(sic)boyとKMが語る、ラップシーンの新潮流 教科書に則ったスタイルから、オリジナルを生み出す試みへ

(sic)boyとKMが語る、ラップシーンの新潮流 教科書に則ったスタイルから、オリジナルを生み出す試みへ

 ティーンからカリスマ的人気を誇るプロデューサ/ラッパー・釈迦坊主の主催するイベント『TOKIO SHAMAN』の出演やSoundCloudで発表した音源によって注目を集め、L’Arc-en-Cielのhydeからの影響を公言する、異色のラッパー・(sic)boy(ex. sid the lynch)。そしてBenjazzy(BAD HOP)をはじめとした若手注目株から田我流らシーンの中核を担うアーティストの楽曲のビートまで手がけ、幅広い音楽性を活かし活躍するプロデューサー・KM。そんな2人が世代を超えてタッグを組んだEPが『(sic)’s sense』だ。

 本作を一聴して驚かされるのは、ロックバンド的なラウドさやダイナミズムに彩られ、それでいてヒップホップが流れるクラブのフロアを想起させるサウンド。2人の話を聞けば、この明確にジャンル分けすることのできない音楽が、互いのルーツと個性、飽くなき探究心が混ざり合い、ある種の必然の元に生まれていることがよりクリアに見えてくるだろう。同時に、ジャンルレスな楽曲を生み出しているZ世代のアーティストが次々と頭角を現している現在の音楽シーンに抱く、「彼らは突然変異なのだろうか?」という問いへの重要な示唆を与えてくれるはずだ。固定観念にとらわれやすい“ジャンル”というものについても今一度考えながら読んでみて欲しい。(高久大輝)

「ヒップホップ好きな層だけに刺さって欲しいとは思ってません」

ーー『(sic)’s sense』がリリースされてから少し時間が経ちましたが、周囲のリアクションはいかがですか?

(sic)boy:KMさんのような、トラックメイカーの方と仕事をするのが初めてだったので、ミキシングやマスタリングも含めて、今までSoundCloudとかにUPしていたものに比べたら「聴きやすくなったね」と言ってもらえることが多いです。

KM:いい反応をたくさん貰って安心してますね。結構突っ込んだサウンドで、ヒップホップからもズレているし、ロックに寄せているかというとそうでもないので、居場所がないかなと思いつつやってみたら、メディアやDJ、SpotifyやApple Musicなどに取り上げていただいてびっくりしました。

ーージャンルを問わず幅広い層に聴かれ得る作品になりましたよね。

(sic)boy:噛み砕き方はリスナー一人ひとり違うと思うんです。だから、僕が作った曲をヒップホップだと思ってくれればヒップホップだし、ロックだと思ってくれればロックだし、J-POPならJ-POPだし。ポジティブに捉えられますよね、全部。

KM:EPが出来上がったときに、マネージャーから「これジャンルなんて書けばいいですか?」って聞かれて、「確かにわかんないよね」って話して。だからジャンルを2つ選べる配信サイトではメインをヒップホップにして、サブジャンルでロックにしたんです。だいたいの配信サイトではだいたい選べるジャンルは1つなので一応ヒップホップってことにはなってるんですけど、別にヒップホップ好きな層だけに刺さって欲しいとは思ってません。

ーーKMさんは別のインタビュー(参照)で本作は「リミッターを外して作っている」とおっしゃっていますが、具体的にどういった部分に現れていると思いますか?

KM:そうですね。僕は、柔らかい優しいサウンドを目指していて。トラップスタイルからもう少し間口を広げたくて、音的にはフェンダー・ローズ(エレクトリックピアノの代表機種)やギター、ピアノだったりを取り入れながらやっていたんです。本作ではさらに踏み込んでいて、例えば「no.13 ghost」はもうちょっとでダブステップまでいっちゃうくらいの感覚で、エレクトロニックな音を使っていたりします。キック単体にしてもミックス的にかなり前に出てくるようにしていて。そういう要素はヒップホップからは少し敬遠されがちだったんです。やっぱりラッパーはリリックをキックの音に潰されたくないと思うので。けど彼のフックはキャッチーで繰り返しのフレーズも多い分、音で遊べたというか。

(sic)boy,KM – no.13 ghost

ーー本作はクラブユースもできるサウンドに仕上がっているところも素晴らしいと感じました。

KM:それも狙っていて。やりとりの中で彼のアイデアを具体化してトラックに乗せていくとどうしてもロックに寄り過ぎてしまうので。例えばイントロは入りやすくトラップスタイルにしてみて、それだけだと面白くないから、フックの最後だけギターサウンドに一回だけフリップしてすぐ戻すとか。このバランスはかなり話し合いましたね。

(sic)boy:はい。スタッフも含めて何度も聴き返しながら。

ーー「(sic)’s sense」のギターの音をスクラッチしたようなエフェクトもそういったバランスを考えて?

KM:ギターの音にスクラッチを入れることで、サンプルしているようなニュアンスに持っていけるんですよね。音楽的にはスクラッチが入ってない方がわかりやすいとは思いますけど、いかんせん彼のボーカルがラップとは言い難い歌い方になっていたので。スクラッチしたり、スクリューさせたりすることでトラップの文脈にギリギリ引っかかるように計算しました。

ーー(sic)boyさんは、フロウなどでこだわっていることはありますか?

(sic)boy:Bメロでもフックに持っていけるくらいキャッチーじゃないと納得いかなくて。サビであることを明確に示すよりも、キャッチーなメロディと同じコード進行が、ゆるやかにつながっていくのが強みだと思っていますね。ここをフックにしてもいいんじゃない? って話は結構ありました。

KM:「freezing night」なんてどこがフックかわからないよね(笑)。しかもブリッジでいきなりトラックが消えるんですよ。歌がメロディックなのにトラックの音が消えることって、今ならUSの音楽で何曲か頭に浮かびますけど、日本だとやってる人はあまりいなくて。そういう新しいアイデアも詰め込みましたね。

(sic)boy , KM – freezing night

コラムPick Up!

もっとみる

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

映画部Pick Up!