加山雄三、いよいよ迫る最後のホール公演 ライブ・ビューイングも実施のラストショーを前に辿るスターの歩み
8月27日・28日に放送された『24時間テレビ』(日本テレビ系)に出演、「サライ」の“ラスト生歌唱”が話題を集めた加山雄三。放送では感無量といった様子で「みんなに大切にしてもらってよかった」とコメントし、惜しまれる声があがる中、万感の思いで「サライ」を歌った。加山は、年内でのコンサート活動からの引退を発表しており、9月9日に東京・東京国際フォーラムホールAで『加山雄三ラストショー 永遠の若大将』を開催。名誉船長を務める豪華客船「飛鳥Ⅱ」での12月の船上ライブ(若大将クルーズ)が最後のコンサートとなる。
俳優の上原謙と女優の小桜葉子夫妻の元に生まれ、茅ヶ崎で育った加山雄三。幼少期からサーフィンなどマリンスポーツに親しみ、学生時代にはボクシングやバンド活動を始めた。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1960年に映画『男対男』で俳優デビュー、1961年に「夜の太陽」で歌手デビューし、『NHK紅白歌合戦』への出場は17回を数える。長きに渡るトップスターとしての活動が認められ、旭日小綬章、文化功労者といった文化勲章にも輝いている。
容姿端麗、スポーツ万能、しかもオシャレで、俳優業とアーティスト業の二刀流。歌だけでなく作詞・作曲も手がけ、ギターもプロ級。さながら“1人アベンジャーズ”といった八面六臂の活躍で、デビュー当時の加山は名実共にスーパースターだった。
有名なのは、“若大将”と呼ばれる由来となった主演映画『若大将』シリーズ(全17作)だ。同シリーズでは作品ごとに、マラソン、ヨット、サーフィン、スキー、アメリカンフットボール、カーレースなど様々なスポーツにチャレンジ。各作品の主題歌も担当し『エレキの若大将』の主題歌「君といつまでも」は、350万枚のヒットを記録した。加山がエレキギターやウクレレを弾きながら甘い歌声を聴かせるシーンも『若大将』シリーズの名物で、その後も「蒼い星くず」などのヒット曲が生まれていった。これまでに65枚のシングル、27枚のオリジナルアルバムなど実に多くの作品をリリースしてきた。中でも『24時間テレビ』のテーマソングとして谷村新司と制作した「サライ」は、現在も歌い継がれる国民的なヒットソングとして知られている。
加山の音楽は実に幅広い世代から愛され、音楽シーンのトップアーティストにも多大な影響を与えた。岩谷時子が作詞、作曲を加山自身が務めた「君といつまでも」は、桑田佳祐をはじめとした多くのアーティストによってカバーされてきた。桑田は、同郷の先輩である加山を“茅ヶ崎が生んだスーパースター”として敬愛し、桑田の呼びかけで2006年に開催された『THE 夢人島 Fes.』で共演を果たし、ことあるごとにエールを送り合ってきた。また山下達郎は、中学1年生の時に初めて買った邦楽の歌もののレコードが、加山の『君といつまでも』だったと、自身のラジオ番組で公言。2017年4月11日には、桑田佳祐・原由子夫妻、山下達郎・竹内まりや夫妻が発起人となって、ブルーノート東京を貸し切って80歳の誕生日会が行われたこともある。
60歳を記念して1997年に制作されたトリビュートアルバム『60 CANDLES』には、カールスモーキー石井、THE ALFEE、槇原敬之、さだまさし、ASKA、玉置浩二、TOSHI(現Toshi)など、そうそうたるアーティストが参加した。50周年を迎えた2010年には、森山良子、谷村新司、南こうせつ、さだまさし、THE ALFEEとザ・ヤンチャーズを結成し、The Beatlesの曲名をもじったタイトルの「座・ロンリーハーツ親父バンド」という楽曲をリリース。その10年後となる2020年には、バンド名を加山雄三&The Rock Chippersと改名し、「Forever with you~永遠の愛の歌~」をリリースした。
大のゲーム好きであることや若い世代の文化に明るいことも手伝って、若年層のアーティストからも愛されている。ももいろクローバーZとは『ミュージックステーション』での共演をきっかけに交流が始まり、『ももいろ歌合戦』にも昨年を含め4回出演している。2015年には、PUNPEEが加山の曲をカバーした「お嫁においで2015 feat. PUNPEE」が話題となり、2017年に生誕80年を記念して制作されたリミックスアルバム『加山雄三の新世界』には、PUNPEEやももいろクローバーZのほか、サイプレス上野とロベルト吉野、スチャダラパー、水曜日のカンパネラ、RHYMESTERなどラップ/ヒップホップアーティストが参加した。さらに仙台の野外フェス『ARABAKI ROCK FEST.13』への出演をきっかけに、翌2014年にTHE King ALL STARSを結成。メンバーには、キヨサク(MONGOL800)、佐藤タイジ(THEATRE BROOK)、ウエノコウジ(the HIATUS)など、ロックシーンの重鎮が名を連ねた。これだけ多くの、実に幅広い年齢層のアーティストからリスペクトされている存在は、他にいない。
80歳を過ぎた現在も若大将と呼ばれ続ける所以は、単に愛称だからという理由だけではないだろう。時代のトレンドを先取りするみずみずしい感性を何十年にも渡って保ち続け、今もなお精力的に制作活動を続ける。そうした姿勢やそこから生み出される作品が、世代を超えた多くの後輩アーティストやファンの心に、火を灯し続けているのだろう。