ASIAN KUNG-FU GENERATION、ゲスト迎えた『プラネットフォークス』の美しい世界 深い余韻残した横アリ公演

アジカン『プラネットフォークス』横アリ公演

 5月から続くASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の全国ツアー『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2022「プラネットフォークス」』。10月27日、このロングツアーの終盤戦である横浜アリーナ公演が開催された。事前にアナウンスされていたように、この日の公演には、今春リリースされたアルバム『プラネットフォークス』の楽曲に参加した三船雅也(ROTH BART BARON)、塩塚モエカ(羊文学)、Rachel(chelmico)、OMSB(SIMI LAB)がゲスト出演を果たした。それぞれ音楽性の異なるミュージシャンたちとの連帯を通して生み出された『プラネットフォークス』の世界が、ライブの場でどのように表現されるのか期待していた人は多かったはず。筆者も今回の公演を心待ちにしていた一人だった。まだツアーは継続中のため、今回はゲストとの共演を軸に、横浜アリーナ公演の模様を振り返っていく。

 本公演は、新作の収録曲を軸としながらも、過去の代表曲やバンド史において重要な楽曲を惜しみなく織り込んだセットリストとなっていた。例えば、新作に収められた重厚なロックナンバー「De Arriba」から「センスレス」へとスムーズに繋ぐ流れが象徴的だったように、過去曲との接続を通して『プラネットフォークス』の世界が広がっていく展開に何度も驚かされた。また、その過程では、「電波塔」をはじめとしたレア曲も随所に披露され、新しい世代のリスナーだけではなく、長年にわたりアジカンを応援し続けてきたファンの期待にもしっかり応えていく心意気を感じた。なお今回のライブは、George(MOP of HEAD)とAchico(Ropes)をサポートメンバーとして迎えた6人編成で届けられた。新体制ではあるが、長期間のツアーを共にしてきたこともあり、アジカンの4人と2人の息はばっちり合っている。これまで何度も彼らのライブを観てきたファンも、新鮮なバンドアンサンブルを堪能することができたはずだ。

 1人目のゲストとしてステージに迎え入れられたのは、三船雅也。後藤正文(Vo/Gt)の「聖歌みたいな響きを、みんなに響かせることができたら嬉しいなと思います」という紹介を経て、新作の幕開けを飾った楽曲「You To You」へ。人智を超越したような神聖な響きを放つ三船のファルセットは、もはや言葉を失うほどに美しい。そして、後藤が同曲を通して歌い届ける未来へ向けた渾身のメッセージに、言葉だけでは伝え切れない祈りや願いを重ねていく間奏のフェイクも圧巻だ。まさに、音楽の根源的な力を思い起こさせてくれる名演であった。

三船雅也
三船雅也

 中盤のMCパートで、後藤は、それぞれ異なる人生を生きる観客が集うライブの場について「たった数曲でも、数分でも、数秒でも、同じフィーリングを共有できたら、俺たちはバラバラのまま上手くやっていけるんじゃないか。そういう希望の比喩なんじゃないかと思っています」と語った。その直後に「なんか夜中に書いたラブレターみたいになってるね」と恥ずかしげに付け加えていたが、このメッセージは、まさに『プラネットフォークス』を貫く理念そのものであり、今回のライブにおいて繰り返し表現されていく一大テーマとなっていく。

 2人目のゲストは、塩塚モエカ。ステージインした彼女は、まるでまだ心の中で言葉になる前の繊細な感情を儚いハミングに乗せるかのように優しく響かせ、そのまま「触れたい 確かめたい」を披露した。体全体でリズムを感じ取りながら、たおやかな歌声をアリーナ全体へ響かせていく塩塚。彼女の歌声が重なることによって、アジカンのバンドサウンドに新たな深みと奥行きが加えられていく。後藤とのハモりも鮮やかに際立っていて、2人の美しい旋律に何度も息を呑んだ。

塩塚モエカ
塩塚モエカ

 その後も、新作の楽曲や歴代のスタンダードナンバーを次々と披露していく展開が続いていき、本編終盤のハイライトを担ったのが、9月にリリースされたばかりの新曲「出町柳パラレルユニバース」だった。同曲を披露する前のMCで、後藤は「青春みたいなフィーリングが曲に宿る瞬間が好きで、スタジオで思わず泣きそうになった」と制作秘話を明かしつつ、その青春の美しさについて「みんなのそれを寄せ集めて、静かに震わせるように歌います」と宣言した。同曲が放つフレッシュな躍動感が素晴らしく、またラストサビ前の〈オールライト〉という力強い叫びには特に強く胸を打たれた。曲が終わった後、いくつかコードを鳴らしながら再び〈オールライト〉と囁き、そのまま「荒野を歩け」へと繋ぐ展開も感動的で、そして後藤は1番の終わりに、本来の歌詞にないはずの〈オールライト〉という言葉をもう一度叫んだ。この合言葉は、今回のライブの最後に、また別の形で届けられることになる。

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