連載「lit!」第50回:Ado、SUPER BEAVER、sumika……さらなるブレイクスルーの実現を確信させるロックチューン
週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、ロックを中心に、この春にリリースされた日本の新作を5つ紹介していく。
まず一つ目の作品としてピックアップしたのが、Vaundyが制作を手掛けたAdoの新曲「いばら」だ。詳しくは後述するが、最強のタッグが再び実現したこの曲が、2023年の日本の音楽シーンにおいて大きな存在感を放ち続けていくことは間違いないと思う。また、現行のフェスシーンを力強く牽引するバンドであるSUPER BEAVER、sumika、緑黄色社会の新作も、それぞれ素晴らしい。そして、すでにさらに新しい世代のアーティストたちが次々と台頭していて、今回はそうしたニューカマーたちの作品の中からNEEの新作をピックアップした。彼らの新作は、今後のさらなるブレイクスルーの実現を確信させてくれるような突出したクオリティを誇る傑作だ。
この記事が、日々目まぐるしいスピードでアップデートされ続ける日本のロックシーンの「今」にキャッチアップするきっかけ、もしくは、理解を深めるうえでのひとつの手掛かりになったら嬉しい。
Ado「いばら」
Adoが今の日本のミュージックシーンにおいて、「次はどのアーティストから楽曲提供を受けるのか」を最も注目されているシンガーのひとりであるとしたら、Vaundyはシンガーとしての活動に加え、「次はどのアーティストに楽曲提供をするのか」を最も注目されているコンポーザーのひとりであると言えるだろう。それゆえに、昨年の「逆光」に次ぐ形で両者による2度目のタッグが実現すると知った時は、胸の高まりを押さえきれなかった。そして、実際に生み出された「いばら」を聴いて、そのまっさらな響きを放つ歌声とサウンドに驚かされた。“真っ向勝負”というワードこそが、この曲を形容するのに一番ふさわしい言葉かもしれない。今回Vaundyが送り届けたのは、快活にしてシンプルなロックチューン。Adoのディスコグラフィの中でも、特に無防備な佇まいの楽曲とも言える。このトラックこそが、彼女が持って生まれたありのままのエモーションを、かつてないほどに剥き出しにしたような新たな歌声を引き出した。
Adoに対して、孤高で未知数な存在というイメージを持つ人は今もなお多いかもしれないが、この楽曲を介することで、彼女の実存をグッと近くに感じ取ることができるはずだ。Adoの新たな一面を見事に引き出したVaundyのプロデューサー的な観点にはあらためて驚かされるし、何より、彼が仕掛けた真っ向勝負にがっつり挑み、またしても新たな歌で魅せたAdoのポテンシャルも本当にすごい。
SUPER BEAVER「グラデーション」
今から約2年前にリリースされた「名前を呼ぶよ」は、SUPER BEAVERの信念を凝縮した渾身の一曲であり、その後すぐに彼らにとっての新たな代表曲となった。あの楽曲は、バンドと映画『東京リベンジャーズ』との運命的な邂逅をきっかけとして世に送り出されたものであり、同映画シリーズと2度目のタッグが実現した「グラデーション」には、配信リリース前から大きな期待が寄せられていた。一聴して真っ先に、またしても渾身の楽曲が生み出されたのだと感じられる。映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』の主題歌という役割を持ちながら、過度に映画の物語に寄り添いすぎることはなく、今バンドが歌い届けるべきことをストレートに歌にしたら、それがそのまま最高の主題歌となった。
では、今バンドが歌い届けるべきこととは何だったのか。それを、曲中の〈僕ら笑い合いたいだけ〉という一節であると結論づけることもできるが、しかしこの曲において本当に大切なのは、その結論に至るまでのプロセスである。渋谷龍太(Vo)は、喜怒哀楽といった言葉では決して形容できないような、えも言われぬ感情をありのまま肯定しながら、〈曖昧の中から 愛を見つけ出せたなら〉と歌う。この曲においては、ソリッドなバンドサウンドと昂るストリングスの音色が全編にわたってほとばしっているが、その熾烈さの中から温かな優しさをたしかに感じ取ることができる。長い人生を生きるうえでは、時に自分の感情さえもわからなくなってしまうような時もあるだろう。その時、きっとこの曲が、あなたの一番の味方になってくれるはずだ。
sumika「Starting Over」
ライブにおける声出しの全面解禁を受けて、ここ数カ月におけるひとつの傾向として、観客のシンガロングパートを大胆に組み込んだ楽曲のリリースが増えている。その中でも、特にこの曲は「観客に託す」度合いが突出している。1番のサビ前以降のほとんどの箇所にシンガロングのパートが挿入されていて、しかも2番サビを終えたあとの〈喜びや悲しみや〉以降のパートが特に顕著であるように、観客のシンガロングが楽曲の中核を担う度合いが後半に進むにつれてどんどん高まっていく。観客のことを心の底から信じ抜いていなければ作れない構成の楽曲であり、つまりこの曲は、sumikaがファンのことを何よりも強く信頼している輝かしい証なのだ。この曲は、先日の横浜スタジアム公演のアンコールでライブ初披露された。筆者はその場に立ち会うことはできなかったが、今後、数々のライブやフェスのステージでこの曲が披露されるのが今から楽しみで仕方がない。
そして、数あるリリックの中でも筆者が特に強く心を動かされたのが、先ほども引用した〈喜びや悲しみや/苦しみも全部持って/憧れや羨みも/隠さずに持っていって〉〈諦めのその逆を/血の滲むような強さで/抱きしめて捕まえて/もう二度と離さないで〉という一節だった。大きな悲しみを経て、再び力強く走り出したsumikaが、今この曲を高らかに歌い上げることの意義はあまりにも深い。新たな〈僕らのストーリーを〉描き出した彼らを、全力で応援し続けたい。