Bialystocksの創造性溢れるポップミュージックに集まる注目 映画と音楽を行き来するユニークなあり方
2019年に結成され、2022年11月にポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsよりメジャー1stアルバム『Quicksand』をリリースしたBialystocks。昨年1月、Spotifyが躍進を期待するネクストブレイクアーティスト10組を選出する『RADAR:Early Noise 2022』に選ばれてからメジャーデビューに至るまで、着実にその名を音楽ファンの間で広めてきた。初のワンマンライブ『第一回単独公演 於:大手町三井ホール』のチケットは即日完売。東名阪のライブハウスを巡る1stワンマンツアー『"Quicksand” Tour 2023』もソールドアウトと勢いは増すばかりだ。本稿では、2023年さらに多くのリスナーが出会うであろうBialystocksについて、そのユニークなあり方と音楽性にフォーカスして紹介していきたい。
まずはメンバーから。Bialystocksは映画作家としても活躍している甫木元空(Vo)、ジャズシーンを中心に演奏活動を行い、他アーティストのアレンジやサポートも行っている菊池剛(Pf)の二人で構成されている。『EUREKA ユリイカ』(2000年)や『サッド ヴァケイション』(2007年)などで知られる映画監督・青山真治(2022年に逝去)のもとで映画を学び、大根仁、橋口亮輔、山本政志などの助監督を務めた甫木元は、2016年に映画『はるねこ』で監督デビューを果たした。監督・脚本・音楽を自ら手掛けたこの作品で甫木元は、『第46回ロッテルダム国際映画祭』コンペティション部門出品ほか海外の映画祭から招待を受けるなど評価を獲得。“死んだ人とどう向き合うか”をテーマにした『はるねこ』の劇伴を生演奏で披露するために結成されたのが、Bialystocksである。
菊池が本格的に音楽に取り組む起点になったのは、19歳の時のニューヨーク留学。本場のジャズの魅力に惹きつけられ、帰国後、国内のジャズシーンで活動をスタートさせた。彼の音楽的ルーツは、フランク・シナトラやジョージ・ガーシュウィンといった20世紀半ばのアーティスト。古き良きポピュラーミュージックに対する造詣の深さ、そして、現代のポップクリエイターと同期するようなセンスを兼ね備えたミュージシャンと言えるだろう。
映画と音楽。ふたつの表現を行き来するような創造性こそが、Bialystocksの核であり、他のバンドにはない個性のもとになっている。メジャー1stアルバム『Quicksand』も例外ではなく、この作品は甫木元が6年ぶりに監督をつとめた映画『はだかのゆめ』(2022年11月公開)と連なっているのだ。
高知・四万十川の周辺を舞台にした『はだかのゆめ』は、甫木元が経験した、余命宣告を受けた母親との日々が題材となっている。確実に近づいている死を意識しつつも、これまで通りの素朴な日常を送る母親(唯野未歩子)と、彼女の姿を見守りながらぼんやりと佇む息子・ノロ(青木柚)。明確なストーリーが存在せず、現実と神話が溶け合うような映像、美しくも儚い音楽が響く詩情豊かな作品だ。劇伴はもちろんBialystocks。映画の編集とほとんど同時に進行し、映画の主題歌も収められたアルバム『Quicksand』が『はだかのゆめ』と深くつながっていることは間違いないだろう。
たとえば先行配信された「Upon You」には、〈されどノロマも 呆気にとられて歌う〉という歌詞がある。一般的なポップソングでは見かけない表現だと思うが、“ノロマ”と(映画の主人公)“ノロ”を重ねてみると、この楽曲の世界がさらに立体的に浮かび上がってくるはず。サウンドメイクやメロディはきわめてポップ。あえて映画の劇伴と距離を離すことで、幅広いリスナーが気軽に楽しめるポップチューンに結びつけている。
フォーキーな手触りとジャズの雰囲気が響き合う「ただで太った人生」には、映画『はだかのゆめ』に役者として出演したシンガーソングライター・前野健太がコライトとして参加。前野が鼻歌を歌っているシーンを撮影する際、前野から「一緒に曲を作ろう」と持ち掛けられたのがきっかけだという。日常にスッと入り込むようなメロディや〈流れ流れ 流れ流され どこへやら〉は、まさに映画の世界観そのものだ。
一方で『Quicksand』は、優れて現代的なポップアルバムとしても機能している。シンセベースを取り入れたエレクトロ的ダンスチューン「灯台」、オルタナフォーク系の音像と〈僕は今をどこかで軽々しく よそ見でもしながら進む〉というラインが溶け合う「日々の手触り」、そして、シューゲイズを想起させるギター、ジャズ〜フュージョン的なアンサンブル、エモーショナルな歌声が心地よい高揚感を生み出す「あくびのカーブ」。楽曲によって大きく表情を変えるサウンドメイク、日本語の美しい響きを活かしたリリック、感情の自然な移り変わりと同期するようなボーカルを含め、斬新さと普遍性を併せ持ったポップミュージックがしっかりと体現されているのだ。
1stワンマンツアーではサポートミュージシャンに西田修大(Gt)、越智俊介(Ba / CRCK/LCKS)、小山田和正(Dr / ex.ソノダバンド)が参加し、回を重ねるごとにクオリティを上げている。2023年1月には台湾で行われた『NEON GENESIS FES』へ出演し、初の海外ライブにも臨んだ。
映画、音楽を行き来しながら、独創的なサウンドと歌の世界を描き出すBialystocksはここから、さらなるポピュラリティを獲得することになりそうだ。
■Bialystocksの聴くセルフライナーノーツ
https://open.spotify.com/show/7olODulwI00k7x7Tdsfbj3
■映画『はだかのゆめ』公式ホームページ
https://hadakanoyume.com/
■About Bialystocks
https://lit.link/bialystocks