連載「lit!」第20回:RADWIMPS、BUMP OF CHICKEN、ASIAN KUNG-FU GENERATION……アニメ×ロックの新たな化学反応
週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。第20回となるこの記事では、「2022年秋のアニメ作品を彩るロック/バンドの楽曲」を軸に5つの新作を選出した。
「アニメ×ロック」の幸福な関係は決して今に始まったものではないが、近年その両者の結びつきはますます強固なものになっている。2022年上半期、最も大きな注目を集めたアニメ作品の一つ『SPY×FAMILY』(テレビ東京系)の主題歌であるOfficial髭男dism「ミックスナッツ」、星野源「喜劇」は、どちらもアニメとの相乗効果を追い風に大ヒットを記録しており、また、映画『ONE PIECE FILM RED』においてAdoが歌った7曲の『ウタの歌』は、もはや主題歌や挿入歌という本来の役割を大きく超えて、物語の核心を担う重要なピースとなっていた。
幕を開けたばかりの秋クールにおいても、『チェンソーマン』(テレビ東京系)の主題歌に関する型破りな座組み(米津玄師がオープニング主題歌、マキシマム ザ ホルモンが挿入歌、計12組のアーティストが週替わりでエンディング主題歌を担当)をはじめ、新しい「アニメ×ロック」のコラボレーションが次々と発表され、オンエアが始まっている。こうした中から、2022年下半期のポップミュージックシーンを象徴するロック/バンドの楽曲が生まれていくのは間違いないだろう。
今回は、RADWIMPS「すずめ feat. 十明」 (映画『すずめの戸締まり』主題歌)、BUMP OF CHICKEN「SOUVENIR」(『SPY×FAMILY』第2クールオープニング主題歌)、ASIAN KUNG-FU GENERATION「出町柳パラレルユニバース」(映画『四畳半タイムマシンブルース』主題歌)、SUPER BEAVER「ひたむき」(日本テレビ系『僕のヒーローアカデミア』第6期オープニングテーマ)、ずっと真夜中でいいのに。「夏枯れ」(映画『雨を告げる漂流団地』挿入歌)のレビューをお届けする。この記事の読者の中には、アニメを観ることで、それまで知らなかったアーティストと出会う人/出会った人も多いと思う。この記事が、ここで取り上げる各アーティストやそれぞれの新曲についての理解を深める上での一助になったら嬉しい。
RADWIMPS「すずめ feat. 十明」
11月11日に公開される新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』において、新海監督とRADWIMPSの3度目のタッグが実現する。詳しくは9月26日公開の別記事の中で解説しているが(※1)、『君の名は。』(2016年)、『天気の子』(2019年)の制作において育まれた両者の絆は非常に深い。新海監督は今回の『すずめの戸締まり』の制作について、「過去二作とははっきりと違う音楽が必要になる映画だと思いましたし、今までよりもずっと鮮烈な音楽体験を観客に与えたかったのです」(※2)とコメントしており、そうした新しい挑戦をする上で、彼は再び、盟友・RADWIMPSの力を必要とした。こうした経緯から、新海監督とRADWIMPSの間に築かれているのは、単なる「映画監督×作曲家」以上の深い関係性であることが伝わってくる。
そして9月30日、同作の主題歌「すずめ feat. 十明」が先行で配信リリースされた。前々から公開されていた予告編で流れていた同曲の旋律を聴いて、そして歌詞の言葉遣いを見て、おそらく多くの人がRADWIMPSが手掛けた楽曲であると予想していたと思う。2009年の楽曲「タユタ」に通じるような和のテイスト全開の一曲であるが、生のバンドサウンドが完全に後景に退いている。『君の名は。』と『天気の子』における主題歌は、どれもRADWIMPSのバンドサウンドを基軸としたものであったため、これは大胆な変化と言っていいだろう。筆者が同曲をフルで聴いてまっさきに思い浮かべたのは、作曲家の川井憲次が手掛けた、押井守監督の映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』における荘厳な劇伴だった。「すずめ」は、そうした音楽と同じように、大きなスケールを誇る楽曲であるからこそ、劇場の大スクリーンを通して鳴り響くことで、真価がよりはっきりと浮かび上がるのではないかと思う。
また、この曲においてボーカルを務めるのが、シンガーソングライターの十明(とあか)である。彼女の歌声は、とてもフラジャイルな儚さを放ちつつ、懸命な祈りや願いが込められているように力強く響いている。同曲を繰り返して聴くたびに、その歌声が誇る神秘的な美しさに深く惹かれていく。とてつもなく大きな才能を感じる。まだ現時点では、多くの謎に包まれているアーティストではあるが、これまで彼女がTikTokで投稿してきた数々の弾き語り動画を観れば、そのレンジの広い歌声に秘められた多彩なポテンシャルに触れることができる。現時点でのアナウンスはないが、『すずめの戸締まり』においては「すずめ」以外にも複数の主題歌が存在し、十明がそれらの楽曲を歌唱することも大いにあり得るだろう。今回の抜擢をきっかけに、大きく開花していく可能性を秘めたシンガーだ。
BUMP OF CHICKEN「SOUVENIR」
この曲を初めて聴いた時、鳴っている音数の少なさ、休符の多さ、そして、その結果として実現したタイトなバンドアンサンブルに驚かされた。音の構築の仕方はシンプル、かつ楽曲のテンポは速いが、だからといって“原点回帰”の楽曲とも異なる。一つひとつの音が極めて洗練されていて、また、総体としてはファンキーとも言えるような、バンドにとって新基軸なサウンドに仕上がっている。春にリリースされた「クロノスタシス」とは全く別の音楽性を打ち出した楽曲ではあるが、あの曲と同じように今回の新曲も彼らにとって新しい挑戦が詰まった野心的な1曲で、このバンドが誇る音楽的探究心の深さを改めて思い知らされた。
また、歌詞に注目すると、決して揺らぐことのないBUMP OF CHICKENの表現の本質と、藤原基央(Vo/Gt)の“『SPY×FAMILY』観”が美しく重なった楽曲になっていることが分かる。まず、前者のBUMP OF CHICKENの表現の本質について。筆者は、〈どこからどんな旅をして 見つけ合う事が出来たの/あなたの昨日も明日も知らないまま 帰り道〉という一節(および、この言葉のアンサーとなっているラストのサビの一節)に、このバンドが一貫して歌い続けているメッセージの核心が色濃く表れていると感じた。他者と生きていく上では、相手の生きてきた過去の全てを知ることはできないし、この先に同じ未来を見ることができる絶対的な保証もない。それでも、いやだからこそ、同じ時を過ごすことができる今この瞬間が切実な輝きを放つ。BUMP OF CHICKENはずっと、そうした切ない真理を懸命に歌い続けているバンドだ。
そして、後者の藤原の“『SPY×FAMILY』観”について。ロイドとヨルとアーニャは、あくまでも“かりそめの家族”であり、その関係性は一般的に定義されている“家族”とは異なるものかもしれない。それでも、一緒に同じ時を過ごしていく中で視界が開けていき、世界の広さと豊かさを知り、新しい自分に出会う。そして、かけがえのない〈あなた〉への切実な想いは、日々の生活の中で確かに募っていく。“かりそめの家族”が、少しずつ本当の“家族”のような関係性を築いていく過程こそが『SPY×FAMILY』の物語の真髄だとして、〈あなたに向かう道〉について歌った同曲は、それぞれのキャラクターが胸の内に抱く本音に優しく寄り添う役割を見事に果たしている。バンドとアニメ、それぞれの表現の本質が美しく重なり合った、幸福なタイアップ曲だと思う。
ASIAN KUNG-FU GENERATION「出町柳パラレルユニバース」
「出町柳パラレルユニバース」は、森見登美彦の小説(原案・上田誠)を原作とした映画『四畳半タイムマシンブルース』の主題歌だ。森見登美彦の小説の映像作品とアジカンの楽曲がコラボレーションするのは、アニメ『四畳半神話大系』(フジテレビ系/主題歌「迷子犬と雨のビート」)、映画『夜は短し歩けよ乙女』(主題歌「荒野を歩け」)に続いて今回が3度目となる。アジカンのCDジャケット、および、上記3作品のキャラクター原案を務めた中村佑介を含めたトライアングルはまさに鉄壁の布陣であり、そうした三者の関係性から、アニメと音楽は不可分なものであることが改めて伝わってくる。『四畳半タイムマシンブルース』においては、25年のタイムトラベルが描かれており、奇遇にもアジカンは昨年に結成25周年を迎えたばかり。「出町柳パラレルユニバース」は、バンド結成初期のナンバーを想起させるような直球なロックチューンとなっていて、映画のキャラクターたちが駆け抜ける青春の季節を鮮やかに彩る重要な役割を果たしている。四半世紀を経て鳴らされる瑞々しいロックサウンドが、強く胸を打つ。
なお、今回のシングルには、アジカンが敬愛するWeezerのカバー曲「I Just Threw Out The Love Of My Dreams」などに加えて、表題曲のタイトルと歌詞の一部を変えた「柳小路パラレルユニバース」も収録されている。柳小路は江ノ電の駅名の一つであり、近々リリースされるはずの『サーフ ブンガク カマクラ』(2008年)の続編作品の布石であることは間違いないだろう。振り返ると『サーフ ブンガク カマクラ』は、同年にリリースされた『ワールド ワールド ワールド』(&『未だ見ぬ明日に』)の反動としてリリースされた作品であり、肩の力を抜いたようなラフさが伝わってくるフレッシュな名盤であった。今年の春に『プラネットフォークス』という大作をリリースし終えた彼らは、今一度肩の力を抜いて、再び自由にパワーポップを鳴らすモードへと突入していくことが予想できる。