HYBEから人工知能で作ったアーティストが衝撃デビュー AI時代における人間以外が生み出すエンタメへの挑戦
パン・シヒョクの時代を捉える目線と最新技術への貪欲な姿勢は、「Masquerade」の音源とMVからも感じ取ることができる。たとえば、音源は今回、Supertoneの多言語発音補正技術を活用し、K-POPとしては初めて、韓国語、英語、スペイン語、日本語、中国語、ベトナム語の6カ国語で制作、同時リリースされた。これはどういうことかというと、従来は英語や中国語で楽曲をリリースする場合、歌手がその言語の発音をしっかりと習得したうえでレコーディングに臨む必要があったのだが、今回の音源はAI技術によってネイティブな発音に聴こえるよう補正しているのだ。
実際に日本語バージョンの音源を聴いてみると、発音補正技術の精緻さがよくわかる。言葉の壁を越え、リズミカルなエレキギターとニュートロサウンドの中に描かれたラブストーリーを堪能できる作品となっている。
また、HYBEによれば、楽曲内の女性の声もSupertoneの技術を活用し、MIDNATTの歌声を調整して作られたものだという。さらに、MVではXRシステムを活用。森の中でMIDNATTとヒロインの女性がハグをするシーンがあるのだが、そのシーンについては、XRを用いて制作されたものだというから驚きだ。
このように今回、MIDNATTのデビュー曲はHYBEの挑戦的な姿勢や技術の凄さを実感できる作品に仕上がっているが、実は歌手イ・ヒョンの新たな一面を発見する楽曲となっている点にも言及しておきたい。イ・ヒョンは、韓国では切なげな歌声が持ち味の、バラードを得意とする歌手として有名なミュージシャンだ。そのイ・ヒョンが、髭を生やして見た目を大きく変え、歌唱力を活かしながらリズミカルなシンセウェーブジャンルの楽曲の歌唱に挑戦する姿も、「Masquerade」という楽曲を楽しむポイントのひとつと言える。
技術を活用し、全く新しい音楽制作のスタイルを目指したアーティスト・MIDNATT。今回リリースされた楽曲は、先端技術と共存した新たなアーティスト像を世界の音楽シーンに提案する形となった。昨今、AIの台頭によって、芸術分野でも人間が不要になるかもしれないといった話題を耳にすることが増えたが、今回の「Project L」によるMIDNATTのデビューはむしろ、AIによって人間の表現が広がる可能性を垣間見ることができたのではないだろうか。
※1、2(筆者訳)https://www.billboard.com/music/features/hybe-bang-si-hyuk-bts-k-pop-interview-billboard-cover-story-1235309931/
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