V系/バンド好きライターが『ヒプノシスマイク』のライブにハマった理由 ステージを通じてキャラクターが動き出す瞬間も
近年、様々な人気コンテンツで声優がキャラクターを演じるライブが開催されているが、筆者が普段観ているライブはV系バンドやロックバンドが中心で、2次元コンテンツのライブをほとんど観たことがなかった。そんな筆者へその魅力を教えてくれたのが『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』だった。ストーリーは把握し、好きなキャラクターも見つけていたものの、正直なところ“キャラクターを演じながらライブをする”ということ自体はまだイメージできずにいた。そして、11月26日、27日についに名古屋国際会議場(センチュリーホール)で開催された『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 8th LIVE ≪CONNECT THE LINE≫』ナゴヤ・ディビジョン公演に足を運んだ。本記事では、ナゴヤ公演で見た印象的なシーンに触れつつ、そこから感じたヒプノシスマイク(以下、ヒプマイ)のライブにおける魅力について書きたい。
主役である声優キャストは、歌や煽りはもちろん、振り付けや仕草、表情など身体全てを使って演じていて、まるでキャラクターの魂を降ろしてステージに立っているような迫力があった。その上で、超複雑で難解な「そうぎゃらんBAM」や、ワルツ調の変化球「Violet Masquerade」、メンバー全員がツイストダンスを踊る「One and Two, and Law」など、癖の強い楽曲たちをスムーズに表現してみせる。2019年にBad Ass Templeがデビューして以来積み重ねてきた努力の賜物なのだろう。
完成度の高いライブをさらに盛り上げたのが、ゲストアーティストの存在だ。キャラクターを演じる声優キャストが実在のアーティストと並んでいる光景を目にするだけでも「Bad Ass Templeがこっちの世界に現れた!」感があって喜ばしいのだが、それ以上に、ゲストのステージに影響を受けてパフォーマンスが進化していく様に大きな感動を覚えた。
特に顕著だったのは、27日のMOROHAとのステージだった。ライブ中盤で登場したMOROHAは自身の楽曲から、自分を変えるために立ち上がる「革命」と、家族との繋がりを歌った「ネクター」を熱量たっぷりに披露した。どちらもBad Ass Templeに縁の深いテーマだったこともあり、鬼気迫るアフロのラップとUKの包容力あるギターは声優キャストの3人にも強く響いたようで、波羅夷空却役の葉山翔太が目を潤ませる場面もあった。さらに、アフロは自身が作詞を手掛けたBad Ass Templeの「開眼」のイントロで、「この手に残ったものは敗北。だからこそ問いかける。この先の君よ、どう生きる?」と2ndバトルに敗退した彼らを再び奮い立たせるような力強い口上を披露する。この言葉を受けた3人のパフォーマンスにはこれまで以上に熱が入り、音源とは全く違う、強い感情がこもった表現になっていた。
アーティスト同士がぶつかり合ってパフォーマンスに感情が乗り、それがライブ全体の熱量を高めていくという流れは、まさに対バンライブの醍醐味。生身の人間が演じているからこそ生まれた、この瞬間限りのパフォーマンスは、ライブの本質的な感動をもたらしてくれた。また、観客それぞれが抱くキャラクター像の最大公約数をなぞるような守りの表現に留まらず、自分自身の中で生まれた感情を乗せ、かつあくまでもキャラクターとしてパフォーマンスに昇華させるという声優キャストの気概と力量にも感嘆した。