植木豪が演者・演出家として目指す姿 『ヒプノシスマイク』『進撃の巨人』など舞台への意識

植木豪が演者・演出家として目指す姿

 ダンスパフォーマンスグループ・PaniCrewのメインボーカルとしてその名を幅広く示して以降、様々な活動でステージに立ってきた植木豪。演者としてはもちろん演出家としても手腕を振るっており、昨今では舞台『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』シリーズ、1月7日からスタートする『「進撃の巨人」 -the Musical-』などの演出を手がけ、話題になっている。そこで、リアルサウンドでは植木にインタビューを行い、これまでのキャリアから演出家としてのターニングポイントやマルチに活動するインプットとアウトプットについてなど様々な視点からたっぷり語ってもらった。(高橋梓)

ダンサーというよりも、ヒップホップが根本にある

――まず、植木さんが演出を手がけようと思ったきっかけから教えてください。

植木豪(以下、植木):そもそも僕はダンスで世界チャンピオンになってこの世界に入ったのですが、日本の中で、特に舞台に関して言うとダンサーの地位がそんなに高くなかったんですよね。俳優や歌手に比べて注目されづらいというか、バックフォローやいわゆるアンサンブルという感じでそのままシーンから消えていってしまうこともある。でも他の国だとダンサーはアーティストとして認められていて、国から保障があったりもするんです。日本でも実力のあるダンサーがメインになれる舞台を作りたいと思ったのが、演出をするようになったきっかけかもしれません。

――もともと演者として活躍されていた方が演出やプロデュースをする際、表に出る仕事をセーブするケースが多いです。植木さんは演者としても第一線でご活躍されていますが、両立し続けている理由はあるのでしょうか?

植木:新技がまだ増えているんですよ。例えばボーンブレイクという肩を抜く技のジャンルがあるんですけど、40代になってやってみようと思って。2カ月くらいかかりましたけど、できたんです。それで「まだまだできることがあるんだ」と思って、毎年大技3つと小さなものを何個かノートに書き出してチャレンジしています。そういった自分の進化が止まったら演者をやめようとは思っていますが、自分の思い描いているダンス、アートの完成形がまだ出来上がってないし、20代の頃やりたかった技が最近できるようになったりしているんですよね。なので、まだ演者としてイケそうだと感じています。

――ちなみに、思い描いているアートの完成形とはどんなものなのですか?

植木:言葉で説明するのが難しいんですけど、音楽を聴いて「こんな風に踊りたい」って思うことがあったりするんですよ。でもそれは計算してできるものではなくて、白いキャンバスに「こういう絵を描きたい」と思っても必ずしも想像通りにはならないのと同じ。スキルとイメージを持って具現化できれば納得するものができるんでしょうけどね。

――植木さんの中に確固たるダンサー像が描かれているのではなく、進化していく中で生まれたものに納得できるかどうか。

植木:そうですね。最近だと勝手にダンス動画を作ったりしているのですが、やりたかったものに段々近づいてきている手応えは感じています。

――そういった手応えを感じているのも、豊富な経験と高いスキルがあってこそだと思います。これまでを振り返って「演出家・植木豪」としてのターニングポイントはどこにあるのでしょうか。

植木:やっぱり『エディンバラ・フェスティバル・フリンジ』でBEST PERFORMANCE賞をいただいた時です。僕がいただいた年までずっと受賞者がいなかった賞なので、周囲の見る目が変わったのは感じました。それと、『ヒプノシスマイク』シリーズ。これは演出家として自分の名前を広めてくれた作品です。

――実は、最初に植木さんが『ヒプノシスマイク』の演出を手掛けると知った時には、少しだけ意外な感じもありました。

植木:『ヒプノシスマイク』は音楽に関してかなりシビアなんですよ。しかも、ヨコハマ・ディビジョンであれば横浜、イケブクロ・ディビジョンであれば池袋にルーツを合わせてある音楽なんです。加えてキャラクターごとにラップのフロウに個性があったりして。ヒップホップに精通している人がやらないとダメだということで僕がお話をいただきました。

――では、「植木豪」としてのターニングポイントはいかがですか?

植木:最初で言えば、マイケル・ジャクソンを見たことかな。それと、世界大会でチャンピオンになったこと。もちろん、PaniCrewを作ったことも。たくさん出てきちゃうな(笑)。何かと出会ったことや成果を得られたことは自分の中で大きいです。

――お話を聞いていて感じたのですが、植木さんは何でもこなしてしまうマルチな方というイメージがありますが、ご自身では「ダンサー」という思いが根底にあるのでしょうか。

植木:ダンサーというよりも、ヒップホップが根本にあるんだと思います。ヒップホップってDJ(=音楽)、ラップ(=言葉や歌)、グラフィック(=アートや絵)、ダンス(=動き)の4つの要素でできていて。その4つを自分なりに突き詰めていっている感じです。ラップに当てはまるものであれば歌をやっていますし、DJはトークボックスをやっていて。ダンスはそのままで、グラフィックはデザインの大学に行っていたのでウェアにデザインを落とし込むということをやっています。この4つのことしかやらないです。スノボとかサーフィンとかスケボーとか楽しそうだな、やってみたいなって思いますけど、見ないようにしています(笑)。僕、いろんな人から「この先どうしたら良いですか?」って相談されるんですよ。なので、こういう自分の軸になることを決めて、それを自分の生活に当てはめてみたら? ってアドバイスしていて。そうすると広がりすぎずに一つずつに向き合えるんですよね。

――「舞台演出」はその4つの要素のどこに属するのでしょうか。

植木:良かったなって思うのが、舞台演出はすべてに当てはまるんですよ。音楽があって、踊りがあって、歌があって、照明という色のデザインがあって。だから、最初に演出をした時も「意外とこれまでやってきたことが当てはまる」って思いました。特に『ヒプノシスマイク』は顕著ですよね。僕に合っていたんだと感じます。

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