椎名林檎、孤高の才能ながらもコラボを絶やさない理由 トータス松本、宮本浩次……ピュアな音楽愛から生まれる新しい刺激
2月末に、常田大希率いるmillennium paradeと椎名林檎によるコラボレーション楽曲「W●RK」が、4月1日より放送開始されるTVアニメ『地獄楽』(テレビ東京系)のオープニングテーマに決定したことが発表された。常田大希は椎名林檎に対して多大なリスペクトを持っており、自身のデビュー前である20歳前後からデモ曲を聴いてもらうなど交流があったそうだが、世に発表されるコラボレーションとしては今回が初となる。『地獄楽』第2弾PVで「W●RK」の一部を聴けたが、強烈な個性を持つ2アーティストらしく、存分に“らしさ”を露わにしつつも、共に新たな扉が開いた楽曲に仕上がっている予感がする。
これを機に改めて思うのは、椎名林檎は音楽に愛されているし、音楽を愛する人に愛されている、という事実だ。デビューから現在に至るまで、“椎名林檎っぽい”としか言いようのない比喩表現が成り立つほどの個性を誇りながら、今回のmillennium paradeをはじめとして、数多くのアーティストとコラボレーションを果たしているのだから。
その最も広く知られているコラボレーション楽曲のひとつが、「宇多田ヒカル featuring 椎名林檎」として2016年に発表された「二時間だけのバカンス」。共に1998年にデビューし、多忙な日々を過ごしてきたふたりだから歌えるテーマ、生み出せるグルーヴが、そこにはあった。きっと宇多田ヒカルが求めたコラボレーションの相手は、歌唱力や魅力的な声質、共鳴する音楽性だけでは叶わない、“椎名林檎という人”だったのだと思う。
また、椎名林檎がこのように“椎名林檎という人”を求められてフィーチャリング参加するようになったのが、キャリアを重ねた近年からではなく、2000年代前半からというところも興味深い。たとえばZAZEN BOYSが2004年に発表した「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」で彼女が担当したコーラスは、紛れもなくZAZEN BOYSの世界観でありながら、素晴らしく記名性の高いものであり、彼女がソロアーティストでありながら“押し引き”の美学のようなものを当時から心得ていたことがわかる。それは、同じ頃に始動した東京事変を見ていても感じた。
その“押し引き”を鮮やかに感じたコラボレーションと言えば、2018年に「椎名林檎と宮本浩次」名義で発表された「獣ゆく細道」。なんたって、大事なことだから2回書くけれど、名義が「椎名林檎と宮本浩次」で、並列なのである。宮本浩次のキャラクターを活かした、“押し押し”というやり方の“押し引き”をやってのけたコラボレーション。それでいて、個性をつぶし合うことなく、むしろ引き出し合いながら、お互いがキャリアにおいて重要なコラボレーションと位置づけていることは、それぞれがオリジナルアルバムにこの楽曲を収録していることからも明らかだろう(椎名林檎『三毒史』、宮本浩次『宮本、独歩。』)。