来日決定のMy Chemical Romance、現代シーンへの絶大な影響 規範や生きづらさに立ち向かう“アウトサイダーのヒーロー”
(少なくとも筆者にとっては)マイケミとは、現実に馴染めない人々が自分らしくいられる、唯一の居場所のような存在だった。絶望や孤独、不安といった、表に出さない方が良いとされるネガティブな感情を隠すどころか(大合唱できるほどに)全力で表現し、ライブやインタビューでは社会に馴染めないアウトサイダーに力強い声援を送り、顔を美しい化粧(特にアイライナーが重要だ)で彩る彼らは、音楽シーンの中心で「大人らしさ」や「男らしさ」といった様々な規範を自ら徹底的に破壊してみせたヒーローだった。アルバムごとに、異なるシリーズのコミックを描いているかのようなユニークな世界観や物語を打ち出していたので、現実ではなく、その世界に思いを馳せる(時にはその一員であるかのように自らを表現する)ことで、自分らしく楽しく過ごすことができた。彼らの楽曲を聴いていると、「生きづらさを感じているのは自分だけではない。たとえ馴染めなくても、生きていていいんだ。だったら規範を強制する人々に中指を立てながら、このまま生き続けてやれ」という気分になるのだ。
ホールジーも一字一句間違えることなく大合唱していた「Famous Last Words」には、〈Well, is it hard understanding, I'm incomplete?(理解しがたいことなんだろうか、僕は不完全な存在だって)〉というフレーズがある。自らを不完全だと言い放った上で、ジェラルドはコーラスで次の言葉を歌い上げる。
〈I am not afraid to keep on living / I am not afraid to walk this world alone(僕は生き続けることを恐れない/この世界をひとりで歩いていくのも怖くない)〉
この言葉にどれほど勇気づけられただろうか。また、筆者としては「現実に馴染めない人々が自分らしくいられる居場所だった」というのは、マイケミが再評価され、今なお愛され続ける最大の理由だと考えている。前述のマイケミに影響を受けたアーティストの多くは、まさに生きづらさを抱えている人々に手を差し伸べ、規範に立ち向かう存在だ。音楽性以上に、その姿勢やメッセージが絶大な影響を与えたのである。アートワーク、ファッション、メロディ、リリック、パフォーマンス、インタビューやライブでの言葉、その全てが“My Chemical Romance”という概念の中に完璧に詰め込まれているのだ。その影響を語る人がいて、それを必要とする人がいる限り、また新たなファンが生まれ続けていくことだろう(余談だが、『Them』の「How My Chemical Romance’s Gerard Way Became a Queer Icon」という記事は、現代におけるマイケミの受容の在り方を知る上でぜひ一度読んでいただきたい/※1)。
冒頭で書いた通り、来年、マイケミは再び日本に帰ってくる。今年の春には再結成後初となる新曲「The Foundations of Decay」を発表しており、ニューアルバムにも期待のかかるところだ。ちなみに再結成したからといってマイケミが「大人になった」かというと、やはりそんなはずはなく、特にジェラルド・ウェイのステージファッションについては、ある時はチアリーダーの衣装を着たり、ある時は血塗れのピエロの格好をしたり、ある時は吸血鬼に扮したりと、以前よりもバリエーションが豊かになっており、ファンとして嬉しい限りだ。来日公演では、なんとか今日まで生き続けてきた自分たちを祝って、盛大なパーティを繰り広げたいものである。やはり我々は、間違っていなかったのだ。
※1:https://www.them.us/story/my-chemical-romance-gerard-way-queer-fandom