sasakure.UK×DECO*27、八王子P × Giga……豪華クリエイターによる夢の共演も VOCALOID史に残るボカロP共作の名曲たち
時代の変遷を経て、現在邦楽シーン内の一大カルチャーへと成熟しているVOCALOID。元々がニコニコ動画というインディーな土壌から始まった文化のためか、シーンでは黎明期から作り手たちが実に様々な試行錯誤をしてきた点も興味深い。斬新なアイデアやユニークな活動はその都度リスナーの間でも大きな話題を呼んだが、反響を呼びやすい楽曲の特徴のひとつに、複数のボカロPによるコラボ楽曲が挙げられるだろう。人気曲へのリスペクトや愛を下地としたリミックスとはまた異なる形で、各ボカロPの個性や世界観が垣間見える共作曲。単身でもすでに十分の知名度や人気を獲得するプロデューサーたちが協働して一から作った作品は、夢のコラボとして大きな注目を集めることも多々あった。今回はこれまでのVOCALOID史において、度々話題を呼んだボカロP共作による楽曲をピックアップし、その魅力も含めて解説していきたい。
2007年の初音ミク登場時から約15年間のジャンル史を振り返ると、一度2010年前後に全盛期を迎えた後、シーンは数年間の低迷期を迎え、2010年代後半~2020年にかけて再興の兆しを見せている。様々なボカロPの共作楽曲に関しても、現在広く知れ渡る作品は、やはりシーン全体が興隆する上記2つの時期に集中して投稿された傾向がある。まず最盛期筆頭の楽曲は、164と40mPによるユニット・1640mPによる「タイムマシン」(2010年)だ。「天ノ弱」(2011年)、「からくりピエロ」(2011年)でそれぞれ大ブレイクを果たす二人の共作である本曲。その後もシーンを牽引した彼らの過去作として徐々に再生数が伸び、今や押しも押されもせぬシーンの人気曲に成長している。またこの時期にはれるりり、Nem、オワタPなど錚々たるメンバーが携わる「Mr.Music」(2011年)や、制作陣にsasakure.UK×DECO*27、演奏陣として大勢のボカロPが参加した「39」(2012年)、ゲーム『初音ミク -Project DIVA- f』タイアップソングにも起用されたkz(livetune)×八王子P「Weekender Girl」(2012年)など、往年の名曲が揃う。
そんな中でもやはり特筆すべきは、ひとしずく×やま△「Bad ∞ End ∞ Night」(2012年)の存在だろう。当時主力であったVOCALOIDソフトをほぼ全員投入したオールスター曲としても支持が高く、続編となる「Crazy ∞ nighT」(2012年)、「Twilight ∞ nighT」(2013年)等も連名で制作。単身の人気以上に二人のタッグ曲が支持されるという、異質の存在感を放っていた点にも注目しておきたい。
一方、その後のVOCALOID再興期にも、n-buna × Orangestar「スターナイトスノウ」(2017年)、MARETU×かいりきベア「イナイイナイ依存症」(2017年)、「失敗作少女」(2019年)といった豪華コラボが実現した曲が存在している。かいりきベアによるオリジナル版「イナイイナイ依存症」は2014年、「失敗作少女」は2015年に発表済みだという点も興味深い。
そして、この時期を語るにおいて欠かせないのは、やはり八王子P × Giga「Gimme×Gimme」(2019年)だろう。ミクノポップ、VOCALOEDMという電子サウンドジャンルをそれぞれ牽引する両者のコラボは文字通り一大旋風を巻き起こし、2022年12月現在ニコニコ動画にて300万回、YouTubeにおいては2500万回に迫る再生数を記録。ある意味では今作のスマッシュヒットが、シーン再興の追い風の一端を担ったのではないだろうか。
上記のように、シーン全体の盛り上がりに伴って散見される投稿楽曲と同時に、これまでのジャンル史には共同作を収録コンセプトとしたコンピレーションアルバムの存在も点在している。ここで触れておきたいのは、『MIKU-MIXTURE』(2014年)、 『キメラ』(2021年)の二作だ。
前者の『MIKU-MIXTURE』では、ピノキオピー×鬱P「ゴージャスビッグ対談」や先述のsasakure.UK×DECO*27「39」など全14曲を収録。sasakure.UKとDECO*27のタッグは、「アオゾラハルサイト」、「Snow Song Show」を含めた全3曲の収録となっている。後者の『キメラ』には、一二三×ピノキオピー「サクラノタトゥー」、ナユタン星人×Chinozo「ニュートンダンス」など、全12名のボカロPによるコラボ曲8曲を収録。組み合わせをあみだくじで決定し、その模様を生配信で発信したり、全ペアのインタビューブックレットを同梱したりと、様々な角度から楽曲の共作というコンセプトを楽しめるコンピレーションアルバムだ。切り取り方ひとつでも、時代を経るにつれてボカロPの共作活動がシーン内でひとつの大きなエンタメとして昇華されている点が、ここからも非常によくわかる。