加山雄三、最後のホールコンサートで「幸せだなぁ」 支えてくれた人々へ歌と言葉で届けた感謝の思い
年内でコンサート活動からの引退を発表している歌手 加山雄三が9月9日、東京国際フォーラム ホールAで、ホール会場でのラストコンサート『加山雄三ラストショー~永遠の若大将~』を開催。「海 その愛」や「光進丸」など海にまつわる楽曲をはじめ、「蒼い星くず」や「ブラック・サンド・ビーチ」などのエレキサウンド、そして「サライ」や「君といつまでも」など代表曲を含む全27曲を披露した他、未発表音源も公開されるなど、音楽家としての次に繫がるステージとなった。
「海 その愛」で始まったライブ。加山の力強く雄大なボーカルが、ピアノの音色と共に会場に響き渡り、バンドの音が徐々に重なっていく。加山は手を左右に揺らし、指揮をするような動きを見せると、それに合わせて、ブルーに輝く観客のペンライトがゆっくりと揺れる。客席には、大海原のような光景が広がった。「海には自由がある。僕は海っぺりで育ったこともあって、海が好きなんです」。青春時代を茅ヶ崎で過ごし、初めてサーフィンをやった日本人としても知られる加山。第一部は、海にまつわる楽曲9曲が選曲された。加山自身が大好きな曲と紹介した「ある日渚にて」。「俺は海の子」では、幼少時代に海で貝を獲って佃煮を作り家族に美味しいと褒めてもらったという思い出を語り、「俺は海に育ててもらった」とぽつり。
他に、リバービーなギターと美しいコーラスがチルアウト感たっぷりの「湘南ひき潮」、ゆったりとしたボッサのリズムが心地良い「まだ見ぬ恋人」、弦のイントロが海の雄大さを感じさせる、三連符のナンバー「君のために」など。「ひとり渚で」は、オーケストラで披露したことがあり、指揮者に「いい曲だね」と褒めてもらったことがあると、エピソードを披露した。
そして第一部は、加山が所有したクルーザーの名前が付けられた「光進丸」で締めくくった。軽快なリズムに乗せて〈江ノ島、三崎、大島越えて〉と力強く歌った加山。会場に手拍子が広がるとそれをうれしそうに見渡し、最後は立ち上がって〈Sail On! 光進丸よ〉と、力強く拳を握りしめて歌った。
30分の休憩を挟み第二部がスタートすると、ステージ上のモニターに、バーチャルで作られた加山(バーチャル若大将)が映し出され、「そして陽は昇りつづける」を歌った。あまりのリアルさにザワつく会場。どこかで本人が隠れて歌っているんじゃないかと、周囲をキョロキョロと見回す観客も。そんな中に「俺、もういらないな!」と加山本人が登場し、本人とバーチャル加山のデュエットで「旅人よ」を歌い、会場をあっと言わせた。「誰もやったことのないことをやるのが好きだからさ」と、少年のようにいたずらっぽい笑顔を見せた加山は、生粋のゲーマーであることで知られる。もしかすると自身のコンサート活動からの引退後は、このバーチャル若大将にステージを任せるつもりで、その実験だったのかもしれない……などとつい思いを巡らせてしまった。
その後リリース当時、寺内タケシとブルージーンズと共演した「蒼い星くず」などグループサウンズの名曲を次々と披露した。「蒼い星くず」は、メランコリックなメロディとエレキギターのサウンドの格好良さから、多くのアーティストがカバー。加山のライブでも、自身がエレキをかき鳴らしながら歌うことで知られる。また、ベンチャーズなど海外のサーフロックからの影響を受け、加山雄三とザ・ランチャーズ名義で発表したインストナンバー「ブラック・サンド・ビーチ」は、加山がギターの腕前を披露するのが定番だ。最後に加山のギターを聴けなかったのは残念だが、サポートバンドのギタリストに演奏を任せ、拍手を送る加山は、そのプレイに満足げな笑顔を見せていた。
実際にアルプスに行って山の名前を付けたと紹介した「ブライトホーン」、そしてサイモン&ガーファンクルのカバー「明日に架ける橋」も披露した。夏は海でサーフィンやヨット、冬は雪山でスキーに興じ、その合間にはロックやフォークなどの音楽も嗜む。数々の楽曲からは、遊びも本気で遊び尽くすといった、今の時代でも憧れる加山のライフスタイルが感じられた。