HYBEから人工知能で作ったアーティストが衝撃デビュー AI時代における人間以外が生み出すエンタメへの挑戦
BTSなどの所属するHYBEが5月15日、「Project L」として予告していたアーティストデビュープロジェクトは、AIやXR(拡張現実)などの先端技術を音楽表現と融合させた新しいアーティスト・MIDNATT(ミッドナット)であることを明らかにした。
MIDNATTは今回、デジタルシングル『Masquerade』をリリースし、アーティスト活動を本格的に始動。同楽曲は6カ国語で制作されており、楽曲内の各言語の発音などにAIによる多言語発音補正技術を活用しているという。また、これまでベールに包まれていたMIDNATTの正体が、BTSの先輩にあたる歌手イ・ヒョンのもうひとつの自我であることが判明。バラードを得意とするイ・ヒョンが、このプロジェクトによって新たな一面を見せたことでも話題となっている。
そこで本稿では、MIDNATTが楽曲リリースに至るまでの背景を振り返りながら、「Masquerade」の特徴と、今後世界の音楽市場に与える影響について考察したい。
今回デビューしたMIDNATTは、HYBE会長のパン・シヒョクが以前、米ビルボードの取材の中で予告していた「Project L」の主人公だ(※1)。「Project L」は、音楽と技術を融合させることで、アーティストやクリエイターの想像力を超える新しい表現やコンテンツを生み出すことに挑戦したプロジェクト。HYBEは韓国のAI音声スタートアップ・Supertoneの買収などを行いながら、このプロジェクトを水面下で進めてきた。
HYBEがこのような技術活用をひとつの軸としたプロジェクトを手がける背景には、近年のK-POP市場縮小への危機感や、AIの急速な発展が影響しているようだ。実際、パン・シヒョクは米ビルボードの取材に対して、このように語っている。
「私は以前から、音楽を創造、制作する主体が人間のままであることに疑問を持っていました。人間のアーティストが、いつまで人間のニーズや人間の嗜好を満たす存在でいられるのかわからない。そして、それが私の経営の重要なファクターになりつつあり、HYBEの戦略にもなっています。(中略)AIに脚本を書かせないとか、AIを使わないということよりも、そうした社会の変化に対応することが適切だと思うのです」(※2)