スガ シカオ、原風景からエロまで思うまま書き連ねる“無垢な自分” ファンクとの新しい向き合い方も語る

スガ シカオ、思うまま描く“無垢な自分”

「ファンクザウルスは、不真面目なファンクをド真面目にやる」

ーーでは、ファンクザウルス結成の意図とは?

スガ:そもそも一言でファンクと言っても、ソウルと違って、“1アーティスト=1ジャンル”みたいな感じがあって。Sly & the Family Stoneにも、Earth, Wind & Fireにも、プリンスにも、彼ら独自のファンクがあって、しかもそれぞれが全く異なる。その中の一つにジョージ・クリントン(Parliament、Funkadelicほか)に代表されるPファンクがあって。Pファンクの面白さの一つは、演奏している当人たちは極めて大真面目なんだけど、傍から見ているとコミカルに見えるところにあるんですよ。僕は全てのファンクが好きだから、これまでもいろいろなファンクをやってきたんだけど、実はPファンクはアンタッチャブルだったの。それは、僕が本気でやっているファンクを「コミックバンドなの?」と誤解されるのが心外だったから。でも25周年も経たし、ぼちぼち手をつけなきゃなと思って。

ーーほう。

スガ:まあ僕の名義のままでもよかったんだけど、どうせなら過去にFUNK FIRE(ファンクに特化したスガの別名義バンド)をやった時みたいに、スガ シカオ名義と切り離した形態でより特化させようと。スガ シカオ名義で悪ノリするのも限界があるし、「ファンクザウルスはファンクザウルスで本気でやるんだ」という意思表示も必要だと思って独立させました。思い切り不真面目なファンクをド真面目にやりますよ。

ーーそういう意味でも、やはり本作はスガさんにとっての“イノセント(無垢)”だし“覚醒”ですよね。スガさんは近年のインタビューでも、「もはや日本でクラシックなファンクをやる人なんかいない。だから布教のためにも今後ファンクナンバーを増やしていきたい」と発言されていて。

スガ:そう。それもファンクザウルス結成理由の一つだったし。

ーー先日、アンダーソン・パークの最近のインタビュー記事を読んだのですが(※1)、彼が話していたことを要約すると、「俺は自分なりにこの時代の新しいファンクを開拓していきたい。ところが今の(アメリカの)若い人たちは、ファンクが自分の国から生まれた音楽だということさえ知らない。だから畑を耕すためにも、ともかく続けていかなければ」みたいなことだったんです。

スガ:それは僕の何万倍も切実だわ。

ーー日本においてさらにマイノリティなジャンルであるファンクに長年焦がれてきたスガさんも、また今ここから自分なりの新たなファンクを耕しにかかるのだなと。

スガ:そうですね。ファンクザウルスは継続的に活動させて、ゆくゆくは僕の名前を掲げなくてもフェスに出られるぐらいまでは成長させたいです。

ーーファンクザウルスの面々にはボスザウルス(スガ シカオ)を筆頭に、ギターザウルス(田中義人)、ベースザウルス(坂本竜太)、シンセザウルス(Gakushi)というメンバーネームが命名されていますが、ここから想起させられるのはレキシですね。

スガ:そうそう、ファンクザウルスにとってレキシはレジェンドなんです。「レキシになりたい!」という強い思いがある。

ーーつまり、みんなが“ザウルスネーム”を欲しがるような存在になりたいと。じゃあPファンク的に言えば、将来的に複数名の“ザウルス”たちが増員される可能性も?

スガ:あってもいいよね。無駄に人が多いのもPファンクの特徴の一つだし。

ーーそんなファンクザウルスの歌のモチーフは、「バカ」「メルカリ」「ホコリ」「マザコン」など、見事なまでに狭い範囲のブラックユーモアを大声で歌っていますね。

スガ:残念ながら僕にはそうしたブラックユーモアや下ネタの歌詞を書く才能がものすごくあるの(笑)。スタジオでセッションしたトラックを家に持ち帰って、歌詞と一緒にメロディを吹き込んだんだけど、1回で5曲ぐらい作って、歌詞を書くのも1日かからなかったからね。もうナンボでも書ける。自分でもびっくりしちゃう(笑)。何よりファンクザウルスでは「みんなで歌う」ことを大切にしていて。歌詞のテーマは大したことじゃなくても、みんなで歌うとテンションが爆上がりするから。あと、「メルカリFUNK」でゴーゴー(ワシントンで誕生したファンク系の音楽ジャンル)の曲調に〈わっしょいわっしょい〉を入れたのは、はっきり言ってファンクの革命だと思うよ。日本とワシントンの文化の融合だからね。すごいでしょ(笑)。

ーーたしかに。しかも驚くことに何一つ違和感がないです(笑)。そして、4曲目「痛いよ」は女性の視点で歌詞が書かれています。〈いつも痛いよ〉という響きが、傷としての痛みとも取れるし、いわゆる“イタイ人”という意味にも取れますが、こういう歌詞になったのはどうしてなんでしょう?

スガ:書き始めは「夕立ち」(1999年のアルバム『Sweet』収録)みたいな歌詞になりそうだったんだけど、途中からうじゃうじゃとした邪念みたいなものが心の奥から湧いてきて。何度か書き直したんだけど、やっぱり引っ張られてここに戻っちゃうから、もういじらないほうがいいのかなって。

ーーこの「痛いよ」と11曲目「国道4号線」の歌詞には、いくつか言葉の重複、もしくは同じ意味を指す表現の重複が見られます。これって意図的に表現を重ねる場合を除いて、基本的には避けるものですよね。

スガ:最近のJ-POPはそうでもないだろうけど、たしかに大抵は避けるでしょうね。つまりその2曲は、僕自身もコントロール不可能だった歌詞なんですよ。降ってきたままで、物語にちぐはぐな箇所もあるんだけど、修正を試みても他に術がないというか、降りてきた歌詞が修正を許さなかった。だから完成形というよりは、ぐちゃぐちゃのまま「出ちゃった」という感じ。反対に「バニラ」は完全にコントロールできている一例ですね。自分でも不思議ですけど。

ーー5曲目「獣ノニオイ」は、スガ シカオナンバーに多く存在する雨や湿度をモチーフにした曲に、また新たな傑作が生まれたなと。

スガ:これは現実にあった話をそのまま歌詞に書いて、その歌詞に限りなく沿う形で全体のアレンジと流れを僕が作って、音や質感を(田中)義人がコントロールしました。

ーーつまり、歌詞に出てくるような、雨でびしょ濡れになった女性に遭遇したってことですか?

スガ:錦糸町で友達とお好み焼きを食べて、店を出たら雨が降っていて、みんなずぶ濡れになって。ふと女の子のほうを見たら「ウホッ」と(笑)。「これはヤバい。書くしかない。第二の『夕立ち』ができるぞ」と思って一気に書いた。

ーーそこで「書かねば」となるのがスガ シカオたる所以ですよね。しかし、このインタビューをその女性が読んだら、「え、私!?」ってなりますよね。気まずくなりません?

スガ:大丈夫だし、余計なお世話だよ(笑)。

ーー7曲目は「覚 醒」。『イノセント』というアルバムタイトルと同じぐらい、今のスガさんのモードを象徴する言葉だと思いますが。

スガ:最初は「バニラⅡ」みたいなノリで、もう一歩踏み込んだ性的表現の曲にするつもりでトラックを作り始めたんだけど、アルバム制作の最後にこの曲の歌詞を書くことになって、「バニラⅡ」だと、ちょっとトゥーマッチだなと思って、そこまでの歌詞のイメージを全部捨てて、新たに前向きな歌詞を書いてみた。曲調と真逆の歌詞だから大変だったけど、かなりよくできたと思う。

ーーそうしたアンビバレントなアプローチから、自分でも想像さえしていなかった曲が生まれるのもまたスガ シカオマジックですね。

スガ:2000年代辺りの宇多田ヒカルさんって、ものすごくマイナーなメロディに対してえらく前向きな恋愛の歌詞を乗せたりしていたじゃない? 僕、当時かなり衝撃を受けて、それ以来たまに実践しているんです。かなり悩む作詞になるけど、妙に面白い化学反応が生まれるので。

ーー8曲目「東京ゼロメートル地帯」はスガさんの原風景が描かれる恒例の「下町シリーズ」です。アレンジと演奏は「さよならサンセット」と同じチームですが、サビで英語のコーラスって珍しいですね。

スガ:この曲を作っている時、たまたまトム・ウェイツの「In The Neighborhood」(1983年のアルバム『Swordfishtrombones』収録)にハマってたの。だからサビも〈In the neighborhood〉でいいんじゃね? みたいなノリでこうなった(笑)。

ーー〈ぼくはあの街が 恋しくて思い出してる〉という歌詞もちょっと驚きました。珍しく下町を恋しがっているんだなと。

スガ:下町シリーズの方向性は「ぼくの街に遊びにきてよ」(スガシカオ×小林武史/2019年)から少しが変わってきていて。最近も(育った街に)立ち寄ったんだけど、もう僕が住んでいた幼少の頃とは全く違う街並みでね。ファミレスはあるし、洒落たバーもあって、駅前がすっかり綺麗になっていて。そうやって一生懸命変わっていく街の過去を、僕の古傷のせいだけで無理矢理こじ開けるのはもう違うかなと。地元の友達にも会いづらくなるし(笑)、年齢や安定した生活の中で薄れゆくハングリー精神を過去の古傷で補おうとする太宰(治)イズムもなんか嫌だなって。

ーーこの曲も「さよならサンセット」同様、これまでのスガさんにはなかったアレンジの文脈を感じます。違うメンバーによる「国道4号線」にも少し近い匂いを感じますが、いわゆるシティポップ的なエッセンスがあって。

スガ:たしかにシティポップ感とかおしゃれ感を出してほしいとメンバーにリクエストしましたね。僕だけでやると、もっとブルースとかソウルに寄っちゃうから。

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