、佐藤芳明(Acc)の4人は、これまで椎名のツアーにそれぞれ参加してきているが、このラインナップが揃うのは初。そこに今最も注目されるドラマー・石若駿が加わり、変幻自在の演奏をタイトに聴かせる最強のバンドとなっていた。「どん底まで」のヘヴィでダイナミックな演奏にそれを思い知らされ、このメンバーを揃えた椎名の慧眼に感服するしかない。

石若駿
林正樹
鳥越啓介
名越由貴夫
佐藤芳明
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石若駿
林正樹
鳥越啓介
名越由貴夫
佐藤芳明
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 コートを脱いで椎名が軽やかなピンクのキュートなコスチュームになり、ダンスチーム・SISが登場した「カリソメ乙女」、佐藤がショルダーキーボードを弾く「走れゎナンバー」、映像で紙飛行機が乱舞した「JL005便で」と畳み掛け、高畑充希主演の舞台『宝飾時計』のために書き下ろした「青春の続き」でまた驚かせた。これも椎名自身が歌ったのはこのツアーが初だ。そんなサプライズに続いたのは東京事変の「酒と下戸」。ラストで伸びやかな声を響かせた椎名の歌はツアーを経て一段と磨かれたようだ。

 再びSISが登場した「意識」では後半の映像で、大沢伸一のリミックスに参加したDaokoが登場。そういえばモヘアニットのセーターにニーハイレッグウエア姿の椎名は猫っぽい。赤い襦袢を羽織っての「神様、仏様」では共演した向井秀徳の声が使われ、「T O K Y O」はオリジナル録音でも演奏している林が生ピアノの腕を振るった。椎名が2トーンの羽織を着てイメージを変えた「天国へようこそ」では、歌い終わると椎名が後方に進み、スモークの中に姿を消した。

 『三毒史』の軸となる「鶏と蛇と豚」は、後方の大型ビジョンに映し出されるドラマチックなMVを、生の迫力ある演奏で観るという贅沢な時間に。名越がジミー・ペイジばりにギターを弓で弾き、石若のドラムがどっしり受け止めるというスリリングな演奏は奇跡のよう。そして「同じ夜」は一転、華やかなマントを着た椎名の感情豊かな生ピアノ弾き語りで聴かせる、これまた贅沢な曲になった。「人生は夢だらけ」は佐藤のアコーディオンが生きるジャジーなスウィング感が加わり、「仏だけ徒歩」はタンゴ風のアレンジに仕立てていた。

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