藤井風、ピアノ演奏における様々なテクニック カバーやアレンジから垣間見える音楽に対する好奇心
さらに、藤井の演奏は打鍵のバリエーションも豊かだ。ピアノはタッチの強さによって音量や音質を変える楽器。しかし藤井は音量調節の意味合いを越えて、ピアノを打楽器のように弾きこなす。
カバーアルバム『LOVE ALL COVER ALL』にも収録されているブリトニー・スピアーズ「Overprotected」の序盤、低音をスネアのごとく叩き鳴らす迫力はその代表例だろう。「恋」のアウトロにはスラップベースのような弾き方も取り入れているし、ドナ・サマー「Hot Stuff」では原曲よりスローダウンしたアレンジがピアノのふくよかな響きを生かしている一方で低音部のどっしりとしたタッチは原曲のスネアの存在感を反映しているようでもある。Earth, Wind & Fire「September」などでは裏拍を強調したベースラインがグルーヴを生み出している。
ときに鍵盤ならではの細やかなフレーズも挟みつつ、力強いタッチでドラムやベースのような役割も果たす。鍵盤楽器として、打楽器として、一台数役の演奏をこなしているのである。
藤井がそんな多彩な演奏を可能にしているのは、彼が幼少期から多くの音楽を自身の中に取り込んできたからであり、長い間ピアノに触れているからであると同時に、音楽の解釈に対する貪欲な姿勢があるからでもあるだろう。
YouTubeを見てみても、テイラー・スウィフトの「Wildest Dreams」をバラードにアレンジしてロマンチックに聴かせたり、ビリー・アイリッシュの「Bad Guy」を長調にアレンジしたり、エド・シーラン「Shape Of You」のコード進行を変えたりと、既存曲のコピーに留まらず様々な解釈や弾き方を試していくという音楽に対する好奇心が見て取れる。
そんな彼がアジアツアーという場でどんな音楽を奏でるのか。今、世界中から注目を集めている。
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