宇野維正×つやちゃん特別対談 ザ・キッド・ラロイから(sic)boyまで繋ぐ“ラップミュージックによるロックの再定義”

宇野維正×つやちゃん特別対談

 2021年7月にリリースされたThe Kid LAROIとJustin Bieberによる「Stay」。日頃TikTokをはじめとする動画投稿アプリをチェックしている人であれば、間違いなく耳にしたことがあるはずだ。そんな彼の存在は、単なるポップスター以上にロックスターとしての熱を帯びているように感じられる。

 そしてThe Kid LAROIの作品でもフィーチャリングされているMachine Gun Kellyもまた、ラッパーとしてデビューしながら、昨年発表した最新アルバムではポップパンクを主とするスタイルを披露。アルバムは全米1位を獲得し、彼もまた新たな時代におけるロックスター像を打ち出してみせた。

 そんなThe Kid LAROIとMachine Gun Kellyの活躍に注目した上で、リアルサウンドでは「ラップミュージックによるロックの再定義」と題した対談をセッティング。これまであまり触れられてこなかった同テーマについて、日本のラップシーンがリアルタイムでシンクロしている状況もふまえながら、宇野維正氏とつやちゃん氏に語り合ってもらった。(編集部)

「海外の若い世代にはロックよりもラップの方が身近な存在」(宇野)

宇野維正(以下、宇野):今年、日本で流行ったK-POP以外の海外のポップソングの筆頭として挙げられるのはThe Kid LAROIの「Stay」ですよね。こんなにいろんな場所で耳にしたのは本当に久々、それこそEd Sheeranの「Shape of You」とかBillie Eilishの「bad guy」以来で。そういう曲が1年か2年に1曲しかないという日本の海外ポップミュージック受容の問題はひとまず置いておいて、ここでは「The Kid LAROIは音楽シーンのどんな文脈から現れて、何を象徴しているのか」というところから話をしていきましょう。日本でもJUNG KOOKのカラオケ動画がBTSのファンの間で話題になったり、曲に合わせて踊ってる芸人の動画がバズったりしてますけど、日本語環境ではテキストが圧倒的に不足していて。

つやちゃん:あっても翻訳記事くらいですよね。

The Kid LAROI, Justin Bieber – STAY (Japanese Lyric Video)

宇野:もちろん、Justin Bieberのフィーチャリングがヒットのきっかけの一つにはなってるんでしょうけど。The Kid LAROIはラップスターなのかロックスターなのか、あるいはJustin Bieberのようなポップスターなのかというテーマから、非常に自覚的にラップスターからロックスターへと変身を遂げて大成功しているMachine Gun Kelly、そして彼らと同じようにラップとロックの境界線上にいる日本の(sic)boyの周辺まで、現在の国内外の音楽シーンで起こっている“ロックの再定義”とも言えるような地殻変動の全体像をこの対談で見渡すことができればいいなと。

つやちゃん:そもそもラップシーンにおけるロックの再定義というのは今に始まったことではないですよね。どこまで遡るのかという問題もありますが、OutKastやN.E.R.Dもいたし、それこそバンドサウンドを取り入れたJAY-Z『The Blueprint 3』や、話題になったLil Wayneの『Rebirth』なんかもありましたね。ただ、以前はどちらかというとロックを引用することでコンセプチュアルな作品になっていったり、もしくは単にギターの音を入れました、というだけのアプローチだったり。

宇野:そういうサウンドのモチーフやサンプリングのネタもそうだし、Afrika Bambaataaの「Planet Rock」やRUN DMCの「King of Rock」から近年多くのラッパーが曲のタイトルやリリックで用いている〈rockstar〉というワードに至るまでの“ロック”という言葉の使用法としても、ルーツや広がりを辿っていくとキリがないですよね。

つやちゃん:今のシーンの源流としてThe Kid LAROIやMachine Gun Kellyの“ロック”面における背景について話すなら大きく2つ、グランジとポップパンクでしょうか。前者でいうと、いまだに多くのラッパーにとってアイコン的な存在になっているKurt Cobain。後者でいうと、そこでいろいろな人をつないで立ち回っているblink-182のTravis Barker。この2人が象徴的な人物として存在していますよね。とは言え、ポップパンクがここまで大々的にフィーチャーされてるのって昨年あたりからで、基本的に2010年代のラップミュージックはグランジの影響が最も大きかったと思うんです。あと、エモですね。

宇野:その前に、彼らが出てきたSoundCloudのラップシーンについてちょっと整理する必要があるかもしれません。言ってみれば、今や世界的なポップスターとなったPost Maloneから日本の(sic)boyやLEXまで、みんな最初に注目されたきっかけはSoundCloudだったわけで。The Kid LAROIに関しては、そのシーンの代表的な存在だったJuice Wrldからいち早くオープニングアクトに抜擢されたりというキャリアの流れもありますよね。

つやちゃん:2010年代にSoundCloudやBandcampといったプラットフォームを使って楽曲を公開していくような、いわゆるクラウドラップという動きが出てきましたが、インターネットの性質上ダークで内省的な音楽が多く、そこから一部の音楽がエモラップと呼ばれてネットを飛び越え巨大な動きになっていきましたよね。それこそLil Peepも所属していたヒップホップ・クルー、GothBoiCliqueなどはSoundCloudで楽曲を発表しつつ、1stアルバム『Yeah It’s True』を発表した2016年時点ですでにエモラップの原型であり完成形とも呼べる作品を作っていた。そこからLil Peepがビッグになっていって、もちろん先駆けてXXXTENTACIONなんかもいて、彼らはグランジにとどまらずエモの哀愁や叙情性といった要素までも吸収しながら、どんどん陰鬱さを増していった。

宇野:そして、そのLil PeepもXXXTENTACIONも、さらにはJuice Wrldもみんな死んでしまったという。XXXTENTACIONは死因こそ違うものの、やっぱり2019年くらいまでのエモラップのシーンは、リーンやザナックスやオピオイドといった処方薬を含めたドラッグとあまりにも深く結びついた特異なシーンでした。一方で、エモラップのポップでラジオフレンドリーな部分をフィーチャーした24kGoldnとIann Diorの「Mood」のようなグローバルヒットも生まれるようになって、きっとThe Kid LAROIの大ブレイクもその延長上にある。そこには、表面上だけでも明るく振る舞ってないと死んじゃうみたいな、エモラップという磁場からの意識的な離脱という側面もあるように思うんですけど。

つやちゃん:The Kid LAROIまでくると、グランジの影響を脱しきって、完全にエモだなと思います。エモってこれもまたビッグワードで、ここ30年間くらいずっとこのバカみたいに大きい括りの言葉に世界中が振り回されてるわけですが(笑)、非常にポップ化もしやすいというか、Juice Wrldがいた頃のエモラップをベースにしつつもエモポップと化している印象です。でも、そうじゃないと“死んじゃう”っていうのは確かにおっしゃる通りかもしれないですね。エモの再定義が図られるのは必然であったと。The Kid LAROIによってエモラップの持つエモ性の純化みたいなものが進んでいった結果、どんどんそぎ落とされて結局美メロのポップソングやギターロックに近くなっている。ただ、根底にあるのはやっぱりラップミュージックなんですよね。

宇野:同じくSoundCloudから出てきたBillie Eilishの初期の音源とかもそうですけど、制作環境においても、リスナー環境においても、海外の若い世代にとってはロックよりもラップミュージックの方があらゆる意味で身近な存在としてあったというのが大きいですよね。まずはそこで名を上げてから、それぞれの音楽性を追求していくという。ただ、The Kid LAROIに関して言うと、今年の『Reading Festival』でのライブ映像とか見ると、シンガロングしてるオーディエンスのノリはもう完全にOasisみたいなことになってるんですよ。なのに、どうして懐古的な感じが全然しないのかというと、自分は彼の歌唱法に鍵があると思っていて。

The Kid LAROI – Without You (Reading 2021)

つやちゃん:歌唱法というと?

宇野:語尾の切れがすごくいいんですよ。Oasisっぽいと言ったけど、OasisってLiamでもNoelでも基本的に語尾を伸ばす歌い方をするじゃないですか。それに対してThe Kid LAROIは語尾をスタッカート気味に気持ちよく切っていく。まるでビートをエディットするような感じで。だから、どんなメロディアスな曲でも野暮ったかったり、湿っぽかったりしない。これはPost Maloneや、ラッパーじゃないけどJustin Bieberにもちょっと言えることなんですけど、ラップミュージックを通過してるかどうかって、実はラップだけじゃなくて、歌い方にも如実に表れるよなって。彼ら全員、何よりも声がめちゃくちゃいいという前提もありますけど。

つやちゃん:そういう意味では、Post MaloneもThe Kid LAROIもフロウの多様化という流れにおける、突出した才能と位置付けられるかもしれませんね。Drakeが出てきて、FutureやYoung Thugを経て、近年のラップミュージックは楽曲に変化をつけてリズムを奏でる手法として非常に多彩なフロウを見せるようになった。それが、ラップのフロウだけではなく歌のフロウにまで及んでいるという。

宇野:Post MaloneやThe Kid LAROIの歌をフロウとして捉えるというのは面白い視点ですね。フロウのオリジナリティっていうのは、ラッパーとして成功するために一番大事なものですけど、その文脈で言うと、Post MaloneもThe Kid LAROIもフロウのオリジナリティを持っているということになる。

つやちゃん:それで言うと、もはやフロウの概念で捉えられないのがPlayboi Cartiのようなロック的なシャウトをするラッパーだと思っていて。

宇野:でも、Playboi Cartiのシャウトもフロウの多様化の一形態とも言えますよね。

つやちゃん:そうなんですけど、そもそもラップというのはリリックを書いてそのリリックをフロウに乗せていくという、極めて丁寧で迂回的なコミュニケーションが前提にあるわけじゃないですか。それが、感情が高ぶってしまって、その間をすっとばしてシャウトしちゃうんだというところまできている。

Playboi Carti – Sky [Official Video]

宇野:なるほど。Playboi Cartiに関してはシャウトもそうだけど、リリックもほとんど意味を拒絶してるじゃないですか。荒唐無稽なリリックをただシャウトするという、もはやラップミュージックの最前線がLittle RichardやChuck Berryの時代に回帰しているとも言える。ラップミュージックによる“ロックの再定義”という意味では、もしかしたらそっちで起こってることの方が重要かもしれない。正確には“ロック”ではなく“ロックンロールの再定義”ですけど。

つやちゃん:ビートも声も、すべてフラットな音素材でしかないと。2000年代後半から2010年代前半にかけて、いわゆるブロステップのブームがあったじゃないですか。Skrillexが出てきて、ゲームミュージックやロックやメタルを取り入れて、そのあたりから四つ打ちヒップホップやEDMトラップも盛り上がっていった。あれ以降ですよね、何でもありになったのは。当時そこで耕された土壌があって今の“レイジ”のシーンにもつながっている。

宇野:そう考えると、昨年末に出たPlayboi Cartiのアルバム『Whole Lotta Red』が超重要作だったのはもちろんのこと、今年のラップシーンを席巻している“レイジ”の代名詞的な曲となった「Miss The Rage」も入ってるTrippie Reddのアルバム『Trip At Knight』も象徴的な作品でしたよね。Playboi Cartiだけじゃなく、Drake、Lil Uzi Vert、Juice Wrld、XXXTENTACION、SoFaygoとこの対談のテーマに関わってくるラッパーたちがフィーチャリングで勢揃いしている。

Trippie Redd – Miss The Rage ft. Playboi Carti (Official Music Video)

つやちゃん:自分が気になるのは、このシャウト的フロウのようなものがこの先どこへ向かっていくのかということですね。ロックは、エモもメタルも最終的にスクリームやデスボイスという形にエクストリーム化していった流れがありますよね。スクリーモやデスメタルというある種の様式美として。今、もうラッパーは新たなフロウのためならシャウトすらするわけです。トラップメタルのようなものも一種のジャンル内ジャンルとしてすでにありますが、今後はもっとメインストリームでスクリームやデスボイス的なラップフロウが展開される日がくるかもしれない。“フロウの多様化”の先にあるものとして、それは十分に考えられる。

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